届かぬ心はどこへ
窓から差し込む陽の光に照らされ、今日も私は目を覚ます。目を開けた瞬間に湧く絶望感に浸され、重たい身体を無理矢理にでも叩き起こす。静寂とした暗がりの部屋に、朝の知らせを伝えるかのような雀たちの鳴き声に嫌気をさすのは毎度のこと。ネガティブな思考になるのはいつにだってこの時間帯から始まる。外巻きのようにはねた寝癖を特に気にもしないまま、リビングに繋がる細く軋んだ廊下をスタスタと歩いていく。
悪い夢を見た。
父が帰って来た夢。
夢の中の父は私が想像していた人よりも、きっちりとした性格の人だった。家族を捨てて、出ていった父なのでてっきり廃れた人だと思っていた。
リビングに繋がるドアノブに手をかけ、飛び込んでくるのは特にいつもと変わらない光景なんだろう。当たり障りのない事を思いつつ、ドアノブに手をかける。
異変に気づいたのは一瞬だった。変化も見せないリビングに明かりが灯っていた。目を横に向けると、そこには夢の中で見た男性がいた。その人は私に気づくなり、味噌の香りがする錆びたなべの火を止め、声をかける。
私の日常が変動したのはいつ頃だったか
夜勤の母がいつもはソファーで薄い布団に包まりながら、寝息を立てているはず。その母は居らず父がいるこの状況。怖気を覚えたのは一瞬であり、その感情は父の些細な一言によってかき消される。
「ご飯できてるぞ、夕夏」
まだ夢を見てるのか、私は父が指定された椅子に腰掛け、湯気が湧くご飯をゆっくり咀嚼した。
父に見送られいつもの通学路を歩く。考えることを一旦停止した私は、穏やかな緑生い茂る草木達に目を向け、澄んだ空気を肺いっぱいに取り込んだ。一時の気の迷いを晴らすかのように群青色に染まる空を見つめるが、不安は積もりに積もり崩れかけている。
変動した日常は救いになるのか、それのも・・・
「・・・さん」
考えても答えは出ないまま、私の声はどこにも届かない