私、異世界の揉め事に巻き込まれちゃいました。その1
「月依、お主はクリュウという国を知っておろう」
「はい。何処の国とも同盟関係を持たない孤高の国ですね」
「さよう。そのクリュウが近々、このコンロンを攻めてくるという話があるのじゃ」
「本当ですか?」
「うむ……これは確実な情報じゃ。クリュウの島がこのコンロンの間近まで移動してきておる。一刻の猶予もない」
え゛。何それ。
国ごと移動してきてんのそのクリュウってのは。
「もしかして条件というのはタカマガハラにその争いの加勢をして欲しいという事ですか?」
「簡単に言えばそういうことじゃ。クリュウはコンロンと同じくカムイを宝貝で操る国。お主たちタカマガハラの柔軟なカムイ使いの力があれば奴らもすぐに諦めるはずじゃ」
「流石にそんな重大なこと、即答はできかねますよ、元始天尊様」
「わかっておる。この事を、テラス陛下に伝えてくれるだけで良いのだ」
「分かりました。確かに伝えておきます。で、私達に悪い条件じゃないっていうのは何なんですか?」
「クリュウにあるギフトの回収の手助けをしよう」
「本当ですか?」
「うむ……コンロンとクリュウが戦闘状態に入ればクリュウの国内の守りは薄くなるはずじゃ。その隙に回収すればよい」
「なんだ。手助けってその程度かよ」
「こちらからも一人助けとなる人材をよこすから心配するでない」
「なら安心だな」
「クリュウとの戦の手助けをしてくれるなら、リュウグウの動力源を作る事を約束しよう」
「分かりました、元始天尊様。テラス陛下にそうお伝えします」
―――
「……で、また厄介ごとを一つ引き受けることになったと」
テラスちゃんはコメカミを抑えながら声を震わせる。
「まあ……クリュウのギフトの回収ができそうでよかったじゃないですか、テラスちゃん」
キクリ先生は微笑みながらテラスちゃんにお茶をすすめる。
「はぁ……まぁ確かにあの国のギフトの回収の機会が回って来たのは良しとしよう」
指でトントンと机を叩きながら苛立った顔で続ける。
「しかしだ。我が国からカムイ使いを派遣せねばならぬのであろう?」
「その辺は割り切って軍を動かすしかありませんね」
「頭の痛い話だな……本当に」
「軍を動かすのはそんなにまずいんですか?」
この異世界の事情に疎い私はそう問いかける。
「基本的に他国に軍を動かすのには同盟国の承認がいるのだよ。だから手続きがめんどくさい。本当にめんどくさい」
「ふーん……どこの世界も軍を動かすのは楽じゃないんですね」
「日本だって軍じゃないけど自衛隊動かすだけで一悶着有りますからねぇ……」
「ともあれ、この条件は飲まざるを得んだろうな。クリュウは常に移動しているし、何処の国とも国交がないから今を逃せばいつギフトの回収ができるとも限らん」
「それでですね、テラスちゃん。クリュウに潜入するのにアカリとお姉ちゃんと桜花さんを借りて良いですか?」
「ふむ……アカリはともかく陽花に桜花か……。アイツらで大丈夫なのか?」
「お姉ちゃんは私のカードさえあれば無敵ですから。それにアカリは桜花さんいないとやる気でないし……」
「……まぁ確かにそうかもしれんな」
「ということで、キクリ先生。その三人、ちょっと今回お借りしますね」
「はい、わかりました。学園の方で手続きしておきますので」
という訳で今回のミッションは私に月依に刹那、それに加えて三人という、いつもの倍の人数で挑むことになった。
月依のお姉さんかー……どんな人だろう。
早々に会える機会が巡ってきて楽しみな自分だった。
―――
「ただいまー、お姉ちゃん」
「おじゃまします」
「じゃまするよ」
そう口々に告げ私達は隣の部屋である月依の部屋へとやって来た。
部屋の中には同人誌らしきものを読んでいる一人の女の子の影。
外見はちょっと背の高い男の子っぽい雰囲気のショートカットをしている。
けれど月依とは似ても似つかない超地味な女の子だ。
「どうしたの?月依。もう今日のお仕事は終わったの?」
でも口調はしっかり女の子してるし、仕草も女の子のそれだ。
ふーん……この人が噂に聞く陽花かぁ。
「今日はお姉ちゃんに二人を紹介する為に連れてきたの」
「んと……私は野々村奏。よろしく」
「刹那だ。よろしくな」
「あー……。霧島陽花です。妹がいつもお世話になってます」
「いや、お世話になってるって言うか、お世話されてる方だから……」
「あははは。頑張ってお世話してるんだよ私」
言いながら姉に抱きつく月依。
「わ……ちょっと……。人前で抱きつかないのっ」
そう言いながら頭に手刀を当てる陽花。
でも決して嫌そうではない表情をしている。
ホント仲の良い姉妹なんだな……。
いやむしろやっぱり百合か、この姉妹。
「それで、今日はノノムー先生はどのようなご用件でこちらに?」
「の、ノノムー先生って……なんかそう呼ばれるのも久しぶりね……」
最後にそう人から呼ばれたのは死ぬ前のひと月前の即売会以来だろうか。
「私ノノムー先生の本、全巻持ってるんですよ!」
そう言って陽花は月依を引きはがし本棚から一冊のコピー本を取り出す。
「これって……。私が最初に作ったコピ本じゃない……」
「ですです!この表紙の絵を見た時、まるで体が磁石になったみたいに体が吸い寄せられたんです。この絵は超私好みの絵だって!」
うわー……なんていうか。
嬉しいけどなんか超恥ずかしいって言うか。
この頃の絵なんて今とは比べ物にならない位、へたくそだったのに、その頃からのファンの子だなんて。
「奏さんでも照れることあるんだね」
そう言って月依が私に囁いてくる。
くそー……恥ずかしいとこ見られた。
「ともかく、月依!ちゃんと説明しなさいよ!」
「そうでしたそうでした。お姉ちゃん、明日からお姉ちゃんとアカリと桜花さん達と皆でコンロンに行くことになったから」
「ん?どういうこと?」
「コンロンがクリュウと戦争することになったらしくてね。その隙に私達でクリュウに潜入してギフトを回収することになったの」
「は?クリュウって、あのクリュウ?」
「うん。あのクリュウ」
「……まじですか」
笑顔の月依とは打って変わって、みるみるうちに陽花の顔は青ざめていくのだった。
ごめんよ、私の大事なノノムラー。
私の為にこんなことに巻き込んじゃって。




