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私、異世界漫遊始めちゃいました。その5

「ただいまー」



那直さんの運転する車に揺られること十二時間。

私達はようやくタカマガハラの自室へとたどり着いた。

とりあえず今日はもう自室で休んでまた明日、皇照宮(こうしょうきゅう)に出向くことにしてもらった。

で、自室のドアを開けたと同時に。



「遅かったじゃねーか、奏」



そんな言葉が投げかけられた。

えっと……あのーどちら様?

声のした先を見るとそこにはヘッドセットをつけた刹那の着物姿。

でもなんか雰囲気が全然違う。

ギフトを回収する前は私の陰にこっそりと付いてくるような性格だったはずだ。

でも今は。



「遅すぎてサクヤとゲーム三昧だったぜ」



ああ……あの純真無垢な刹那のイメージがボロボロと崩れていく。

一夜にしてぐれてしまった娘をもってしまった母親の様な心地だ。

清楚な雰囲気の着物姿でこの口調はまったく似合っていない。

どうしてこうなったし。



「まぁこういう訳です。ほんと、不思議ですよね」



言いながら私の横に居た月依(つくよ)はアハハと頬を指で掻いている。



「いや、不思議とかそういう言葉で片付けて良いのこれ」

「何玄関でごちゃごちゃ話してやがんだ、さっさと入って来いよ」

「う、うん」



あまりの刹那の雰囲気にちょっと気圧されてしまった。

いかんいかん。

相手は刹那だ。

もっと強気でいかないと。



「とりあえず、ギフトの回収はうまくいったようだね、刹那」

「おう。バッチリ、この通りよ」



そう言って胸をどんと叩く刹那。

うう……やっぱり違和感しかない。

あの清楚系美少女の刹那を返して!!

この輩系(やからけい)の刹那はダメだ。

早く別の人格になってもらわなくては。



「で、何か新しく思い出した事とかある?」

「んー……特に取り立てて新しく思い出した事なんてねぇなぁ」



……取り戻したのは性格の一部だけかいっ。

まったくクソの役にもたちゃしない。



「それはともかく、奏さん。今回の事、本当に申し訳ございませんでした」



刹那の奥に座っていたサクヤが私に向かって深々と礼をする。



「ん?なんでそこでサクヤがあやまんの」

「ニニギ様があのような行動をとられたのは(わたくし)のせいでもありますので……」

「いやーそんなことないって。あれはただの色ボケおやじだね、間違いなく」

「そそ。サクヤちゃんは気にすることないって。私も初めて会ったけどあの人絶対頭おかしいもん」



私の言いようも結構酷いけど。月依(つくよ)月依(つくよ)でなかなかの言い草だ。

ま、それぐらい印象悪かったってことなんだけどね。



「ほんと、あんなおじさんの為に花嫁修業させられてたなんて、サクヤちゃん可哀そうだよ」

「へー……そんなことしてたんだ、サクヤ」

「うん。うちのお姉ちゃんとサクヤちゃんのお兄さんが破談にしてやったんだけどね」

「そっか。まぁそのほうが良かったと思うわ、本当に」



あのオヤジの下卑た顔を思い出すだけでもそう思う。

この清楚系美少女のサクヤとはまったく釣り合ってないな、うん。



「それはともかくよー。ギフトの回収はどうすんだ?」



私達の会話を椅子の上で胡坐をかいて黙って聞いていた刹那はそう呟く。



「とりあえず、明日また皇照宮(こうしょうきゅう)に行って次の回収先を決めてもらうつもり」

「ふーん。まぁいいけどさ。そんなペースで一年以内に集まんのか?本当に」

「……」



刹那の言葉はもっともだ。

友好国って言われていたホウライですら回収+事後処理で三日費やしている。

他の友好国も一日一個いけるとも限らないかもしれない。

これはもっと焦った方が良いのかも……なんて言葉が脳裏をよぎる。



「まぁその辺は明日キクリ先生に相談しましょう」

「あー……まぁそうだね。今考えてもしょうがないか」

「能天気な奴らだなぁ……まったく」



言いながらため息をつく刹那。

ていうか、そもそもあんたの為に奔走してるんだからね!

それちゃんと分かってるんでしょうかね!

と、言いたかったけどやめておいた。

だって今の刹那にそれ言うと絶対口論になりそうだもん。

君子危うきに近寄らず。



「それじゃ、そろそろ(わたくし)達もお部屋に帰りましょうか?」

「うんそうだね、サクヤちゃん」

「おう。相手してもらって悪かったな、サクヤ」

「いえいえ。(わたくし)も楽しかったですから」



そう言ってペコリと頭を下げてサクヤは部屋を出ていく。



「じゃ、奏さんに、刹那さん。また明日ってことで」

「うん。よろしくね、月依(つくよ)

「おう、またなー」



―――


そんなわけで現在、輩系(やからけい)と化した刹那と共に部屋に二人っきり。

始めはちょっとあまりの豹変ぶりにビクビクしたけど。

性格の根本はあんまり変わってないみたいで、割と素直に私の言葉を聞いてくれる。

あービビッて損した。


「刹那ー、ちょっと料理するから手伝ってよ」

「おう。何作るんだ?」

「インスタントラーメン」

「おまえ、それ料理って言わねーだろ……」

「インスタントラーメンでも調理の仕方によっては全然味が違うんだからね!」

「ほほー。じゃあ見せてもらおうか、その調理とやらを」

「まずはお湯を沸かします。で、その中に麺を投入。時間一杯茹でます」

「ほうほう」

「で、茹で上がったら一度湯切りをして水洗い。今度はスープを作るお湯を沸かします」

「なかなか面倒だな」

「で、そのスープの中に卵やら野菜を刻んで投入最後に麺を入れて完成っと」

「ふーん……なかなかうまそうじゃねーか」

「でしょう?この手順で作るとインスタントラーメンでもちょっとした料理になるんだよ」

「じゃ、いただくとしますかね」

「はいはいどうぞどうぞ」

「む……これはうまいじゃねーか」

「でしょう?」

「でもまぁサクヤの料理のほうが数倍うまかったけどな」

「あの子の料理と比べないでよ」



サクヤは料亭でバイトしてるんだからさぁ……。

まったく一言多いんだよね、この輩系(やからけい)は。

でも前の刹那より会話がスムーズに運ぶ分、今の方がコミュニケーション取れてる気がするな。

ちょっとこの先の生活が楽しみになってきた私だった。


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