私、異世界の揉め事に巻き込まれちゃいました。その13
「それじゃとっとと乙姫様のとこへ向かいますか」
そう言うと同時にアカリは宮殿の壁にカムイで大きな穴を開ける。
「乙姫様は宮殿の中心部に居ると思う。だから中心部を目指して、お姉ちゃん」
「了解っ」
その言葉と共に陽花は疾空迅風を発動させる。
そして私達は極寒の庭を抜けて中心部の建物の中へ侵入し。
「お姉ちゃん、ストップ!乙姫様が居た!」
「うん」
月依の探索のカムイで乙姫の場所を見つけた私達六人は乙姫の前に降り立った。
「せっかく逃げおおせたのに戻ってきおったのか小娘達よ」
「ほんとにね。でもそうも言ってられない事情があるのよ」
ため息をつきながら私は乙姫にそう答える。
「乙姫様、動力炉に使ってる宝貝には自爆装置が付いています。それは元始天尊様の意志でいつでも起爆できます」
「なんじゃと……おのれ元始天尊め……」
月依の言葉に口惜しそうにそう言葉にする乙姫。
「無垢な民を犠牲にしたくないのであれば、兵をお引きくださいませんか」
「引かぬ時はどうなるのだ」
「このリュウグウは民諸共に灰塵と帰します」
「……ならば、お主たちを人質にとればよいだけの事よ」
そう言って乙姫は私達を囲うように衛兵を展開させる。
「はぁ……まぁそう言うと思ってました……」
一つ大きなため息をついて月依は私に目配せをする。
「それじゃ、この宝貝を見ても兵を引いてくれませんか?」
私は月依の言葉と共に一つの宝貝を召喚する。
それはハンマー型の宝貝。
通天教主さんがもっていた紫電槌だ。
「そ……それはまさか通天教主の紫電槌……じゃと……」
「そうです。コピーですけどね。でも威力は本物と変わりませんよ」
「ふん。ハッタリよ!ものども、この者たちを抑えよ!」
はぁ……せっかく月依が解説してあげたっていうのに。
わっかんない人だなぁ……。
「じゃ、遠慮なく。宝貝・紫電槌!!」
私の言葉と共に周囲に雷撃が走る。
その雷撃に打ち倒されていく衛兵達。
「な……な……」
その光景に呆然とする乙姫。
まぁそうだよね。
こんな強力な宝貝持ってこられたら。
私達だってそうだったもの。
「そんな訳で、兵を引いていただけませんか?乙姫様」
そうニコリと告げる月依。
だから、あんたのその笑顔は怖いんだってば……。
ホント自覚あんのかね、この子は。
そう思いながら私は紫電槌を片手に携帯食をぼりぼり貪っている。
「まだじゃ!ええい者ども恐れるでない!」
そう衛兵たちにハッパをかけるものの、私の持つ紫電槌に恐れをなして近づいてこない。
「はぁ……しょうがないですね。奏さん、アレ出しちゃってください」
「うん。分かった」
紫電槌を月依に預け私は新たな宝貝を召喚する。
「あ……あ……。それはまさか……」
そう、それは旗の形をした宝貝。
通天教主さんの最強の宝貝・六魂幡だ。
「さて。この六魂幡に名前を書かれた人がどうなるか、御存じですよね、お・と・ひ・め・さ・ま?」
言いながら私の持つ六魂幡に乙姫の名前を書き加えようとする月依。
「ま、まてっ!わかった!兵は引かせる!だからそれだけは勘弁してくれ!」
「物分かりが良くて助かります、乙姫様」
物分かりが良いじゃなくて、完全に脅迫じゃん。
ああ、怖い怖い。
この子、ホントに怖いよー。
そう思いながら再び私は腰につけた袋から携帯食を取り出して口にするのだった。
はぁ……この携帯食、美味しいな。お腹にも溜まるし。
元始天尊様にこの携帯食一杯もらって帰ろ。
「それじゃ、約束しましたからね」
「うむ……分かった……コンロンとは停戦する。約束は違わぬ」
「良かったです。それじゃ、奏さん、帰りましょうか」
「あんたねぇ……人使い粗過ぎじゃない?」
「まぁまぁ。それだけ頼りにしてるってことなんですよ」
「はいはい、そういう事にしときますよ……まったく」
そう言うと私はネタ帳から翼の生えた岩竜を召喚する。
「宝貝に加えて翼の生えた岩竜まで召喚するとは……小娘、お前はいったい何なのだ?」
「何なのだって言われても……」
んーなんて言えば良いのかなぁ。
ここは何かカッコ良く決め台詞でも言えば良いんだろうか。
でもまぁそれも私らしくないか。
だから私はあえてこう答えることにした。
「異世界人のただの同人作家です」
と。
―――
「奏、さすがにただの同人作家にはこんなことできないよ」
コンロンに向かう岩竜の背の上で。
陽花はそう苦笑いをする。
「だってさー……私、ほんとにただの同人作家だし」
あんたみたいに馬鹿みたいに強力なカムイは操れないしね。
まぁメモした宝貝の中には他にもちょっと物騒なものもあったけど。
「でもでもすごいですね。紫電槌に六魂幡だなんて。教科書でみた通天教主様の宝貝じゃないですかっ」
目をキラキラさせながら、私に詰め寄ってくるアカリ。
「ただのコピー品だけどね。それに出した後、栄養を摂取しないと目が回って死にそうだし」
言いながら今も私は腰の袋に詰めた携帯食を口にしている。
「それでも十分ですよ!奏さん、この調子で世界一目指しちゃいましょう!」
「……別に目指さなくていいわよ、そんなもん」
アカリの言葉にそう冷たく言い放つ私なのだった。
でもま、この能力はホントに今後役に立ちそうだ。
携帯食さえあれば、だけど。




