天使な私の婚約者
前作の作品URLはあらすじにいれてありますが「そこまで読むのめんどい」という方向けの最低限の抑えてほしいポイント紹介。(前作を読まれている方は読み飛ばして問題ありません)
マアナ:マアナ・ド・リキュール。今作では19歳。前作では13歳の少女だった。元々は貧乏だった法衣子爵家の娘。優れた兄姉に囲まれてコンプレックスを抱いてたところを赤ちゃんの魅力でガツンされて婚約者であるロジンを好くようになった。
キャナルお姉様:マアナの実姉。美容系や服飾系の特許を多数持つ社交界の美容の星。
ロジン:ロジン・ド・ラ・プロヴァール。今作では6歳。前作では首も座ってないTHE・赤子だった。
私は13歳から19になった今になるまで「肌に負担を掛けない化粧術」を姉であるキャナルお姉様に教えてもらっていました。
お姉様は「若いんだからそんなに気にしなくてもいいのに」と言っていたけれど、私はロジン様が年頃になった時、おそらく30とか、そのくらいになってしまっているのでう。
今から気を使って居てもやりすぎという事はないと思います。
勿論、お茶会などに出るための化粧術もそうだけれど、普段からのお肌のお手入れも大事にしていて、その方面でもキャナルお姉様に協力してもらっています。
キャナルお姉様が提唱するまでは無かった乳液や化粧水(それまでは蜂蜜をお湯で溶いて塗るといったお手入れ法が主だったらしい)を身内価格で廻してもらって、手入れ過剰にならないように気を遣っています。
勉強もキャナルお姉様に見てもらう事が多いです。
こう一つ一つ挙げていくとキャナルお姉様には本当に頭が上がらなくなっていくわね、と思うけれど。
でも、良いのです。
私の頭がちょっと上がらなくなるくらいでロジン様と釣り合う夫婦になれるなら、私はどんなことでもできる。
そんな私は年の半分をロジン様のいるプロヴァール公爵領で、残りを実家のある王都で過ごしている。
今はプロヴァール公爵領で過ごす期間。
この期間は心が躍ります。
なぜならほぼ毎日ロジン様と顔を合わせられるから。
「マアナねーさま!」
「あらロジン。お勉強が終わったんですね」
「うん!えっとね、今日はさんすうとまどうのおべんきょうだったよ」
「そうなんですか。良かったらお茶を飲みながら、私に詳しい話を聞かせていただけますか?」
「いいよ。ええとね、さんすうはそろばんっていうのをつかってね。かけざんっていうのをやったんだけど。そろばんで2×4でいくつ数が動くかとかがわかりやすくてね……」
身振り手振りを交えて楽しそうに授業の様子を語るロジン様はとても良い子だと思う。
それも、周囲がガチガチに価値観を固めて作る良い子ではなく、自ら楽しみ学ぶ、生来から生きる活力に満ちているという意味での良い子。
そんな彼を労わるべくメイドにお茶とお茶菓子の用意をお願いする。
「ふふ、それは楽しかったですか?あ、お茶をお願いします。ロジンの好きなクルミクッキーも添えてくださいな」
「かしこまりました」
「クルミクッキー?食べていいの!」
「ええ、折角ロジンが私の顔を見に来てくれたのだからもてなさないと、ね」
「わぁい!」
無邪気に喜ぶロジン様の様子に、私の頬も綻ぶ。
笑い皺になってしまう、と頭の片隅を自重しようという言葉が過るけれど、それができない。
それだけ私はこの小さな婚約者に夢中なのだ。
「クッキーはお茶と一緒に持ってくると思いますから。それまで良い子で待てますか?」
「まてるよ!まさかマアナねーさま、ぼくがねーさまをほうってクッキーを食べに行っちゃうと思った?」
「ふっ。ふふふ!そんなことありませんよ」
「えー、ほんとうかなあ。マアナねーさまはぼくのことずっとこどもあつかいするもん。ぼくはいつまでもちっちゃなこどもじゃないのに」
「そうですね。ロジンは日々大きく育っています。でもまだまだ私には小さな子供。可愛い子です」
私がそういうと、ロジン様は首をこてんとかしげて、じーっと私の方を見つめてから言いました。
「それはぼくがマアナねーさまのほんとのこどもみたいってこと?」
「いえ。そういうわけではありません。客観的に見てまだまだロジンは子供で、大人ではないという事です。まあ、何も知らない方が見たら私とロジンを婚約者だとは思わず母子だと思うかもしれませんが……」
自分で言っていて、ずきりと胸が痛んだ。
でも平民だと15で婚姻して子供を産むのは珍しくないし、貴族の子女は事情があればそれより早く子をもうけることを求められることを考えれば13歳差で6歳と19歳というのは、「そういう関係」でもないことはないのだ。
私は、ロジン様の配偶者でありたいのに。
「ふーん。マアナねーさまがおかあさんに見えてないならいいかなぁ」
「……?それはまたどうしてですか?」
ドキリとした。
少し期待してしまう自分がいる。
こんな小さな男の子に、貴女は私の恋人なのだからと言われることを願ってしまう、どうしようもなくダメな自分が。
「あのね、おかあさんだとけっこんできないでしょ?マアナねーさまはぼくのおよめさんになるひとだもんね。おかあさんだとおもわれるとこまっちゃうよ」
……言った!言ってくれた!
嬉しい……今死んでしまってもいい……。
「マアナねーさま?どうしたの。おかおがまっかだよ」
「……なんでもありません。それよりも算数の時間は算盤を使って楽しかったようですが、魔導の授業はどんなことが楽しかったですか?」
「う?んとね。きょうのまどうのじゅぎょうはね……」
その後は、夢心地でクッキーを召し上がるロジン様(自分の分を食べ終わって私をもうちょっと食べたいなぁっていう視線で見つめてくるのがまた可愛らしかった)を愛でて、夕食の席でまた会いましょうね、と約束してから部屋から見送って。
プロヴァール公爵様から付けていただいているメイド達に外にでてもらって、私の長年の傍付きであるリキュール家のメイドであるカクテルだけが部屋にいることを確認した後。
「えへ、えへへぇ……『マアナねーさまはぼくのおよめさんになるひとだもんね』ですって……嬉しい……」
「お嬢様、顔を引き締めなさいませ」
「だって、だってぇ」
「お嬢様」
「今だけ……今だけだから……」
思わずにやけていた顔が険しくなってしまう。
そう。
こんな嬉しいことを言ってくれるのは今だけかもしれないのだから。
一番上のアルヴィンお兄様はそんなことなかったけれど、次男三男のベアお兄様とダイお兄様は思春期にはたいそうな反抗心を母に向けて発揮したものだったのを、幼心に覚えている。
母子のような年齢差の私とロジン様の間に、そういう葛藤が生まれないなどと誰が言い切れるだろう。
「……然様でございますか。お嬢様。夕餉の支度をする時間になったら参ります」
「お願いね、カクテル」
だから、今だけは。
素直に『ぼくのおよめさん』という言葉を反芻させてほしい。
ああ、ロジン様。
私の天使。
いつかその心が青年になっても、どうか私の事を「ばばあ」などとお呼びになりませんように……。
できうる限り、貴方の為に綺麗な私でいますから。
どうか、どうかお願いです。
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またちょっとだけ続いてしまったんですが、おねショタというよりショタおねになってしまいました。
それでもいいという方はどうぞこちらもお楽しみください。