私、異世界の揉め事に巻き込まれちゃいました。その6
「あのー……できればそれ、使ってほしくないんですけど」
陽花はおどおどとそう懇願する。
うん。
私も使ってほしくない。
そんな物騒なもん絶対に使ってほしくない。
「使いたければ使ってもらって結構ですよ、通天教主さん」
月依は、のほほんとした声でそんなことを言いはなつ。
「ハハハハハ……まだ貴様の姉の様に懇願すれば見逃してやったものの……。余程死にたいらしいな月依よ!!」
「いや、別に死にたいわけじゃないんですけどね……。まぁ試しに使ってみてくださいよ?」
「強がりを言いおって!良かろう。まずは貴様から冥途に送ってやろうぞ!!」
そう言って通天教主は旗に何か文字を書き込む。
そして。
「我が宝貝の呪いを食らうが良い!!宝貝・六魂幡!!」
通天教主の言葉と共に旗が翻り怪しく光りだす。
すると。
「ぎゃー……、やーらーれーたー……」
と言って、月依がわざとらしく倒れ込んだ。
「……」
「……」
「なにやってんだよ、このアホっ」
そんな月依に、刹那がおもいっきり脳天に蹴りを入れる。
「いったーーーー!!何すんの、刹那さん!!」
「いやだってよ……。あんまりにもわざとらしすぎんだろ、おまえ」
「えへへへ……そうかな♪」
そう言って舌を出して笑う月依。
「な、何故だ!何故、六魂幡が効かぬのだ!」
明らかに狼狽えている通天教主。
まぁそうですよね……。
必殺の宝貝が通用しなかったら動揺もしますよね。
まぁとりあえず、月依が呪い殺されなかったことに、私と陽花は顔を見合わせて安堵した。
「どうしてか教えてあげましょうか?つ・う・て・ん・き・ょ・う・し・ゅ、様?」
月依は意地の悪そうな顔をしてフフリとほくそ笑む。
そして。
「だって私達、異世界人ですから!この世界の文字では決して呪い殺されたりなんかしないんですよ!」
背景に強調線が入りそうな勢いで月依はふんぞり返る。
あ……そうか……納得。
だから六魂幡は平気だって言ってたのか。
陽花も私と顔を見合わせて、納得したという表情を見せている。
「な……なんだと……。き、貴様ら、異世界の民だったのか……!!」
テンプレ的な悔し気な口調でそう告げる通天教主。
そういやこのクリュウに入ってから私達が異世界の住人だって一言もいってなかったや。
「途中で二手に分かれたのはそういう事か……!」
「そうです。アカリや公主さんには六魂幡、効いちゃいますからね。途中で帰ってもらったって訳です」
「お、おのれ……っ」
「必殺の宝貝が通じなくて残念でしたね、通天教主さん♪さぁどうしますか?まだ続けます?」
「く……」
「このまま続けてもまたお姉ちゃんの暴発カムイの餌食になるだけですよ」
「クソ……分かった……。このギフト……回収することを認めよう……」
忌々し気にそう口にする通天教主なのであった。
なんかちょっと小娘にいぢられるボロボロのおじさんの姿を見て可哀そうになってきた。
「それじゃ刹那さん。回収しちゃってください」
「あいよ。すまねーな通天教主のおっさん。これは返してもらうぜ」
そう言うと刹那はギフト……小岩に近づき手を添える。
するとギフトは塵となって刹那の中に溶け消えた。
「回収するとはそういう意味だったのか……」
「ああ。そういうこった。俺は天の使い『刻の番人』なんだ。それでギフトはそこのアホ奏のせいで散らばった俺の欠片だ。んで、それを一年以内に回収しなけりゃ世界が滅ぶ」
「そうか……ならばお前に返すの筋であったな……悪かった」
「分かってくれれば良いって事よ、なあ月依」
「はい。それでもう一つお願いがあるんですけど、良いですか?通天教主さん」
「……分かっておる。兵はコンロンから引かせる。戦場で陽花のようなカムイを使われたらこちらは大損害だ」
「ありがとうございます、通天教主さん」
月依はそう言うと満面の笑みを浮かべるのだった。
はぁ……なんていうか。
月依は絶対に敵に回したくない相手だと確信させられたひとときだった。
月依はまず自分で通天教主の力量を図ってそれで、その後暴発カムイの姉をけしかけたんだろうな。
でなけりゃ大好きな姉をわざわざ敵地に送りだすなんてしやしないだろう、コイツの性格的に。
あーまったく……怖い怖い。
「それじゃ、奏さん。もう一芸、通天教主さんに見せてあげてください」
「何?まさかまた翼の生えた岩竜出せって言うの?」
「はい。そのまさかです。お願いできますよね」
月依はそうニコニコと私に笑いかけてくる。
その笑み止めてよ。
逆に怖いのよ、あんたの場合!
はぁ……。
これやるとお腹減るのになぁ……。
「しょうがないわね……」
そう言って私はネタ帳から翼の生えた岩竜を召喚する。
「何と……。翼の生えた岩竜だと……。どういうカムイなのだ、それは」
その光景を見て通天教主は何故か愕然としていた。
「これが奏さんだけの力なんです。カムイとかじゃないんですよ」
「フム……そうか……お前達が異世界の民というのは真のようだ」
「だから言ったじゃないですか。異世界人だって」
言いながら私達は岩竜の背に乗り込んだ。
「それじゃ、また会う事があったらお手柔らかにお願いしますね、通天教主さん」
「ああ……その時は力になることもあろう……。さらばだ異世界の者たちよ」
そして私達は霧に包まれたクリュウの島を岩竜で飛び出したのだった。




