私、また異世界に来ちゃいました。その2
「なぁ……本当にそのちんちくりんな小娘があの永久だというのか」
タカマガハラに再び戻ってきて数日後、私達は皇照宮へとやってきていた。
「ちんちくりんなお前にだけは言われたくないぞ、人間よ」
テラスちゃんの言葉にそう言い返す永久。
まったくこいつは……。
「永久よ、おまえ私の天叢雲剣の錆にしてやろうか?」
「すいません、この子、口が悪くてっ」
言いながら刹那は永久の頭を軽く小突く。
「く……覚えてろよ、刹那」
「はぁ……まったく……お前たちの様子を見てると一年前のでき事が嘘みたいだな……」
「あははは……ごもっともです」
私はそう苦笑いをこぼすしかなかった。
「で、これからどうするつもりだ、奏よ」
「まだそれは決めかねてます……」
タカマガハラに舞い戻ってから創作意欲がわかないって言うのもあるんだよね。
今、刹那がここにいることに幸せを感じてしまっているというか。
そういうのもあるのかな。
「そうか、それなら柚木の手伝いなんてどうだ?」
「……そうですね……考えておきます」
「お前が居れば、私も気兼ねなく日本に遊びに行けるというものだ」
「陛下っ。そんなに国を離れられては国民が困りますっ」
キクリ先生が慌ててテラスちゃんにくぎを刺す。
「冗談だ、キクリ。まぁなんだ。日本に行く時はぜひ誘ってくれよ、奏」
「あ……はい。分かりました……」
「何と言うか、気乗りしないっという感じだな?」
「いえいえ、そんな事はないですよ。ただ……」
「ただ……なんだ?」
「いえ。何でもありません。大規模即売会、一緒に参加しましょう」
「うむ……楽しみにしておるぞ、奏」
テラスちゃんは本当に楽しみにしているような顔で私を送り出してくれた。
でも……んー……ホント創作意欲がわかないんだよね。
はぁ……どうしちゃったんだろ、私。
―――
生田亭で昼食をとってると久しぶりに騒がしい二人組に会った。
アカリと桜花だ。
そして桜花は赤ちゃんを背負っていた。
店番してたヒルコもなんか赤ちゃん二人背負ってたし。
「名前はヒルノとカコなんやでー、めっちゃ良い子達やろ」とか言ってのろけられた。
にしても、なんなのこれ。
タカマガハラ中ベビーブームかなんかなのこれ。
「……ねぇ、もしかしてその子も陽花の子とか言わないでしょうね?」
「あははは、まっさかー。私と桜花の子に決まってるじゃない。名前は灯花だよ」
「あっそ……さすがにもう驚かんわ……」
言いながら私は丼のご飯をたいらげる。
「えー……奏さん、冷たいんだー」
「ねえ奏。ほら見てよ、この子。アカリに似て真っ赤な髪の毛で真っ赤な瞳。超可愛いでしょ」
「はいはい、可愛い可愛い」
「めっちゃ投げやりだね、奏」
「うん。もう槍投げたら百メートルくらい簡単にオーバーするわよ、きっと」
「それは本当に超投げ槍だね」
「それぐらいどうでも良いって事よ、まったく……」
私達が永久と戦ってた時に、こいつらもイチャこらしてたと思うとよけい腹が立つ。
「永久。あんたもなんか言ってやんなさいよ」
「人間、貴様らのことなどどうでもいい。だから、おかわりをよこせ」
「はいはい、ただいま。って私店員じゃないんだけどっ!!店員はあっちにいるヒルコなんだけどっ!!」
永久の丼を受け取りながらアカリは抗議の声をあげる。
「フン……ここの飯はうまいな気に入った。奏、これからはここで食事をとることにするぞ」
「はいはい。じゃあそうしますかね」
「ねぇ、聞いてる?聞いてる?聞いてないよね、そこの二人!!」
騒がしいアカリを無視して私達はのんびりと生田亭での昼食を楽しむ。
けれど……。
私の心は何処か満たされていなかった。
―――
「久しぶり、奏」
「うん久しぶり……になるのか、陽花達にとっては」
陽花に呼ばれて私達は陽花達の会社・高千穂の事務所へとやって来ていた。
「永久、あなたちゃんと謝りなさい」
そう言って刹那は永久に謝罪を促す。
「う……まぁなんだ……。殺しかけてすまなかったな」
「ううん。いいんだよ、永久。私、この通りピンピンしてるし」
腕まくりして陽花は元気ですよアピールをする。
「ほんと、あんたも変わってるわよね。仮にもあなたを殺そうとした相手なのよ?」
「それを言ったら奏だって同じだよ。奏なんてバッサリ殺されちゃったって聞いたよ?」
「あははは、そりゃそうだったわ。すっかり忘れてた」
「でもまぁ、元気そうで安心したよ、奏」
「うん。私も。なんか少し大人ぽくなったんじゃない?陽花」
「そりゃまぁ一年経ちましたし。今じゃ二児の親なんだよ?これでも」
「そっかー……そういやそうなんだっけ。てことはもう陽花は私と同い年か」
「あー……そういうことになっちゃうんだね」
「もう気兼ねなくタメ語で良いわよ」
「あははは、最初から気兼ねなんてしてないから」
「そっか。なら良かった」
「うん。私も……。ってあれ……おかしいな、嬉しいはずなのになんか涙出てきちゃった。ごめん……」
言いながらグスグスと涙を流し始めた陽花の事を、私は立ち上がって抱きしめていた。
「ありがとね、陽花。もうどこにも行かないからさ……」
「うん……うん……。これからもよろしくね……、奏」
涙を流しながら陽花は私に微笑みかけてくれる。
ああもう。
なんでこの子はこんなにいい子なんだろう。
私も涙出てきちゃったじゃない。
陽花に気付かれないように私は眼鏡を拭くふりをして熱くなった目頭を慌ててこする。




