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このセカイでの主人公  作者: 水原稀世
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噂の神社



 四限目のチャイムが鳴り終えた直後、廊下に一斉に飛び出す男子達。お昼の限定パンを巡る競争が今日も繰り広げており、廊下中に熱気が湧く。私は、お弁当を毎朝早く起きてつくっているため、あの競争内に入らずに済む。時々、女子も限定パンを狙ってか男子の一部にパシらせて買いに行かせている。中心メンバーの力は強力なのだ。



 お弁当の包を開け、箸でボソボソと一人食べている時間は、静かで心地良いものだ。教室には女子が数人ポツポツと居るだけで、一人の私には憩いの地だ。前に座っている女子の二人は何やら小声で話していて、聞きたくなくても、私の耳まで聞こえて来ることは今まで幾度となくあった。流行りの服だとか、アイドルの話など、女子高生らしい内容に少しだけ羨ましく感じたのは何回目だろうか。 その中ででひときわ私の耳に突如入ってきた、『噂』という言葉に、私は興味本位で耳を二人の女子の方に傾けてしまった。




「そうそう、あの話でしょ」

「願いが叶う神社」

「陽の陰町の四番地の小さな神社に行って、願い事を言うと何でも叶えたくれるんだって」

「けど、噂だからねー。しかもあそこの神社古くて誰も来ないんでしょ?心霊スポット化されてるくらいだし」



冗談半分の口調で話す二人だが、私には何故か心の何処かに残るような感覚に感じた。気のせいだろう、噂なんて当てにならないのだから。自分に言い聞かせて、残りのおかずを口に放り投げた。



 放課後、部活動を所属していない私に目をつけてか、先生からの勧誘を渋々長時間聞かされていた。門を出た頃には夕日が落ちようとしていた。茜色に染まった空を見上げ、ふと何かが思考に過った。お昼休み話していた噂話が、頭の中で流される。なぜ今思い出すのか、遠くの景色を見つめ、帰路とは反対方向の道に足が動く。



 駄目だと分かっているが、所詮噂だと分かっていても、私は歩みを止められない。やっと足が止まった先は、赤い鳥居の前だった。たしかここは、噂の神社。心霊スポットにもなっている所だが、今の私にはそこまで恐ろしい場所には感じられなかった。所々、蜘蛛の巣が張ってあり、掃除はされていないようだ。意を決して、鳥居を通り過ぎ、垂れ下がった錆びた鈴の前まで立つ。お金は持ってきてないが、お参りくらいは神様だって許してくれるだろう。



 私はその場でお辞儀をして、鐘を二回、手を二回叩き、目を瞑ってお願いごとを心の中で強く唱える。



 ――どうか、私を、皆から愛されるような、主人公みたいな物語が起きて欲しいです。



 強く何度も唱えた、何分経ったか、カラスの羽ばたく音とともに目を開け、辺り中が暗く日が完全に落ちた事を察すると、急いで鳥居をくぐり抜け、帰路へと走る。



 夜の何時を廻っているか分からないが、母は夜勤の為、今頃は家を出ているだろう。今日も一人か。長い階段を登り、ドアノブの前まで立つ。キーホルダー付きの鍵を取り出し、鍵穴へ通す直前に異変に気づいた。


「鍵が開いてる…」


誰か家に入られた、もしかして泥棒か。様々な最悪の事態が頭に蔓延る。母さんに電話…は出来ない。自分で何とかするしかない。

私は恐る恐るドアを数センチ開け、明かりがついていることに気づく。なるべく音が出ないように全集中をドアに注ぎ、玄関ようやく入ることが出来た。リビングの前まですり足で歩き、人影がテレビに反射され思わず口を塞ぐ。泥棒だ、怖い。後ろに一步下がろうとしたが、足が絡まり、その場に盛大に転んでしまった。その音に気づいてか、人影が私の方へ向かって来る。 目をつぶり、もう駄目だと心の中で悟った。

 


 「夕夏か…」



 その声色は馴染みのある音。昔、何度も聞いた音。懐かしい、この声。



 「遅くまで何してるだ!心配したんだぞ!」



突如の怒声に私の意識は強制的に戻され、思わず目を開けてしまう。

 そこには長年ずっと家に居なかった、出ていったお父さんの姿がある。



 「・・・お父、さん?」



父は私を見るなり、溜息を一つついて手を差し伸べた。


 「ご飯出来てるぞ、母さんはまだ仕事だからな」



 私はこの瞬間、異変に気づいた。

 この場所に居るはずのないお父さんがいることに

 そして、一人ぼっちの世界に光が灯ったことに

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