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ガーベラはすぐに衛生兵として王宮に勤めるようになりました。
好成績で入団試験に受かったガーベラは稀代の聖女と持て囃されて、随分と浮かれていました。
そんなある日、私はアザレア様とお父様の話し声を耳にしました。
「ガーベラが聖女だって褒められているのは、あなたも聞いてらっしゃるわよね?それがお父様の耳に入って、ハイドランジア侯爵家に養子にどうかなんて言い出しているのよ」
「え?それは困るよ。ガーベラは私達の宝物じゃないか。みすみす他所の家なんかにやれないよ」
「そんなことを言ったって、この家の当主は正式には治癒魔法が使えないあの能無し娘ですのよ?ガーベラはいつか伯爵家から嫁に行かなくてはならなくなるわ。それよりは侯爵であるお父様の養女として嫁に行く方が良いと思うの」
ガーベラが居なくなるかもしれない。その可能性に私は胸が高鳴りましたが、次の瞬間絶望に突き落とされることになりました。
「フリージアにはいなくなってもらって、ガーベラに家督を継がせたらいいんだよ。近々何とかするから、お義父様には上手く言っておいてくれないかな」
「あら、貴方がそこまで言うなら仕方ありませんわ。でも絶対何とかしてくださいませ」
私は恐ろしくなって、音を立てないように急いで部屋に戻りました。今のままこの家にいては命を奪われるかもしれません。その日は一睡もできませんでした。
数日後、私はお父様に呼び出されました。
ガーベラが入団試験に合格したお祝いをハイドランジア侯爵から貰ったので、当主としてお礼に行ってほしいと言われました。
取って付けたような用件に、私は来るべき時が来たのだと思いました。ハイドランジア侯爵領は山一つ越えた先にあります。私はこの道中に消されるのでしょう。
死ぬのは怖いです。でも、もうこの人生にも疲れました。お母様が亡くなってから良い事なんて一度もありませんでした。毎日この家で蔑まれ嘲られ叩かれ、心身ともに限界です。
信じていたかったお父様に裏切られてはもう希望はありません。私はその話を了承して部屋に戻りました。