私、巨人の世界にやって来ました。その1
「で……このヨトゥンヘイムってどういうとこなの?」
ミズガルズから旅をすること約二日。
野を超え山を超え大きな木の根っこを超えて私達はヨドゥンヘイムへとやってきた。
「霜の巨人族と丘の巨人族が住んでる国ですね」
「巨人の国かぁ……」
「で、あまり人間に友好的ではありません」
「そっか……」
周りを見渡すととんでもなく大きな家々が立ち並んでいる。
「相手が巨人なら俺達なんて羽虫みたいなもんだろ。その辺の物陰に潜みながら進もうぜ」
「そうですね。という訳で、奏さん、お願いします」
「はぁ……やっぱ私がやんのね」
私はネタ帳を開きながら一つの宝貝を召喚する。
「宝貝・霧露乾坤網!!」
言葉と共に私の指にはめた霧露乾坤網から水が噴き出し、その水が蒸発し霧へと変化していく。
そしてヨトゥンヘイム中が霧に包まれる。
「さて……それじゃさっさとギフトを探して回収しちゃいましょう」
「そうだな」
「むぐむぐ……ちょ、ちょっと待ちなさいよあんたら」
私は携帯食を口にしながら二人の後を追うのだった。
「さて……肝心のギフトなんだけど……」
「どうしたの?」
「んーどうもあのでっかいお城の中にあるみたいなんですよね」
「じゃあ乗り込むしかないんじゃない」
「ですよねー……」
「それじゃ、刹那さん時間止めお願いできますか?」
「あいよ。しっかりつかまっとけよ」
私達がつかまったのを確認すると刹那は時を止める力を発動させる。
この能力もギフトの回収のおかげで今は十分くらいは止めれるようになったらしい。
便利な能力だよね、まったく。
「んー……ギフトはこの城の宝物庫の中ですね」
「宝物庫まであとどれぐらい?」
「えっと……走って三十分はかかりますね」
「どんだけ広いのよ、この城はあああああ」
「疾空迅風ならギリで到着できるかなって距離ですね」
「なら刹那連れて月依はさっさと行っちゃって」
「奏はどうするんだ?」
「私にはこれがあるから」
そう言って一つの宝貝を召喚する。
宝貝・風火輪。
空中を高速移動できる宝貝だ。
さすがに疾空迅風程の速度は出せないけれど。
それでもどこか身を隠す分には十分だろう。
「じゃ、ギフトを回収したらすぐ戻ってきますんで」
「適当な所に隠れていてくださいね」
「むぐむぐ……うん。分かった」
そうして私達はお城の中で二手に分かれることになった。
「と……この樽の影にでも隠れてようかな」
風火輪を使って飛んでいると身を隠すのにちょうど良さそうな樽達を見つける。
うん。ここに隠れてよう。
そう思い地上に着地して樽達の陰に隠れていると、ドスンドスンドスンと大きな地響きと共に一人の巨人が現れた。
で……でかい。
私の五倍くらいはあるんじゃないだろうか。
にしても……刹那の時止めの力切れたのか。
「今日も一杯やるとするかのう」
そう言いながらその巨人は私の隠れていた樽を持ち上げる。
何でよりによってこの樽持ち上げるのよ!
ひどくない!
「む……なんだあ。貴様は……」
隠れる場所を失った私はその巨人に見事に見つかってしまった。
「えっと……ただの同人作家です」
「同人作家だぁ?何言ってんだお前。さてはミズガルズからの侵入者か!」
「いえ……そうではなくてですね」
「じゃあ何だって言うんだ。この人間風情が!」
言いながら私を捕まえようとしてくる。
わわ……まずい捕まったら潰される!
そう思い風火輪を操り身をかわす。
「ほう……ミズガルズの人間ではないようだな」
「分かってもらえて助かります」
「それでも不法侵入は不法侵入だ。おい、お前達、この人間を捕まえろ!」
その巨人がそう言うかと思うと巨人の後ろから次々に巨人たちが現れる。
げげげげげ。
めっちゃまずい。
と、とりあえずここは、何か武器を……。
えっと……ネタ帳を捲り私は目についた武器を召喚する。
「ミョルニル・召喚!!」
私の手元には手のひらサイズの金槌が現れる。
「……ミョルニルだと?」
なんかミョルニルを見て巨人の人達はひるんだみたいだけど、そんなの関係ない。
「その力を示せ!ミョルニル!!」
ズガガガガガン!!
私の言葉と共に雷撃が周囲に響き渡る。
私の周りを取り囲んでいた巨人の人達にも直撃したみたいでドシンと言う音を立てて昏倒している。
よしっ!いまのうちにとっとととんずらしよう!
風火輪を操って空中に飛び出すと私は入口の方へと速度を速める。
入口に一目散に飛んでいると。
「奏さんー」
そんな声が背後から聞こえてきた。
月依達だ。
しかしその背後には……やはり大勢の巨人たちを引き連れていた。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。
どんどん悪化してんじゃないのよ状況が!
「奏さん、城の外に出たら、また霧露乾坤網を」
「わかってるわよ!さっさと脱出するわよ!」
そう言うと私達は城の小窓から城の外へと飛び出す。
そして。
「宝貝・霧露乾坤網!!!」
私達の周りは深い霧で覆われて無事、ヨトゥンヘイムの城を脱出することに成功するのだった。
はぁ……まったく。
これから先こんな旅が続くかと思うと胃が痛くなるわ。
本当に。




