不変を強く望むがまま
赤羽せいからの突然の告白
ここが私が願った虚像の世界だということを
信憑性の欠片もない話にこれほど引き込まれる私は光を見たのかも知れない。
帰ってきた父
友達と豪語する水森さなの存在
クラスメートの変化
転校してきた赤羽せいという男の子
元いた世界にはどれも得ることが出来なかった物。
この場所は私の居場所となれるかも知れない。探しても見つからず諦めかけた世界に反してここは私の望むがまま。私が私でいられる場所。
――やっとみつけた
「8月31日までだよね、ここ失くなるの」
「ああ、そうだ」
「なら8月31日まで待ってくれない、私この世界にまだ居たい」
先程とは一転、思いをはっきりと告げた言葉の力強さに赤羽も納得した様子だ。
「念のため言っとくが8月31日まで。忘れるなよ」
再度の忠告に私は心に少しモヤを感じたが、間をおくことなく頷いた。
帰り道、少し薄気味悪い田んぼ道を一人トボトボと歩く。赤羽は家の門限らしくまだ聞きたいことがいくつもあったが、明日にでも話してやると上から目線な口調付きで言われ、言い換えしてやろうと思ったがその気も失せた。
明かりが灯った三階の奥のマンションは今日一日、疲れ切った身体を優しく包み込んでくれる温かさがひしひしと伝わってきた。
リビングには黒い膝丈まであるエプロンを身に着けた父が私の帰りを待ち構えていた様子ぶりで笑顔で迎えてくれた。誰かが私のことを待ってくれるなんてここ数年間はなかった。家に帰っても誰も居ない暗がりの部屋で固く冷たい固形物を食べていた。悲しいとか虚しいとかそういう感情は湧いてこなかった。そらが今までの日常だったから。けど今は違うということだけは分かる。これを幸せと言うんだな、この感覚を手にしてしまった私は、元いた世界に戻れるのか、また耐えれるのか。
私は考えるのをやめた