生田亭での一幕
さてさて、そんなわけで、毎朝、皇照宮に月依と刹那と一緒に出向いては回収先の国を支持されて、一日二個のノルマを果たしていたのだけど……。
さすがに毎日こんな生活続けたら死ぬわっ!!
ということで週に一日くらい休ませろと懇願した所、一週間に一日は休んでも良いという事になった。
で、現在、サクヤのバイト先の生田亭で息抜きに昼食をとっているところ。
「そーいや、月依、あんた留学生なんだからそろそろ学園はじまるんじゃないの」
「あー……そうですね」
「そうですねって……単位とか良いの?」
「実は前期のうちにもう全部とっちゃったんですよね」
「は??」
「何かあっさり資格も全部通っちゃって。卒業まで特にやることないんですよ」
「はぁ……さいですか……」
「おかげで学園最強の首席とか呼ばれちゃってます」
これが真のエリートとかいうやつか。
伊達にタカマガハラで上から三番目のカムイ使いって言われてるだけのことはあるな……。
「だから、徹底的につきあいますよ、奏さん。こんな面白い経験二度と出来そうにありませんし」
「面白い、ねぇ……」
「異世界の色んな国を巡れて楽しいですよ、私は」
「ふーん……そんなもんかねぇ……あ、サクヤお替り頂戴」
相変わらず性格が輩モードで固定されてる刹那は奥に居るサクヤにお替りを注文する。
「そういや先週は十個ギフト回収できたわけだけど、刹那さんに何か変わったことは?」
「んー……なんか魔法みたいなものを使えるようになったくらいだな」
「は?そんなことできるようになったの?」
そんなの私も初耳なんだけど。
「ん?時間を止めたちょっと巻き戻したりできるようになった」
「何それ……めっちゃチートじゃん……」
「ほえー……カムイにも時間系統の術はありますけど巻き戻したりはできないですねぇ」
「……カムイにもあるんだ、そんな便利なの」
「でも時間系のカムイは使用制限が掛けられてて普段使うことはできないんですよね」
「ふーん……めんどうなのね、カムイも……」
丼の魚をつつきながら私はそう呟く。
「あー……でももしかすると、テラスちゃんとお姉ちゃんなら巻き戻しはできるのかも」
「は?それどういうこと?」
「私はこの国で三番目のカムイ使いっていったじゃないですか?」
「うん」
「一番目はテラスちゃん、二番目は私のお姉ちゃんなんです」
「そ、そうなんだ……」
一番目がこの国の皇帝陛下なのはともかく、姉妹で二番目三番目って……どんだけエリート一家やねん。
「ん……?でもあんたが学園最強の首席なんじゃないの?」
「私はあくまで一般的な視点での学園最強なんです。テラスちゃんとお姉ちゃんが私より上なのは使うカムイが特殊なんですよ」
「特殊ってどういうこと?」
「二人が使うカムイは何でかわかんないんですけど、カードが普通より強く光って普通の効果より数倍の効果が現れるんです」
「何それ……」
ただですら、カムイは色んなことができるのにその数倍の効果を発揮できるって。
まさしくチート以外の何物でもないじゃない。
「ただし、お姉ちゃんの場合は一時間に一回しかまともなカムイ使えないんですけどね」
「因みに一時間に二回以上使うとどうなんの?」
「何かしら訳の分からない失敗の仕方をしますね」
「何それ。あんたのお姉さん面白いわね」
何か私の絵を実体化させる能力と同じくらいのポンコツぶりかもしれない。
月依の姉とやらにちょっと親しみが湧いてきた。
「それでよく友達の皆からからかわれてるんですよ。『恐怖の殺戮少女』とか言われて」
「ぶ……。何そのネーミング。草生えるんだけど」
「まぁ実際そうですからねぇ……。お姉ちゃんの失敗……というか暴発したカムイはめちゃくちゃな発動の仕方しますし」
「それ、ほっといても平気なの?」
「本人もそれを自覚してるから学園の理事会の人達からも大目に見てもらってます」
「ふーん……案外緩いのね、この国も」
「んー緩いというか……。お姉ちゃん、その力でこの国を一回救っちゃってるから誰も文句言えないって感じですかね。何よりテラスちゃんから慕われてますから」
「へー……すごいのね、あんたのお姉さん」
「はい。私の自慢のお姉ちゃんです」
「月依ちゃん……?陽花さんは私の、じゃなくて私達のお姉様。ですよ?」
いつの間にか刹那にお替りを持ってきて月依の背後に立っていたサクヤの笑顔がちょっと怖い。
「あ、アハハ……そうだね、私達の、自慢のお姉ちゃん。だね」
月依は振り向かず冷や汗をかきながらそう訂正する。
なんだか月依とその姉とサクヤの間にはただならぬ関係があるというのが垣間見えた瞬間だった。
―――
「おー月依、久しぶりやな」
そんな話をしているとピンク髪のスポーティな女の子と狐色の髪をした大人っぽい少女がやって来た。
ピンク髪の女の子は確かこの生田亭の娘のヒルコだったか。
「久しぶり、月依。元気そうで何よりだわ」
「うん。ヒルコもカノも元気そうでよかった」
「で、そちらの二人はどなた?」
「あー、こっちの姉ちゃんが奏はん。で、こっちの翼の生えた姉ちゃんが刹那はんや。この前教えたやろ」
「ああ……あの噂の……」
カノと呼ばれた狐色の髪をした少女がクスリと微笑む。
噂のって、どんな噂なのかすっごい気になるんですけどねぇ。
言ってもらっちゃっても良いかな?
「それはそうと二人は日本の生活に慣れた?」
そんな私をよそに月依は二人に声をかける。
「んーまぁ大体やなぁ」
「私は大分なれたわよ。毎週伏見稲荷に通ってるし」
「へー……そうなんだ」
「あそこに行くと落ち着くのよね。なんだかタカマガハラにいるみたいで」
「それに毎回付き合わされるウチの身にもなってほしいんやけどなー」
「そのうち生田さんにもつきあってあげるわよ」
「そりゃ御贔屓に……」
「ただ、このヘッドセットと眼鏡は慣れないわね。つけてると違和感あるもの」
そう言ってカノは私達が付けているヘッドセットに眼鏡を指さす。
「あー……せやなぁ。ウチもつけてるとむずがゆくて自室じゃつけとらんもんな」
「まぁその辺は慣れるしかないよね」
「にしても月依も大変ね。世界中巡ってるんですって?」
「うん。でもそれなりに楽しんでるから平気だよ」
「月依らしいちゃらしいなぁ……」
「まぁほどほどに無理しないようにしなさいよ。あなた一度死にかけたことあるんだから」
「はーい。それは肝に銘じてますよ」
「ほんまやで。陽花はんに心配かけんようにせんとな」
「奏さん。えっとこの子、時々無茶するんでしっかり見張っといてくださいね」
「こっちこそ助けてもらってばかりだから頭が上がらないんだけどねぇ」
「まあ……気にとめておいてください。きっとまた無茶しようとするんで」
「もう、カノは心配性だなぁホントに」
そう言って月依はプリプリと頬を膨らませる。
んー……。
なんて言うか。
良いな。
こんな関係……。
月依やカノ、ヒルコの会話を聞いていて。ちょっと月依が羨ましくなってしまった。
だって私は……。
ううん。
こんな感傷、ちょっと私らしくもなかったな。
うん、やめだやめだ。
そう思いながら、食べかけの丼に箸をすすめる私だった。




