私、異世界生活始めちゃいました。その4
やってきましたよ、異世界タカマガハラの商店街。
商店街とはいうものの、なんかやたら高いビルが並んでてどれが何の店なのかよく分からないなぁ。
とりあえず、ユズキのくれた地図に書いてある衣料品オススメの店とやらに入ってみることにした。
「いらっしゃいませ。どのようなタイプのお召し物をご所望されていますか?」
入って早々店員さんらしき金髪女性に声をかけられてしまった。
むう……こういうの苦手なんだけどなぁ。
まぁここで逃げ出すのもあれだし、ちゃんと話しよう。
「えっと、この子が着ているみたいな服があれば良いんですけど、ありますか?」
「女性用の和服でございますね。それでしたら、十階にございますのでエレベーターをご利用ください」
「はい、ありがとうございます。あ、ついでに洋服は何階にありますか?」
「女性用の洋服は九階でございます」
「わかりました。ありがとうございました」
店員さんにお礼を言い、私達はエレベーターホールからエレベーターに乗りとりあえず十階へ。
十階は見渡す限り様々な和服が売られていた。
なんかすごいな……見渡す限り和服だらけって、日本じゃなかなかお目にかかれるものじゃないし。
と……ぼーっと見てちゃいけない。
刹那に似合う和服見繕わないと。
「刹那、どれがいい?」
「私はこれが良いです」
そういうと刹那は真っ黒の無地の和服を手に取った。
「あんた地味なのが好きなの?」
「地味……でしょうか?」
女の子なんだからもう少し見た目くらい気を付けなさいよ。
せっかく可愛いのにもったいないなぁ。
まぁ天使なのか死神なのか分かんない子にそう言ってもしょうがないのかもしれないけど。
「ま、あんたがそれで良いっていうなら無理強いはしないけどさ」
「はい」
私の言葉に刹那はにこやかに微笑む。
どうやら刹那の意志は固そうだ。
そんなわけで私はお店の人を呼んで仕立ててもらうことにした。
「お客様、丈の方はちょうど良いみたいですね」
「じゃ、この背中のとこに二つ穴開けてくれないかしら」
「穴……ですか?」
「そそ。ちょうどこの子が着てる服みたいな小さい穴で良いから」
「えっと……あら……こちらのお客様は羽が生えている方だったんですね」
何だか納得いったといった感じで店員さんは刹那の寸法を取り和服に穴を開け始めた。
ていうか、あんま驚かなかったな、この店員さん。
羽が生えてるのって、この世界の人からしたらあんまり珍しくないんだろうか。
ま、いっか。
しばらくして。
「お客様、仕立て終わりましたので一度着てみてくださいますか?」
店員さんに奥へと案内され刹那は新しい服を持って試着室へと入って行った。
で、待つこと更に数分。
新しい服を身に着けた刹那が試着室から出てきた。
「よくお似合いですよお客様」
と店員さんは言うのだけれど。
なんというか……まったく変わり映えしない。
元々の恰好も真っ黒の和服だったからまったく変わらないっていうか。
今とさっきとどこがどう変わったのかさっぱり分からない。
けれど刹那はどこか嬉しそうな表情をして。
「ありがとうございます、奏さん」
そう私に極上の笑みを浮かべて礼をする。
ま、気に入ったなら良いんだけどさ。
その後、洋服や下着の階を見て回ったのだけど。
驚くほど日本と変わらない普通の品揃えで。
ホント、ここは異世界なんだろうかっていう感じだった。
―――
で、その帰り道。
どうせ商店街に寄ったんだからと生田亭で夕食を食べて帰ることにした。
ユズキの地図の通りの場所に行くとこの異世界の繁華街に似つかわしくない超和風な建物が一軒立っていた。
その建物の軒先の看板には大きく『生田亭』の文字。
なんというかホント変なのと思いつつガラガラと扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
控えめな声でそう声をかけられる。
あれ……今日は違う子ぽいなと思っていると。
緑色の髪を両側で結んだ背の低い少女が私達の前に現れた。
「お二人様ですね。どうぞこちらへ」
少女に案内されるまま私達は席へとつく。
「ご注文は何にしましょうか?」
「えっと……メニューこれかな。それじゃ今日のオススメ定食でいっかな。刹那もこれでいいよね?」
「はい。私は奏さんと同じもので構いません」
「じゃオススメ定食二つでお願い」
「わかりました。それじゃ、しばらくお待ちくださいね」
そう言ってパタパタと音を立てカウンターの奥へと少女は駆けて行った。
この前のピンク髪の子も可愛かったけど、今日の子も凄い可愛いなぁ。
これぞ清楚系美少女っていう感じだ。
刹那も清楚系美少女だけど、またちょっと違った魅力がある感じだった。
忘れないうちにメモしておこう、メモメモ……。
「あの……もしかしてですけど、私の家のお隣に引っ越してきた野々村奏さん、ですか?」
いつの間にか水を持って戻ってきていた少女にそう声をかけられる。
「そうだけど……。ん?お隣さん?」
「はい。わたくし、サクヤ=アサマと申します。ユズキさんからお話うかがっていました」
「なるほど」
そういうことか。
それにしてもこんな美少女がお隣さんなんて私めちゃくちゃラッキーじゃん。
「どれだけこの国にいるかわかんないけど、その間よろしくね、サクヤ」
「はい。こちらこそよろしくお願いしますね、奏さん。それと刹那さんも」
サクヤはそう言うとニッコリと微笑んで再びカウンターの奥へと戻って行く。
その様子を見ながら私はしばらくの間、サクヤの微笑んだ顔に魅了されてしまい固まってしまっていた。
あの笑顔はちょっと反則過ぎやしないかい。
そう心の中で呟きながら。