私、異世界生活始めちゃいました。その1
一通りさっきの少女の特徴をネタ帳にメモした後。
私と刹那は広げられたまぐろ丼や漬物に手をつける。
「ん……え……これ、美味しい……」
何これ何これ。
何で異世界なのにこんな美味しい和食があんの?
やばいやばい。
めっちゃやばい。
これめっちゃおいしいよ!!
無我夢中で箸をすすめる私。
「気に入ってもらえたようで良かったよ」
「んぐ。ほれ、めちゃめちゃほいしい!!」
ユズキの嬉しそうな声に、私は口に含んだまんま答える。
ちょっとはしたないけど。
おいしいものはおいしいんだからしょうがない。
刹那も何だか幸せそうな顔で私と同じく箸をすすめている。
天使なのか死神なのかよくわかんないけど、その辺の味覚は私達とあんまり変わらないようだ。
そして夢中になって食すこと十数分。
「ごちそうさまでした」
「うん。じゃあそれでさっきの続きなんだけど、二人の当面の滞在先はうちの社員寮で構わないかな」
「それでお願いできるならそうするわ。できれば、この世界の事も色々教えて欲しいし」
この世界のこと右も左も分からないことだらけだしね。
「うん。そのつもりだから安心してくれていいよ」
「ホント、あんたってお人好しよね」
「いやいや。一応これもお仕事の一環ってことになるのかなぁ、たぶん」
「この会社の仕事って何なのよ」
「カムイを使って世界の平和を守る事、だよ」
「……」
何言ってんだコイツ……。
いくら魔法みたいな力を使えるからってホント何いってんだコイツ。
世界の平和を守るだ?
それができたら国連も警察もICPOもいらんちゅうねん。
「あ、その目は信じてないね」
「そらそうよ。何をもってそれを信じろと」
「んー……まぁボクらの活動は目立たないように地味に活動することだしね。しょうがないかな」
「百歩譲って世界平和のために働いてるとしましょう。で、実際何やってんの?」
「隕石の破壊とか、テロを未然に防いだり……かな?」
今なんて言った?
隕石の破壊にテロを未然に防ぐ?
待て待て待て待て……。
カムイってのはそんなこともできんの?
「マジか」
「うん。割と大マジ」
『描いた絵が実体化する能力』ってすごい力もらっちゃったって喜んでたけど。
カムイの方がよっぽどすごい力なんじゃないの、もしかして。
「はぁ……もうなんか刹那の記憶の星探しやってける自信無くなってきたわ……」
「あははは……まぁそう言わずに。刹那さんのために頑張って奏さん」
ユズキの愛想笑いを聞きながら私は大きなため息をつくのだった。
ぐんにょり。
―――
「じゃ、この部屋、自由に使ってもらって良いから」
事務所のビルを出て数分の建物の二十五階にやって来た私達はユズキから部屋の鍵をうけとる。
「ん……ありがと」
「一応インスタントラーメンなんかがあるはずだから晩御飯はそれで我慢してね」
「何から何までありがとうね、ユズキ」
「いえいえ。それじゃまた明日。奏さんに刹那さん」
「またね、ユズキ」
私の言葉を背に受けヒラヒラと手を振ってユズキは事務所へと戻って行った。
うーん、自由に使って良いって言ってもなー……。
とりあえず。
「刹那、今日は疲れただろうからもう休んでても良いわよ」
「はい。それじゃお言葉に甘えます」
そう言うと刹那は部屋にあった二段ベッドの下に横たわったかと思うとすよすよと寝息を立て始めた。
疲れてたんだろうな……。
まぁ記憶も無くなって自分が何者かも分からないってストレスになりそうだもんなぁ。
刹那も眠ってしまい手持ち無沙汰になった私は机にあったパソコンのスイッチをオンにしていじってみることにした。
起動したパソコンの日時を見てみると確かに私が死んでから約一年が経過している。
ユズキの言葉、嘘じゃなかったんだなぁ……。
お。このパソコンちゃんとネットに繋がってんじゃん。
それなら、私の死んだときの事も調べてみようかな。
そう思い検索エンジン先生にキーワードを入力する。
そうすると。
『【悲報】超大手サークルのノノムー・カナデ先生(本名;野々村奏さん)、車道で幼児のラフスケッチを描いてたらトラックにはねられ死亡【哀悼】』
ほらね。
やっぱりね。
こういうスレ立てるやつ居ると思ってたんだよ。
さてさてスレの内容を見てみることにしよう。
マウスをクリックしてスクロールっと。
『2ゲットズザーッ』
『3ゲットしつつ、ノノムー先生に哀悼の意』
『マジか』
『うわ……マジだ。ノノムラーやめてユズキ先生のファンになります』
『これがホントの血溜まりスケッチか』
『本名;野々村奏でPN.ノノムー・カナデってwww安直すぎwwwwww』
こ、こいつら……。
人が死んだのを良いことに、言いたい放題書きやがって……。
しかも私のファンやめて、よりにもよってユズキのファンになるってどういう事よ?
いやまぁでもユズキは良いやつだけどさー……変な奴だけど。
でもやっぱりこう言いたい。
呪い殺すぞこの野郎。
『これから何をおかずにいきていけばいいんですか、嘘だと言ってよノノムー先生』
いやいやいや……ちょっと待ちなさいよ。
何なのよおかずって。
私の本ってR18じゃないからね。
私が出した本って全部健全な全年齢対象本だったはずなんだがーーー!!
『現実を受け入れろ。ていうかあの本がおかずってすげーなお前』
そうだ、そうだー!
いいぞ私の代弁者!!
『しかし車道で幼児のラフスケッチを描いててトラックにはねられるとか、どんだけ間抜けなのノノムー先生』
……。
そうですね、本当におっしゃる通りでございます。
等々……。
流石に事が事だけに哀悼の文が連なっていたけれど。
その中にもそれをネタにしたようなレスがちらほらあって、それがいちいち私の目に付くわけで。
だんだん見てるのもうんざりしてきたので、開いていたブラウザをそっと閉じることにした。
いやー……自分の事が話題になってる記事ってみるもんじゃないわ、やっぱ。
あはははは……はぁ……。