私、異世界で天使に会っちゃいました。その4
『番天印よりも高威力の宝貝が欲しいと申すのか』
「はい、何か無いでしょうか、元始天尊様」
テラスちゃんの許可をとり皇照宮の通信室で私はコンロンの元始天尊様と通信をしていた。
『あるといえばある。が、それは本当にあるのかすら分からんものじゃ……』
「何でも良いんです。それってどんな宝貝なんでしょうか?」
『名を雷公鞭……雷で瞬時に形あるものすべてを焼き尽くし、粉砕するだけではなく、影や魂さえ溶かすことができるもの……らしい』
「えっと……らしいっていうのはどういう事でしょうか?」
『伝説に残っておるだけで、いつから存在してるのか分からぬ宝貝なのじゃ……』
「はぁ……」
「まったく。使えんジジイだな、元始よ」
私達の通信を横で聞いていたテラスちゃんはボソリと呟く。
『すまんな、奏よ。儂も本当に噂にしか聞いたことしかない宝貝なのだ……』
「いえ、こちらこそ本当にありがとうございます。それでは」
『うむ。それではまた』
ブツリと通信が途切れる。
うーん……雷公鞭かぁ……。
そんなあるかどうか分からないものを探す時間は無いよなぁ……。
はぁ……。
「奏よ。お前はそんなに気負わなくていいのだぞ。お前はカムイの使えない人間なんだからな」
「そうはいっても、私も力になりたいんですよ、テラスちゃん」
「そうか……。なら、今後向かうギフトの回収先は宝貝のように、あらかじめこめられたカムイを操る国を優先することにしよう」
「宝貝以外にもそんなものあるんですか?」
「ああ。この世界には剣にカムイをこめたり槍にカムイをこめて使っている国があるんだよ」
「ありがとうございます、テラスちゃん」
そう言って私は思わずテラスちゃんに抱きついていた。
「こ、こら離れろっ。ここは公の場だぞっ」
はぁ……何このふにふにでもちもち素肌。
なになにこの至福の時間。
ヤヴァイ。
離れられない。
「離れろと言うにいい!!」
言葉と共に私の体は宙を舞った。
ぐぇ。
「いったぁぁぁぁい……」
「まったく。離れろと警告したのに離れんからそういう目にあうのだ」
カードを手にしたテラスちゃんははぁはぁと息を切らせながらそう呟く。
ああ……そんな姿もちょっと可愛いです。
幼女萌え。
「はぁ……本当にお前は陽花とよく似ているな」
「え……そんなに似てますか?」
「幼女大好きな所とか、他人に対して一生懸命になるとこなんかはよく似ているぞ……」
「はぁ……そうですか……」
幼女大好きなのは認めるけど、他人の為に一生懸命ねぇ……。
んー……私自身そんな自覚ないんだけどなぁ。
友達がほとんどいなかった私には実感がわかないや。
そもそもこれだって、私の幸ある来世という目的のためだし。
でも陽花が他人の為に一生懸命になる子なのはよく分かる気がするな。
だからあんなにも、皆から慕われてるんだろうし。
……私はそんな陽花達みたいに良い子じゃないよ、テラスちゃん。
私はそう心の中で呟くのだった。
―――
日もとっぷりと暮れて、皇照宮から自室への帰り道。
「あ、来た来た。おーい奏さん」
大した成果も無くてトボトボと歩いていると自分の部屋の入った建物の前でそう声をかけられる。
「ん……ユズキか」
声のした方を向くとそこにはスーツ姿の私と同じようなヘッドセットを付けたユズキの姿があった。
「とりあえず、ここじゃなんだからボクの部屋に来てくれないかな」
「ん……まぁちょっとくらいなら良いわよ」
そうして私はユズキの部屋へとやって来た。
ユズキの部屋は私の部屋と同じ建物の別の階だった。
「月依ちゃんやテラスちゃんから大体の話は聞いてるよ。大変だったみたいだね」
言いながら私に紅茶を煎れてくれる。
「ん……そうね。大変だった」
「そんな訳で、ちょっと奏さんに見て欲しいものがあるんだ」
「何よそれ?」
私の問いかけにユズキは爽やかな笑顔を私に向けながらこう答えてくる。
「奏さんは古い少年漫画とかあまり読んだ事が無いみたいだけど、日本には中国の物語を漫画にしたものがあるんだよ」
「まぁ……確かにあんまり古い少年漫画とかは読んだことは無いわね。それで?」
私が漫画にハマったのは小学校に入ってからだし。
それまでは専ら少女向けアニメばっかりだったしなー。
「というわけで。じゃーん。これは日本の漫画に出てくる宝貝一覧サイトです」
「は?」
そう言ってユズキは私にとあるサイトを開いたノートPCを見せてくる。
何よそれ、そんなものがあるの?
「その物語の中には宝貝や元始天尊様が出てくる物語があるんだ。だから参考になるかなぁって」
「ユズキ……あんたってマジで頼りになるわね」
「まぁ後輩の陽花ちゃんのあんな心配そうな顔を見せられちゃね。先輩としてはほっとけないのさ」
ユズキは自嘲気味にそう私に声をかけてくる。
そっか。
やっぱ陽花にもやっぱ心配かけちゃってるのか。
なんか申し訳ないな……まったく。
「ん。ともかく、ありがとね。ユズキ」
「うん。これが奏さんの力になることを願っているよ」
あー……。
ホント、ユズキってなんでこんなに良いやつなんだろう。
日本じゃ殆ど絡んだことなかったっていうのに。
ちょっと泣けてきたので慌てて紅茶のティーカップで顔を隠す私だった。




