観測
其れに気が付いたの偶然だった。
視界の隅。
其処に此方を伺う男がいた。
思わず視線を重ねるとごく自然にその場を離れた。
その時は何も考えず。
何も感じずにいた。
黒ずくめの男に。
黒いサングラス。
黒いスーツ。
黒い革靴。
明らかに怪しい風情の男。
なのに僕は何も感じず見逃した。
と……思う。
黒ずくめの男を見た瞬間ラジオの音を聞いたから。
ラジオの音。
鉱石ラジオの音を聞いた途端僕は興味を無くした。
筈だ。
そこら編の記憶が曖昧だ。
ボケたかな~~僕。
まあ~~いい。
次に見つけたのは居酒屋。
僕が飲んで居る時にそいつは現れた。
黒ずくめの男。
容姿は違う。
だが同じ格好だ。
黒いサングラス。
黒いスーツ。
黒い革靴。
此のときも同じ様に僕はラジオの音を聞いた。
まあ~~いいや。
同じ格好をした奴なんて幾らでもいる。
……多いな……黒ずくめの男。
行く先々で僕は黒ずくめの男を見る。
何故か全員違う容姿の男だが。
だが何時もラジオの音を聞く。
其の途端興味を失う。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
そうした日々が続いたある日。
僕は何気なく振り返った。
偶然だ。
そう偶然。
――ジジッ。
景色がブレた。
景色にノイズが走って見えた。
慌てて黒ずくめの男がその身で僕の視界を遮る。
そうして鉱石ラジオの音が聞こえる。
興味が無くなる……。
筈だった。
何かを浴びる感触がした。
其れと何かを壊す音。
「こいつだっ! こいつを殺せっ」
見たことのない者たちが黒ずくめの男達を殺していた。
黒ずくめの男の血が僕に掛かったのだ。
其れを止める黒ずくめの男たち。
黒ずくめの男たちは僕を何故か守っていた。
「馬鹿野郎此の方を殺せばこの世界はっ!」
「知るかっ! 真の自由を得るためだっ!」
言い争う集団。
「真の自由?」
「聞くなっ!」
僕の言葉に反応する黒ずくめ男。
「俺たちは生死の権利位自分たちで決めたいんだっ!」
「言うなっ!」
見知らぬ者を止める黒ずくめの男。
え?
生死?
何の事だ。
「此の世界はお前を殺せば……」
この言葉を聞いた途端僕の体に激痛が走る。
視界一杯に広がる紅い液体。
其れは僕の血液だった。
大量の。
こうして僕は意識を失った。
「また失敗ですよ」
「またか?」
「はい」
「以前もだよな」
「そうですね」
「次世代観測型仮想創造神は無理かな~~」
「何で仮想世界の創造神ってすぐ死ぬんでしょうね?」
「色々対策してんだけどね」
「神として孤独で自殺したな」
「そうならんように人間を模倣した人工知能に偽装したりしたのに」
「他には実は仮想創造神という重みに耐えられず死んだり]
「不足の事態になったら鉱石ラジオを聞かせることで記憶を消す暗示をしたりしたんだが……」
「後は興味を失うように誘導する暗示とかね」
「終いにはこの世界を好き勝手に操っている黒幕にされたりとか」
「此れで三千回目の失敗ですよ」
「次にこそ上手く行けばいいな」
「ええ」
「其れで次の次世代観測型仮想創造神の名前はどうします?」
「ヤハウェで良いだろう」
「今度こそ上手く行けば良いな」
「ええ」