私、異世界漫遊始めちゃいました。その8
「で、昨日はギフトの回収が一つしかできなかったうえに厄介ごとを引き受けることになったと……」
コメカミを手で押さえながらテラスちゃんは言葉を震わせる。
「おのれ、乙姫のやつめ……。ギフトをそんなことに利用していようとは……」
「で、私のカムイじゃ見つけることできなかったからテラスちゃんにお願いしようかと」
「はぁ……めんどくさいのう……。というか、陽花にやらせればいいであろうに」
「なんか昨日はお姉ちゃん、疲れたーって言ってすぐ寝ちゃったんで……今もぐっすり睡眠中です」
「まったく……私は皇帝だぞ……。この国の一番偉い人間なんだぞ……」
「はいはい。わきまえてますよ、テラスちゃん」
「月依。絶対わきまえてないだろう、その言い草は」
「いえいえ、そんなことないですよ、本当に」
「はぁ……その笑顔が胡散臭いんだ、おまえは。まぁ良い……。とりあえずその宝玉というのはどういうものなんだ?」
「なんでもリュウグウを支えてる動力源らしいよ」
「何でそんなものが無くなるんだ……」
まったくもってテラスちゃんの言う通りだ。
どういう管理の仕方をしていたんだろうか、リュウグウの人達は。
「というわけで、よろしくね。テラスちゃん」
そう笑顔で月依は告げる。
「宝玉は三つか……とりあえず一つを探ってみるか」
テラスちゃんはそう呟くとカードを取り出し念じ始める。
と同時にカードは白く強く光り始めた。
確かにこれは昨日見た月依のカードの光り方とは違う。
これがテラスちゃんと月依の姉のカムイの光り方なのか……。
そしてしばらくして。
テラスちゃんは何かを理解したかのように語りだす。
「フン……乙姫のやつめ。とんだくわせものだな」
「どういうこと?テラスちゃん」
「三つの宝玉なんぞ存在しないという事だ。お前たちはまんまと騙されて帰って来たという訳だよ」
テラスちゃんは月依の質問にかぶりを振ってそう答える。
「え゛……それ本当の事なんですか」
「ああ。しかしギフトを動力源として使ってるのは本当のようだな」
「じゃあ、ギフトが無くなったら……」
「リュウグウは国ごと深海の藻屑となって消えるかもしれんな」
「むー……それは結構問題ですね……」
「いいんじゃねえか?そんな国なくなっちまってもよ。他人様の力で存在してる国なんてあってもしょうもないだろ」
「まぁ、刹那のいう事も一理あるな……。ギフトが回収できんことには世の中全てが崩壊しかねんわけだし」
「だろう?じゃ、とっととまたリュウグウに回収にいこうぜ」
「ちょっと結論出すの早すぎですよ、刹那さん」
「そうそう。流石にそれで国が一つ滅びたじゃ洒落になんないってば」
「じゃあどうするってんだよ?奏」
「どうするって……カムイでなんとかするしかないんじゃないかな」
「残念だがカムイはカードや物を介して持つ者の力を行使しているのであって何かの動力源みたいには使えぬぞ」
むー……そうだったのか……。
ん?でも私が貰った宝貝・掃霞衣は私のカムイを使ってるわけじゃないよね。
「じゃあコンロンの宝貝ならどうです?」
「確かにあれは物にカムイの力を込めて誰でも使えるようにしているものだが……。そうか。そういうことか」
私の質問で得心がいったとばかりにテラスちゃんは苦々しく言葉を紡ぐ。
「乙姫のやつの狙いはそれか。……お前たちにコンロンの宝貝を持ってこさせる。それが真の目的か」
「それ、自分達で持ってくればいいんじゃないんですか?」
「そうもいかんのだよ、奏」
「リュウグウとコンロンは敵対関係にあるんですよ」
テラスちゃんの横に控えていたキクリ先生がそう教えてくれる。
「え゛……そうなんだ……」
「だから、コンロンはリュウグウの為には動かないだろうし、リュウグウもコンロンには助けを求めることはないだろうな」
「めんどくせーやつらだなぁ」
「外交とはめんどくさい事なんだよ、刹那よ」
「こっちにはどーでもいい話だけどな」
「しかし……どうしましょう。リュウグウの動力源となるぐらいの出力のある宝貝ともなると元始天尊様に相談するしかありませんし……」
キクリ先生も困ったような顔をしてそう告げる。
「むー……元始のじじいも頭が固いからな……。頼み込んで作ってくれるのかどうか……」
「でも作ってもらわないと国が一個亡びるか世界が滅んじゃいますよ」
「まぁとりあえずダメ元で頼んでみるしかないんじゃないかな?」
「そうだな。とりあえず、元始のじじいに事のいきさつを書いた文を送ろう……」
「ありがとね、テラスちゃん」
そう言って月依はテラスちゃんに抱きつく。
「むー……公の場でこれはやめろと言っておろうに……」
言いながらもちょっと嬉しそうな顔のテラスちゃんだった。
―――
「結論から言わせてもらおう。此度の事は断らせてもらう」
「やっぱり……ですか……」
テラスちゃんからの文書を持って元始天尊様と再び会う事になったのだけど。
応接室に入って早々に元始天尊様はそう宣った。
「敵対国であるリュウグウに我が国の宝貝技術を奪われる訳にはならぬのだ」
「どうしても駄目ですか?」
「国が一つ滅ぶか、世界が滅ぶかなんです」
「爺さん度量がちいせいぞ」
「こらっ!刹那!」
私達の言葉に顎に手を当て考え込む元始天尊様。
そして。
「……一つ条件がある。この条件をのんでくれるなら動力源となる宝貝を作ろう」
「どういう条件でしょうか?」
「お主たちにとっても悪い条件ではないはずだ」
そう言って元始天尊様は微笑むのだった。
その微笑みちょっと怖いんですけどー……。




