私、異世界の揉め事に巻き込まれちゃいました。その10
「ん……あれ……どうなってんだこれ」
手首足首を念入りに拘束具で拘束された刹那が目を覚ます。
「あんた、怪しい力使うからって念入りに拘束されたのよ」
「そうか……」
「にしても何であんなタイミングで気を失うのよ!」
「しょうがねーじゃねえか。なんか気分悪くなっちまったんだから」
「まったく……任せとけって言った割に使えないわね!」
「まぁまぁ。一応無事にギフトは回収できたんですから良しとしましょうよ」
「月依あんたも危機感なさすぎ。カムイのカードとられちゃったんでしょ」
「そうですけど……」
「これからどうすんのよ……」
刹那は手足を拘束されてつかいものにならないし、月依もカードを奪われてちゃカムイも使えない。
使えるのはネタ帳を取られなかった私が使えるポンコツ能力のみ。
「はぁ……」
「でも奏さんのメモ帳が取られなかったの不幸中の幸いでしたね」
「……こんなとこで翼の生えた岩竜を呼んだとこで脱出できる保証はないわよ」
「まさか。さすがにこんな海の中かわかんない所で呼ぶのは不味いですよ」
「じゃあどうすんのよ」
「私、公主さんの言葉が気になってたんですよ」
「私にはもっと強い力があるっていう事?」
「ですです。奏さんの力の別の使い道が無いかなってそう考えてみたんです」
絵を実体化させる能力の別の使い道……かぁ……。
そんなもんあるんかいな。
「まぁとりあえず、今は休みましょう。動き出すのはコンロンと交戦状態になってからです」
「そうね。今逃げ出しても海の中かもしれないし逃げようがないものね」
「ですです。私達が返ってこないのを心配してテラスちゃん達が動き出すかもしてないですしね」
「それなら良いんだけどねぇ……」
「大丈夫ですよ、テラスちゃんは私達を見捨てたりしませんから」
月依がそこまで言うならきっとそうなんだろう。
ま、とりあえずのんびり時間を過ごしますか。
手足を拘束されてる刹那には悪いけど。
どれだけ時間が過ぎただろうか。
定期的に与えられる食事の回数からして、二日程か。
衛兵達が騒がしく動き出し、地下牢の管理も甘くなり始めた頃。
ドーンっという音と共にリュウグウの街全体が揺れる衝撃。
どうやらコンロンとの戦が始まったようだ。
「さて……奏さん、動きますよ」
「うん。で、私はどうすれば良いの?」
「奏さん、カムイのカードのデザインって覚えてますか?」
「ん……?あんたに見せてもらったから覚えてるけど……」
「じゃあ試しに描いて召喚してみてください」
「別に良いけど……えっと確かこんな感じだったかな?」
カムイのカードを召喚すると同時にぐうっと私の腹の虫が鳴る。
「それじゃそれ、私にかしてもらえますか?」
「うん。ほい」
「……流石、奏さん。完璧ですね」
「まぁあんたらのカード何度と無く見てたしね。で、それでどうすんの」
「こうするんですよ」
そう言って月依は私の召喚したカードに何か念じ始める。
するとカードは淡く緑色に光り風の刃が刹那の拘束具を切り裂いた。
「な……、まじか」
「予想通りでした。さすが奏さんの能力です」
「おー久しぶりの自由だ!ありがとな、月依」
「奏さんの力って時間制限あるんでしたよね。とりあえず私の本物のカードを取り戻してここから脱出しましょう」
「う、うん」
「なんか納得してない顔してますけど、説明は後でしますから」
「わかった」
そして、月依は探索のカムイを使い自分のカードの位置を把握する。
「うん。割とすぐ近くにありますね。それじゃとっとと脱出しましょう」
そう言って月依がカードに力を込めるとカードが淡く赤く光り。
牢屋の鉄格子を吹き飛ばした。
「な、何事だ!」
鉄格子を吹き飛ばした爆音で衛兵たちが集まってくる。
「刹那さん、また時間を止めてください」
「あいよ。今度はちゃんと止めるぜ」
「ほんと途中で気絶なんかしないでよ」
「あーい」
私達が手を繋ぐと刹那の体が光りだし、辺り一面の時が止まる。
「よしっ、今日も絶好調!」
「途中で気絶しなけりゃね……」
「わーってるって、この前のはギフトの影響で気を失っただけだからよ」
「だったらいいんだけどね」
「ともかくさっさと私の本物のカードを取り返して宮殿をはなれましょう」
そして私達は時間が止まっている隙に衛兵の部屋の机にしまってあった月依のカードを手に取り、そそくさと宮殿の庭へと駆けだした。
「よしっ。ここでおっけーです。脱出しましょう。岩竜で一気に正面突破です」
「はいはい、わかりましたよっと」
私は翼の生えた岩竜を呼び出す。
そして更に大きな腹の虫の音が一つ。
うー……お腹すき過ぎてちょっと目が回ってきたかもしんない。
でもここで私が倒れたらここまで逃げてきたのも水の泡だ。
ここは気合で乗り切らなくては。
もうそろそろ刹那の時を止める魔法は切れてしまうのだから。
岩竜を操り私達はリュウグウの天井の一部を月依のカムイでぶち破って大空へと飛び出す。
と同時に。
「時間切れだ。当分この時間を止める魔法は使えねぇ」
「もう十分です。ありがとうございました、刹那さん」
「良いって事よ」
「それにしても、うわ……ちょっと酷いことになってますね……」
眼下には宙に浮く亀型の乗り物に乗ったリュウグウの兵士とコンロンの兵士達が争っている姿が見えた。
リュウグウの人達は何やら構えた銛から月依達のようなカムイを操っている。
それに対してコンロンの兵はそれぞれ宝貝を使うのみ。
明らかにコンロンの方が不利な情勢に見える。
そして所々に物言わぬ躯と化した兵士たちの姿が見えた。
「これ……私達が招いちゃったことなんだよね……」
「ああ……でもこれも報いってやつなんじゃねーのか。勝手に他人様の知識や力を使ったんだからよ」
「リュウグウの人はそうかもしんないけど、コンロンの人は何もしてないじゃない!」
「コンロンの連中も俺の知識を使って宝貝を作り出してるんだよ。だから関係ないわけじゃない」
「……それでも……」
「まぁともかく、このまま元始天尊様のいるとこへ向かいましょう」
「そうだな。またこの前みたいに宮殿には突込みたくねーしな」
「……うん」
そうして私達は元始天尊様がいる宮殿へと向かうのだった。
眼下に広がる痛ましい光景を目に焼き付けながら。




