毛玉ウサギとお友達
お子様に読み聞かせられる話を意識してます。
耳の短いウサギがいました。
体の毛よりも耳が短いので、白いまん丸に見えます。
耳の短いウサギは他のウサギたちから「毛玉」と呼ばれてバカにされていました。
しかもこの毛玉ウサギ、足がと~っても遅いのです。
「やい、毛玉! そんなに短い耳で、本当にウサギなのかい?」
「ウサギなもんか。こんなにノロマなウサギ、いる訳ない」
意地悪な二羽のウサギが、今日も毛玉ウサギを笑います。
毛玉ウサギは悲しくて、メソメソ。メソメソ。
すると、近くを通りがかったカメがやってきました。
「こら! イジワルをするな!」
カメの大きな声に驚いて、二羽の意地悪ウサギはピョーンと逃げていきました。
「助けてくれてありがとう」
毛玉ウサギはカメに頭を下げました。
カメは得意気に首を揺らします。
「どういたしまして。それにしても、どうして泣いていたのかね?」
「ぼくはウサギなのに耳が短いんだ」
「耳が短いと何か困るのかい」
「カッコ悪いんだ。だからみんなにも、毛玉って呼ばれて笑われてるんだ」
「毛玉か。他のウサギ共と違って名前があるなんて素敵じゃないか」
毛玉ウサギはびっくり。
そんな事、今まで考えた事もありませんでした。
「そうか。ぼくだけの名前があるなんて、何だか嬉しくなってきたよ」
「それは良かった」
でもまだ少し、毛玉ウサギは元気がありません。
カメは不思議そうに首を揺らしました。
「まだ何かあるのかね?」
「ぼくはウサギなのに、足がとっても遅いんだ」
「足が遅いと何か困るのかね?」
「みんなについて行けなくて、一緒に遊べないんだ。だから仲間外れにされちゃうんだ」
「なるほど、なるほど」
カメは少し考えて毛玉ウサギの隣に座りました。
「実は、ワシも他のカメたちから仲間外れにされている」
毛玉ウサギはまたまたびっくり。
こんなに優しいカメがどうして仲間外れにされているのでしょう。
「ワシはカメなのに、足がとっても早いのだ」
「そうなんだ。すごいじゃないか」
「だが足が早すぎて、みんながついて来られない。おかげで今は一人、気楽なものさ」
毛玉ウサギは不思議に思います。
「一人ぼっちじゃ寂しくないの?」
「一人ぼっちは寂しいさ。でも今は、寂しくないさ」
「そうか。ぼくと話してるから、一人ぼっちじゃないのか」
そういえば、毛玉ウサギも今は寂しくありません。
毛玉ウサギはカメと友達になろうと思いました。
「ねぇカメさん。またぼくと話してよ」
「もちろんだ。じゃあまたな、毛玉」
カメは軽く首を振って、ササッと行ってしまいました。
毛玉ウサギは嬉しくなって、ゆっくり、ゆっくり家に帰りました。
「毛玉」と呼ばれて嬉しい日が来るなんて夢のようでした。
その日以来、毛玉ウサギとカメは毎日のようにお話しました。
毛玉ウサギがどんなに遅れていても、カメはササッと迎えに来てくれます。
もちろん話すだけではありません。
足の遅い毛玉ウサギを背中に乗せて、カメはササササッと、遠くまで連れていってくれます。
毛玉ウサギが他のウサギにイジワルされると、カメは大きな声で叱って助けてくれます。
毛玉ウサギはメソメソする事がなくなりました。
いつもカメが助けてくれていたからです。
でもしばらくして、毛玉ウサギは少し不安になりました。
「カメさんはいつもぼくに良くしてくれるけど、ぼくはカメさんに何をしてあげているのだろう」
毛玉ウサギはカメに聞いてみようと思い、いつもより早く家を出ました。
ゆっくり、ゆっくり。
すると少し離れた所から「おおーい。助けてくれー」という声が聞こえてきました。
カメの声です。
毛玉ウサギは大慌てでカメの元へ走ります。
のそのそ、のそのそ。
やっとの思いでたどり着くと、まぁ大変。
カメがひっくり返って動けなくなっていました。
毛玉ウサギはよいしょっと、カメを起こしてあげます。
「カメさん、大丈夫?」
「あぁ、ありがとう。毛玉のおかげで助かった」
カメは嬉しそうに首を揺らしました。
毛玉ウサギも嬉しくて鼻を鳴らします。
「どういたしまして。ぼく、初めてカメさんの役に立てたから嬉しいよ」
「初めて? 何を言うか。毛玉はいつもワシを、一人ぼっちにしないでくれてるじゃないか」
どうやら毛玉ウサギは、自分でも気付かない間にカメを助けていたようです。
「じぁあこれからも一緒にいるよ。カメさんがまたひっくり返った時は、ぼくが起こすね」
「じゃあワシは、これからも毛玉を運んで色んな所に連れていってやろう」
毛玉とカメは顔を見合わせて笑いました。
こうして仲良しの一羽と一匹は、これからもずっとずっと仲良しの友達になりました。