私、また死んじゃいました。
「私は瞬と申します」
刹那にそっくりな少女はそう告げる。
「私は野々村奏。よろしく」
「あ、はい、存じております。よろしくお願いしますね、奏さん」
そう言ってペコリと頭を下げてくる。
「それで、私はこれからどうなっちゃうの?瞬」
「はい。奏さんはちょっとここで待つように言われてまして」
「待つってどういうことよ?」
「さぁ……それが天の神様からのご指示ですので」
「あのクソジジイか……」
「あのー……クソジジイはよくないですよ?」
「いいのよ、あんなクソジジイはクソジジイで」
「ホッホッホ……相変わらずのようじゃなっ!!馬鹿娘よっ!!!」
言葉と共に天から降ってくる天の神ことクソジジイ。
相変わらず背景に集中線が入ってそうな語尾でうざったいったらありゃしない。
「とりあえずじゃっ!!此度の事、本当にすまなかったなっ!!!」
「あのさー……それで謝ってるつもりなの?」
めっちゃ上から目線で謝ってるから全然申し訳なさそうに見えないんですけど。
「しょうがなかろう!!これが儂の性分なのじゃからなっ!!」
「はぁ……まぁ別に良いけどさ……」
ここにあのネタ帳があればまたロードローラー呼び出して墓石立ててやるとこなのに。
まったく惜しい能力を失くしたものだ。
「で、これから私はどうなるのよ」
「それなのじゃがっ!!今回のお主の死は永久の暴走によって起こった死じゃっ!!じゃから再び生き返らせようかと思うっ!!」
「まじでっ!?」
「大マジじゃっ!!!もしくはお主が望むなら輝かしい来世とやらでも構わぬぞっ!!!」
「まじか……」
なんだこのクソジジイ、いいとこあるじゃん。
生き返るのか、輝かしい来世か選ばせてくれるなんて。
「んー……それじゃさ、ついでなんだけど刹那も生き返らせてあげてくれない?」
「それはならぬっ!!!」
「なんでよ!ケチ!!」
刹那も永久の暴走の被害者じゃないのっ。
「刹那先輩の死によって私が生まれたんです。ですから刹那先輩そのものを生き返らせることはできないんです」
隣に居た瞬は私にそう説明する。
「つまり……どういうこと?」
「私の中に刹那先輩の記憶が……今までの『刻の番人』の記憶が宿っているのです」
「それじゃ、刹那を元の刹那にして生き返らせることは……」
「残念じゃが、できぬのじゃっ!!!」
そっか……。
はぁ……相変わらず役に立たないクソジジイだな。
それだったら生き返っても意味ないかなぁ……。
綺麗さっぱり気軽な来世を希望しちゃおうか。
ん……でも待ってよ?
「瞬に今までの『刻の番人』の記憶が宿っているんだったら新しい『輪廻の番人』の方にも永久の記憶が受け継がれてるんじゃないの?」
「その辺は大丈夫じゃっ!!永久の記憶は抜き取り封印しておいたっ!!!」
「ふーん……それなら安心……」
ってちょっと待って。
今このジジイなんて言った?
永久の記憶だけ抜き取ったって言ったよね。
それってつまり……。
「ねぇクソジジイ。刹那の記憶だけ抜き取ることってできないの?」
「それはできるっ!!!」
「じゃあその記憶を元に別の肉体を再生することは?」
「それもできるっ!!!」
「じゃあそうしなさいよっ!!!このアホっ!!!!」
言いながら私はクソジジイに殴りかかる。
「フン……効かぬわ!!!この馬鹿娘がっ!!!!」
「あんたができる事しようとしないから殴りかかってんのよ、このクソジジイ!あんた脳みそ詰まってんのっ!?」
「詰まっておるわっ!!!しれものめっ!!!まぁよかろうっ!!お主は世界を救ったのだっ!!これぐらいのサービスはしてやろう!!」
「それでは……神様」
そう言って瞬は天の神様の元に歩み寄る。
「お主の中の刹那の記憶もらい受けるぞっ!!!」
神様がそう告げると瞬の体は光り、瞬の隣に別の人影が形作られていく。
「あ……あれ……私……」
「刹那っ!!」
私はその人影に向かって抱き着く。
背中には天使の羽なんかないけど正真正銘の刹那だ。
「あれ?奏さん……私……どうして?あれ……?天の神様?」
「刹那よっ!!お主はこれから普通の人間として生きていくのじゃっ!!!」
「あ、はい……。わかりました……」
私に抱きつかれながらそう呟く刹那。
「あの……永久は……。永久はどうなったんですか?」
「永久の記憶は儂の手で封印したっ!!!」
「そう……ですか……」
「どうした、刹那よっ!!何か言いたければ申してみるがよいっ!!」
「でしたら……永久も人間として蘇らせていただけませんでしょうか?」
な……。
何言ってんの、この子はっ。
散々私達をつけ狙ってきたやつを生き返らせるだ?
お人好しにも程があるよっ。
「永久も人間と関わればきっと考えを改めてくれると思うんです。だからお願いしますっ」
「ふむ……まぁ普通の人間としてならば害にはならぬであろうっ……!!」
まじか。
まぢなのか。
もうちょっと考えて発言しようよ、この脳みそポンコツクソジジイ。
「しばし待っておれっ!!」
そう言うとクソジジイは何処かへと去って行った。
「刹那、なんで永久を生き返らせるなんてこと……」
私は刹那にそう疑問を口にする。
「永久も、奏さん達と生きていけば考えが変わるんじゃないかって……そう思うんです」
「あの永久が?」
「はい。私は奏さん達が私の為にしてくれたこと、本当に感謝してるんです」
「いや、それは刹那の為じゃなくて……」
世界の安定と私の輝かしい来世の為……。
だったんだけど、いつの間にか刹那の為になってたなぁ……。
「私の為じゃなくて?」
「ううん。やっぱ刹那の為だったわ、ごめん」
私は刹那に笑いかける。
「だから、私は奏さんの事、大好きなんです」
そう言うと刹那は私と口付けを交わす。
「……お主たちっ!!!」
気付いたら一回り幼くなった永久を連れたクソジジイが戻ってきていた。
「イチャつくのもよいが程ほどにするがよいっ!!」
「す、すいませんっ!」
本当に申し訳なさそうに平謝りする刹那。
「フン……何のつもりだ、刹那よ」
幼くなって羽も無くなったのに口調はそのまんまなのね。
なんかむかつくクソチビだなぁ。
「これから私達は人間の世界で人間として生きていくんですよ、永久」
「……私はそんなこと頼んでいないぞ」
「良いから、生きていきましょう。きっと楽しいですよ」
「フン……楽しめなければお前の事をこの天地神明刀で殺すからな」
そう言って刀を召喚する永久。
その刀を召喚する能力は残ってんのね……。
あんま永久に近づかないようにしよう。
そうしよう。
「ええ。その時はご自由にどうぞ」
言いながら刹那は永久に微笑みかける。
はぁ……。
どんだけお人好しやねん、刹那は。
「それでは、この扉をくぐるがよい!さすれば再び彼の異世界に降り立つことができるであろうっ!!」
そして再び現れる金色に輝く扉。
「それじゃ、行こうか、刹那」
「はい。ほら、永久も一緒に」
「フン……しょうがないからつきあってやる」
そうして私達三人は金色に輝く扉をくぐりぬけ再び異世界に降り立つことになった。




