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部屋で指輪を眺めていると、ノックもそこそこにガーベラが入ってきました。今まで自室にだけは入って来なかったので安心していたのですが、遂に私の居場所はどこにも無くなってしまった気がしました。
そんな私にお構いなしに、ガーベラは勝手に話し始めました。
「なによ、何も無いしけた部屋ね。ねえ、明日ハイドランジアに行くんでしょ?」
事情を知っているのでしょうか。私は何と返したらいいかわからなくて戸惑ってしまいました。
黙っていたら手を上げられるかもしれないと思い、私は何とか声を出しました。
「何か用ですか?」
「姉さんに伝えたいことがあるのよ」
姉さんなんて言われたのは初めてかもしれません。いったい何を企んでいるのでしょうか。
「昨日お母様に聞いたのだけど、私と貴女って母親は違うけど血が繋がってるらしいの。私、貴女のお父様の本当の娘なんですって」
この女は何を言っているのでしょうか。もし本当であれば、あの男はお母様を私が生まれた頃からずっと裏切っていたことになります。
「ねえ、聞いてるの?」
「ごめんなさい、少し驚いてしまって」
「本当に愚図ね。私達って同じお父様の娘なのにここまで違うのは母親の出来の違いかしらね。お父様も出来の良い私に家を継がせたいみたいよ。貴女には少し同情するわ。まあ言いたいのはそれだけよ。さようなら、姉さん」
言うだけ言うと満足したのか、ガーベラは嫌な笑い声を上げながら踵を返して立ち去りました。
私は悔しくて悔しくて涙が止まらなくなりました。ガーベラが外で聞き耳を立てているかもしれないので、必死に口を押さえて声を殺そうとしましたが嗚咽が止まりません。
私がこの家を追い出され、命を奪われることも許容できることではないのに、私が治癒魔法を使えないばかりに私の大好きなお母様があのように馬鹿にされ、お父様には最初から裏切られていたと聞かされては、私の我慢も限界です。
あの外道のような人達の思い通りに命を投げ出すつもりは無くなりました。私はこの家から出て、自分の人生を送りたいです。
でも、今から家を飛び出しても万が一追われて連れ戻されたら、どんな目に遭わされるかわかりません。
明日からのハイドランジア侯爵領への移動を逆手に取って、何とか逃げ切ろう。そう考えました。