私、異世界の揉め事に巻き込まれちゃいました。その5
「さて……貴様達かな。我が国のギフトを狙う不届き者たちは」
髭を生やした初老のおじさんが私達に向かってそう告げる。
片手には何か長い棒を持っている。
なんじゃ、あれは。
あれも宝貝なのかな。
「どうか世界の為にそのギフトを回収させてもらえませんか?」
そう月依はそのおじさんに進言する。
「フン……世界のことなど知ったことか。私にはこのクリュウさえあればよい」
「ですよね。そう言うと思ってました」
そう言うと同時に月依はカードを淡く赤色に光らせカムイで業火の炎を相手にけしかける。
「こんなこけおどし、儂に通用すると思ったか……!宝貝・紫電槌!」
おじさんはひるむことなく棒を持っていない方の手で懐からハンマーを取り出しそのハンマーで業火の炎をかき消した。
「タカマガハラのカムイとはその程度か?月依とやらよ」
「やっぱご存じで……」
言いながらちょっと冷や汗を流している月依。
ちょっと、ちょっと。
このおじさん、そんな危険な相手なの?
そう不安気な顔をして陽花を見ると、陽花の顔も青ざめている。
「この島に入ってからのお主たちの会話も行動も筒抜けだ。別れた三人はあえて見逃してやったのだ……感謝するがいい」
「ははは……そりゃどうもですっ」
再び月依はカードを淡く緑色に光らせ風の刃をおじさんに向けて無数に放つ。
「フン……そんな風の刃など紫電槌の前にはそよ風にすぎぬわ!」
そう言っておじさんはハンマーを掲げると稲妻が迸り風の刃を悉く撃ち落としていった。
「もう終わりか?小娘よ。それでは、こちらの番だ。宝貝・紫電槌!」
言葉と共に私達に雷撃が迫ってくる。
「そう簡単にやられる訳にはいかないのっ」
月依はそう言うとカードを淡く銀色に光らせ鉄の壁で相手の雷撃を防ぐ。
「フム……やるではないか。流石、タカマガハラ第三位の実力者よ」
両者の攻防は互角とみても、向こうがちょっと上くらいだろうか。
何とかしのげてはいるものの、このままじゃジリ貧だ。
ここは敵地だし、いつこのおじさんの救援が来るとも限らない。
「はぁ……しょうがないなぁ……」
そう言ってため息を一つついて。
「じゃ、お姉ちゃん。後は任せるよ。久しぶりに『恐怖の殺戮少女』の出番だよ?」
月依は陽花に向かってニコリと笑いかける。
「え゛……。私がやるの?」
「うん。もちろん♪」
ここで自分に振られるとは思いもしなかったという顔をして陽花は苦笑いをする。
「あのー……すいませんけど……。あなた、通天教主様ですよね」
陽花はおどおどと前に進み出ておじさんに話しかける。
「うむ。分かっておったのか……」
「本当に出来れば穏便に済ましちゃいたいんで、その小岩……ギフト回収させてくださいませんか?」
「ならぬと、先程申したはずだが」
「本当の本当に駄目ですか?」
「くどいぞ、陽花とやらよ」
「そうですか……。じゃあ、怪我しても文句言わないでくださいねっ!!」
「はっはっはっは。なかなかでかい口を叩くではないか、小娘の分際で!!」
「なぁ……今の陽花のカムイって暴発しかしないんじゃねーのか?まだ一時間もたってねーぞ」
事の推移を見守っていた刹那は月依に問いかける。
この前の生田亭での私達の会話をなんだかんだでしっかりと聞いていたようだ。
「うん。そうだけど。だからこそお姉ちゃんがタカマガハラで二番目って言われる理由でもあるんだよ」
「ん?どういうことだ?奏」
「さぁ……私に聞かないでよ」
私にだってサッパリ意味わかんないわよ。
「月依。奏さん達のガードしっかりとね」
「うん。お姉ちゃん。久しぶりに思いっきりやっちゃって良いよっ!」
「それじゃ、行きますよ通天教主様!」
「面白い。うけて立とうではないか、小娘よ!」
陽花が何かを念じ始めるとカードは淡く緑色に光り始める。
それと同時に月依は私達と陽花の間に鉄の壁を何重にも張り巡らし始めた。
「え?何やってんの、月依」
「こうしないと私達もめっちゃ危険なんですよっ!!」
「は?一体どういう……」
と言っている間に、目の前の鉄の壁にどんどん亀裂が入っていく。
ちょ、ちょっと……なんじゃそりゃ!
陽花はいったいどんなカムイを使ってるっていうの?
ていうか、何でこっちにまで攻撃が飛んできてんのよ!
「な、なんか、スゲーことになってるみたいだな……」
「うん……」
「あー……やっぱちょっと私だけじゃ抑えきれないかも……。奏さん、掃霞衣で周囲を防御してもらって良いですか?」
月依が冷や汗交じりにそう告げてくる。
「あ、うん。分かった。宝貝・掃霞衣!!」
私がそう言うと同時に私達の周りは薄い衣で包まれていく。
そして私は掃霞衣の薄布と鉄の壁の合間から陽花の姿を見た。
荒ぶる風の中心で、それこそ無作為に風の刃を放出している陽花の姿を。
陽花を中心に広がっている鉄の壁が瓦礫と化した山を。
そこに無傷で立っているのは、もはや陽花の姿しか居なかった。
しばらくして。
「月依~。もうカムイ解除したから安全だよー」
そんな暢気な声が瓦礫と化した鉄壁群の向こうから聞こえてくる。
「うん。わかった。ありがと、お姉ちゃん」
そう答えると月依は展開していた鉄の壁達を解除する。
私もそれに合わせて掃霞衣を元の手のひらサイズへと戻す。
辺りの霧も晴れまっ更になった大地には苦笑いしながら立つ陽花の姿と、その向こう側には血だらけになって倒れている通天教主の姿があった。
「……陽花……。あんたマジですごいわね……」
「いや……これ、ただカムイを暴発させてるだけなんだけどね……」
言いながら、陽花は苦笑する。
カムイの暴発ってこういう事なのか……。
自分じゃ制御できないくらいの力のカムイが暴発して発動する……。
そりゃ『恐怖の殺戮少女』って呼ばれるようにもなるわ。
しかもこれでタカマガハラで二番目って……。
一番のテラスちゃんはどんなカムイ使いなのやら。
ちょっと背筋に冷たいものが走る私なのだった。
「本当は使いたくなかったんですけどね……」
陽花はそう呟きながら通天教主の方を見つめる。
と、その時。
「フフフ……ハハハハハハ……」
血だらけになった体を起こしながら通天教主は笑みを浮かべていた。
ど……どんだけタフやねん、このおじさん!
「まさかこの儂にこれほどの傷を付けれる者が居ようとはな……!」
「あのー……これでもギフト、回収させてくださいませんか?」
「ハハハハハ……このまま小娘にコケにされておるわけがなかろう!!」
「ですよねー……」
「儂も奥の手を使わせてもらうぞ」
「え゛……もしかして……」
「そのもしかしてだよ……宝貝・六魂幡!!」
そう通天教主が告げると共に長い棒状だった宝貝は旗状へと変化した。
ぎゃーーーー!!
やっぱり持ってるんだ、それ!!!
ちょっとやめてよ、そんな超危険な宝貝使うの!!




