虚像なセカイ
「朝日さん、放課後話したいことあるけどいいかな」
美形転校生、赤羽せいの突然の誘いにクラスの女子達は活気に湧いていた。この男は私を付けまとう変人でもあり、転校初日を前にクラスで絶対的な地位に立っていた。
「夕夏を誘うつもりならまずこの私を通しなさい」
すかさず私の親友と勝手に宣言しているこちらも周囲が抜擢するほどの美形を持ち合わせたさなが反抗するが、その声は聞こえていないらしく私に集中攻撃をかけている。さなは私を護衛するかのようについて来るが、結果的には赤羽と同じ私をつけ回る人の一人となっている。
そのまま放課後まで時間が立ち、しぶしぶと放課後屋上に足を踏み入れた。さなを振り切るのは気力も体力も使ったが、何とか逃げ切ることができた。
屋上には当然、私を呼び出した張本人、赤羽せいが爽やかな笑みを私に向けて立っていた。気持ち悪いと思ってしまったことは心に伏せておくことにする。
「朝日さん、今日はつけ回してごめんね。君が逃げなければ穏便にすんだのに。」
小悪魔チックな発言をする赤羽は、目が笑ってなかった。
「早速本題だけど、君このセカイの住人じゃないよね。」
口をぽかんと開けた状態のまま、しばし時が経った。私の顔を見ても尚表情を一切崩さずにいられる赤羽せいは何を考えているのか。
このセカイ?住人じゃない?私は転校初日の同級生にもう馬鹿にされているのか、怒りしか湧いてこなかった。
「あの、転校初日に私をつけ回して、挙句の果てには何おかしな事言ってるんですか、私でも怒るときはあるんですよ。」
言ってやったという表情で睨み返したが、すかさず言葉を紡がれる。
「もしかして気づいてないの?そこまで馬鹿だったか、それは仕方ない」
今までのクールさはどこへ行ったんだが、口調が豹変し驚きを隠せない。
「はぁ…全く。これが本当にこのセカイの主人公なのか?抜栓ミスだろこれ」
「・・・主人公?何それ」
赤羽は盛大に溜息を付き呆れたと言わんばかりの表情で私を見つめる。さすがの私も我慢できず、苛立ちを見せた。
「お前みたいなダメダメな主人公にも分かるよう説明してやる。まず何も考えるな、疑問に思うな。分かったな?」
右手の拳を握りしめながら、今にでも飛び出る腕を反対側の手で押さえ付け頷く。
「まずお前はここのセカイの主人公だ。このセカイはお前の想像から作られた虚像のセカイ。」
「虚像?ここが?」
「ああ、実際お前も薄々気づいていたんじゃないか?例えば家族の様子がいつもとは違うとか、それか学校での変化とかもあるな」
私は今まで起こった事全てが赤羽が言っていることとの辻褄があった。
「だから、教室が六つもあったり変な子が急に話しかけていたんだ」
「まあそういうことだ。それでここからが重要なんだが、8月31日までにここを出ろ、絶対だ。今出てもいいが絶対に八月いっぱいまでにはこのセカイから出ろ」
疑問を抱くなと言っていたがすかさず訂正を加える。
「待って待って、ここを出ろってどうやって?」
「はあ??もしかして知らないのか?」
小さく頷く私に向けて赤羽は声を一段と低く言い張った。
「8月31日までに出なければ何が起きるか俺にも分からない。お前が元いた世界に戻れなくなるぞ」
私を見据えたまま、真剣に助言する赤羽の言葉は私の中で強く響いた。