私、巨人の世界にやって来ました。その3
そんな訳で再びフヴェルゲルミルの泉。
泉のあちこちにでっかい根っこみたいなのが生えていて、大きな木……遥か遠くの世界樹に繋がっている。
あー……あそこまで行くのかー……。
とりあえず、私達はニーズヘッグに見つからないように恐る恐る世界樹の麓を目指す。
世界樹が近づくにつれ蛇の形をした妖に遭遇する率が増え月依にも疲れが見え始めた。
んー……。
これじゃ、世界樹に着く前に私達の方が力尽きちゃいそうな気がする。
「ねぇ、月依、一旦ニヴルヘイムに戻らない?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと調子が悪いだけですので……」
「んー……なら良いんだけど」
そうは言うものの月依の調子は明らかにおかしい。
うーん……ここは私と刹那で何とか乗り切るしかないか……。
そんな訳でいつもは前衛の月依に変わって私と刹那が前衛を務めていた。
まぁ今まで私達お世話になりっぱなしだったしね。
刹那の力が大分戻ってきたっていうのもここに来て役に立っている。
そんな訳でニヴルヘイムを出て二日。
私達は世界樹の根元までやって来た。
ここのどこかにギフトがあるのかー……。
ついでにニーズヘッグの巣も。
どうかニーズヘッグに鉢合わせしませんように。
「ギフトはあっちの方角にあるみたいです」
そう言って月依は北の方角を指し示す。
そして世界樹の根を上り下りして辿り着いた先には。
いたよ。いましたよ。ニーズヘッグ様が。
まぁ巣っていう位だからいますよねー……。
とりあえずどっか行ってくれないかなと小一時間待っていたけど何所にも行ってくれず。
しょうがないので強硬突破することにした。
まだ調子が悪そうな月依にはサポートに回ってもらって、私と刹那がギフトを回収するという手はずだ。
「じゃあ時止めの力を使うぞ」
「うん」
私と月依が手をつないだのを確認し刹那は時止めの力を使う。
そして私が召喚した宝貝・風火輪でニーズヘッグの元に急ぐ。
「刹那、どこにあるかわかる?」
「あー……。こいつが卵代わりに抱いてるやつがギフトだ」
「まじか……。さっさと回収して逃げないとやばいんじゃないの」
「かもしれねぇ」
そう言って刹那はギフトの回収を始める。
ニーズヘッグの抱えていた卵上の岩は刹那の中に溶けて消えていく。
「よし、さっさととんずらするぞ」
「うん」
そして私達は月依のいた場所に戻ってくる。
「月依、全速力で飛んで逃げるよ!!」
「え、どういうことです?」
「ニーズヘッグのやろう卵代わりにギフト抱いてやがった」
「え゛。それは確かにまずそうですね……」
「刹那は月依と一緒に飛んで行って」
「私は後から追いかけるから」
「はい、出来るだけ早く追いついてくださいね」
私は刹那を月依に預け全速力で月依達の後を追う。
はぁ……こんな時あと一人カムイ使える人居ればこんな事にはならないんだけどなぁ……。
そんな事を考えているうちに足元の風火輪が色褪せ始める。
げげ。もう時間切れか。
一旦閉まってもう一回召喚しないと。
そんな事をしているうちに私達が来た方角から雄たけびが聞こえてきた。
……ニーズヘッグだ。
卵を奪われたと勘違いして怒り狂っているのかもしれない。
こ……これはうかつに動かない方が良いんでは。
と思っていたけどニーズヘッグの方から蛇の妖が次から次に湧いてくる。
ちょ……ちょっと何なのよこれ。
突っ立ってるだけじゃ蛇の餌食になるだけなので番天印を召喚して周囲を吹き飛ばす。
その音に気付いたのかニーズヘッグがこちらへと向かって飛んでくる。
まずいまずいまずい。
超まずい。
あーもう。
やりたくなかったけどこれやるしかないのか。
そう思い私はネタ帳にペンを走らせる。
そして私がネタ帳から召喚したのは。
ニーズヘッグのコピー。
少しの間で良いから時間稼いでっ。
そう願いつつ、私は再び風火輪でその場を離れる。
私の背後ではニーズヘッグと私が召喚したニーズヘッグのコピーが取っ組み合いをしていた。
ああ……これがニーズヘッグの逆鱗に触れませんように。
そう願うしかなかった。
携帯食を口にしながら風火輪で休み休みとんで小一時間したころ。
「おーい、奏ー」
「奏さんー」
私を呼ぶ声が聞こえてきた。
月依達だ。
「なんかすごいことになってましたね」
「うん……あれが逆鱗に触れたりしなけりゃいいんだけど」
「まぁ、今回は本体の方が勝って満足したみたいだからいいんじゃねーか」
「そっか。なら良かった」
「それなら早く帰りましょう……か……」
言いながら月依が私の方に倒れ込んでくる。
「ちょ、ちょっと大丈夫なの、あんた?」
「えっと……おかしいな……力が入んないみたいです」
まじか。
んーこれはもう四の五のいってられないな。
翼の生えた岩竜に乗ってニヴルヘイムまでとんでいくしかないか。
ニーズヘッグに見つかったらさっきみたいにコピーで応戦するしかない。
「刹那。岩竜で飛んでいくよ」
「おう、わかった」
そして私達は翼の生えた岩竜に乗ってニヴルヘイムへと飛び立った。
幸い道中、ニーズヘッグに遭遇することはなく無事ニヴルヘイムへとたどり着けたのだった。




