私、巨人の世界にやって来ました。その4
ニヴルヘイムの宿に泊まる事、二日間。
月依の体調はいまだ芳しくない。
「んー……月依、一旦、タカマガハラに戻る?」
「いえ、次の目的地、ムスペルヘイムはこのニヴルヘイムの南方にあるんです。今戻ると大幅なタイムロスになります。ですから二人で行って来てください」
「とは言ってもなぁ……ムスペルヘイムは灼熱の国だぞ。カムイ無しじゃ耐えられんぞ、奏が」
「その辺は大丈夫ですよ。奏さんには霧露乾坤網があるので」
「ああ……確かにあれで周りを水で覆ってれば何とかなるのか」
「あのー……私抜きで勝手に話進めないでくれる?」
確かに調子の悪い月依を一緒に連れていくのは私も反対だけど。
そのムスペルヘイムってとこはカムイ無しでなんとかなるの?
不安すぎるんですけど!!
「まぁその辺はヘルにも相談してあるから安心しろ、奏」
「すいません、私が調子を崩しちゃったばっかりに……」
「そこは気にしないでよ。今までずっと働き通しだったんだし」
「はい……」
「まぁムスペルヘイムのギフトは私と刹那でとってくるから安心しなさい」
「ありがとうございます。奏さん……」
―――
「ムスペルヘイムにはこの火浣布で織った衣を纏っていくがいい」
そう言ってヘルさんは赤い布で織られた衣を手渡してくれる。
「なんか特別な効果でもあんのか?」
「ああ。この衣は火に対して耐性がある。ムスペルヘイムでも普通に過ごすことができるだろう」
「そうか。わりいなヘル」
「いや、こちらこそギフトの件で手間取らせてしまったからな。その詫びとして受け取ってくれ」
……危うくニーズヘッグの逆鱗に触れるとこだったんですけどね。
それはあえて言わないことにする。
「それはそうと、お前達がニーズヘッグの巣に行っている間に永久のやつが来たぞ」
「なんだと?」
「あいつもお前の記憶の欠片を回収しているらしいな」
「ああ……二回遭遇して小競り合いになった」
「そうか。……天の神もこの事態を把握しておるだろうに何を考えているんだろうな」
「さぁ……俺にもあいつらが何考えてんのかわかりゃしねー」
あのクソジジイかぁ……きっと何も考えちゃいないんじゃないですかね。
「とりあえず、ギフトの場所ははぐらかしておいたから感謝しろよ」
「すまねぇな。恩にきる」
「こちらもおまえが仕事に戻ってもらわんとこまっておるんだ。あのクソジジイじゃ頼りなくてしょうがないんだよ」
……ヘルさんもクソジジイだって思ってるのか。
なんか親近感湧くなこの人。
「ハハハ。そうか、それは悪かったな」
そうして私達は月依をニヴルヘイムに置いて、ムスペルヘイムへと向かうのだった。
ニヴルヘイムを南下すること一日。
周囲の温度がだんだん高くなり始める。
「そろそろ衣を守った方が良さそうだな」
「そだね」
火浣布で織った衣を纏って更に半日。
「暑いー……」
「我慢しろよこれぐらい」
火浣布で織った衣が無ければとっくに干からびている所だ。
ほんと、ヘルさんのおかげで助かった。
「暑けりゃ霧露乾坤網使えよ」
「使っても良いけどお腹すくもん……」
「じゃあ我慢するこった」
しばらく進んでいくと、何か巨大な人影が見えてくる。
街の前を一人の巨人が守っているようだ。
「そこの者たち。我が国、ムスペルヘイムに何用だ」
私達の倍以上ある巨人は私達にそう問うてくる。
「この国にあるギフトを回収させて欲しいんです」
「ギフトの回収とな。ギフトを回収してどうするのだ」
「ギフトはこの刹那の記憶の欠片なんです。だからお願いします」
「ふむ……そうか……。ならば私に力を示すがよい。私を倒すことができればギフトの回収を認めよう」
「どうしてもやるっていうのか?」
「くどいぞ。我が名はスルト。この国を守護するものだ」
「はぁ……しょうがねえな。俺の名は刹那。刻の番人だ」
そう言うと二人はそれぞれ炎の剣を、二刀の刀を手元に召喚する。
「炎の剣よ、我が敵を打ち払えっ!」
スルトさんがそう告げると炎の剣から灼熱の炎が噴き出す。
「あちっ。奏っ!!」
「う、うん。宝貝・霧露乾坤網!!」
霧露乾坤網から噴き出した水は灼熱の炎を打ち消していく。
「ほほう。なかなかやるではないか。では剣でお相手してもらおうか」
「おう、正面から受けてやるぜ」
刹那はスルトさんの左手の刀で剣撃を軽くいなすと右手の刀で喉元に刀を突きつける。
「なるほど……これが天使の力か」
「なんだ、おっさん、知ってたのか」
「この国を何処だと思っておる。ニヴルヘイムと同じく世界の創めから存在している国だぞ」
「そうか。でもまぁこれでも本調子じゃないんだけどな」
「ふむ……そうか……」
「それはいいんだけどよ、ギフトの場所教えてもらえねぇか」
「ああ。そうであったな。ならばついてくるが良い」
そう言ってスルトさんは私達をギフトの元へと案内してくれた。
「この岩がギフトだ」
「そうか。じゃ、早速回収させてもらうぜ」
刹那がギフトに手を当てるとギフトは塵となり刹那の体に消えていく。
「ふう……これで八割ってところだな」
「そうか。なら、またお手合わせしてもらいたいところだな」
その言葉が空の上からかけられる。
そこには黒い羽をした天使の姿。
言うまでもなく永久だ。
「チ……また性懲りもなくやって来たのかよ」
「……この間の様にいくとは思うなよ、刹那」
私達の眼の間に降り立ちながらそう呟く永久。
「言ってろ。奏。ブリーシンガメンとメギンギョルドだ」
「う、うん。スルトさんは下がっててください」
「うむ……」
私はネタ帳からブリーシンガメンとメギンギョルドを召喚し刹那に手渡す。
そして携帯食を口に含んで腹を満たす。
「よし……っ。行くぜ!永久っ」
二刀の刀を構え刹那は永久へと切りかかる。
キン。ガキン。
しかしその二刀の刀は永久に届く前に簡単に弾き返される。
「何…っ」
刹那の表情に動揺が走ったと同時に永久は蔑んだ笑みをこぼす。
「ハハハハハ。神々の装備と言うものは便利なものだなぁ、刹那よ」
そう言って永久が気迫を込めた途端に永久と鍔迫り合いをしていた刹那は薄布の様に宙を舞う。
「ってー……。クソっどういうことだっ」
「ブリーシンガメンとメギンギョルドだったか。私も手に入れてきたという事さ」
言いながら服の下に身に着けているその二つを見せつけてくる。
「な……。どこでそれを……」
「それは持ち主からいただいてきたにきまっているだろう?」
「ちょ……ちょっとそれって……!」
フレイヤさんやトールさんから奪って来たってこと?
なんてやつ……。
「さて……刹那よ。これがどういうことを意味するか分かるな?」
「……それでも、てめーにゃ負けられないんだよっ!!」




