私、異世界漫遊始めちゃいました。その4
ホウライを出て早一日。
私達は月依のカムイ、疾空迅風で二時間程飛んでは休憩し、再び二時間飛んでを繰り返していた。
月依の話によるとこのペースだとあと二日程でタカマガハラに到着できるらしい。
休憩中、私がお腹すいたーと駄々をこねると、月依は一人で草むらに入って行き何処からともなく持って来た干し肉を口にするという時間を繰り返していた。
……私はあえてその肉が何の肉かは聞かないことにしておいた。
何の肉か知ってしまったらきっともう胃袋に収めることができないだろうから。
まぁ月依も食べてるし食べれないものじゃないんだろう、きっと。たぶん。
「そういやこの世界の街の壁の外ってだだっ広いだけで何も無いのね」
「そりゃ、妖だらけですからねー。人もほとんど住んでませんよ」
妖……つまり妖怪みたいなのばっかりってことか。
「まぁこうして火を焚いてればほとんどの妖は寄ってこないんですけどね」
「ふーん」
「道も整備されちゃいますけど、広がるのは平原と森ばっかりですね」
「海とかないの?」
「ある場所にはあるみたいですけど、ここからかなり離れた国ですね」
「そっかぁ……」
ま、世界中巡んないといけないわけだし、そのうち海のある国にも行くことになるんだろうな。
「さてっと……休憩はこの辺にしてまた二時間くらい飛び続けますよ」
「はいはい。よろしくお願いしますよっと」
言いながら月依に捕まりながら飛び立つのを待っていたのだけれど、月依は飛び立ととうはしない。
「……」
「どしたの?」
「どうやら、お迎えが来てくれたみたいです」
月依が指さした先には空を飛ぶ車がこちらへと向かってきているのが見えた。
車の方もこちらに気付いたのか減速して私達のすぐそばで停止した。
そして車から降りてきたのは私の知らないちょっとイケメン風の男の人だった。
「那直お兄ちゃん!」
「長旅お疲れ様、月依ちゃん。それとそちらが奏さんかな。初めまして、僕は姶良那直。タカマガハラ課の部長をしています」
「あ、こちらこそ初めまして……野々村奏です。生前は同人作家でした……」
普段私のファンの萌豚達を相手にしてたから、男性に多少は耐性はあるはずなんだけどこういうタイプの男の人と接するのは滅多にないからドギマギしてしまう。
萌豚達の中にこういうタイプがいないかと言われればそれはNOなんだけど。
売り子してる時はこっちも必死だからなぁ……あんま気にならないんだよね。
にしてもこの人も月依と同じくヘッドセットを付けていない。
それはつまりこちらの言葉を自由に操れるって事か。
「話は柚木から聞いてます。大変でしたね」
「あ、その辺は大丈夫です。月依ちゃんに助けていただきましたからっ」
「いやだなぁ、奏さん。何かしこまっちゃってるの?」
「だって、一応あんたのお兄さんなんでしょ?」
「ん?違うよ。ただの幼馴染のお兄さん」
なんだ、そうだったのか……。
紛らわしい呼び方しよって……。
「まぁそれはともかく話は車の中でしようか。ここで話してるのも危ないし」
「うん。ありがとね、お兄ちゃん」
「はい」
―――
「それはそうと柚木さんはどうしたの?」
助手席に乗り込んだ月依は車を運転している那直さんにそう問いかける。
「柚木は今頃、陽花ちゃん達と大規模即売会を楽しんでる頃じゃないのかな」
「あー……そういえばお姉ちゃんもそう言ってたや。ホント好きだよねー」
「そうだね。でもまぁあれが柚木達の生活の活力になってるみたいだし良いんじゃないのかな」
「ふーん。まぁいいけどさ。そういえば奏さんも同人作家さんなんでしたっけ」
「うん。一応。ユズキは兼業だけど、私は同人一本で生活してた」
「へー……それって結構人気あったんじゃないですか?」
「んー……まぁユズキのサークルよりは人気あったんじゃないかな」
「それはすごいですね。あのユズキのサークルより人気ってことはすごく人が並んだんじゃないですか?」
「あ……はい。ものすごく並んでスタッフさんに毎回手伝ってもらってました……」
那直さんに素直に感心されて顔から火が出る思いで返事を返す。
うあー……もうなんていうか、この人と話すのめっちゃ恥ずかしい。
「お兄ちゃんも柚木さんのサークルでこき使われてたもんね」
「ほんとにね。あの本の数をさばくのだけでも大変なのにあれよりもっと並ぶのかぁ……」
「ちょっと想像できないね……」
「那直さんも即売会に行かれたことあるんですか?」
「はい。ありますよ。暇さえあれば売り子の手伝いに駆り出されてたんですよ」
「お兄ちゃん、探偵さんのコスプレしてたんだよねー」
「月依ちゃんだってフリフリのメイド服で手伝ったことあったんでしょ」
「あはは、そんなこともあったかな」
月依のフリフリメイド服姿かぁ……。
めっちゃ似合ってそうだなぁ。
そして那直さんのコスプレ探偵姿……。
ちょー見てみたいんですけど。
後で月依に写真持ってないかねだってみよう。
「そういえば、刹那はどうしてますか?」
「刹那さんはサクヤちゃんに面倒見てもらってますよ」
そっか。サクヤが面倒見てくれてるのか。
あの子面倒見よさそうだしそれなら安心だ。
「でも刹那さん、聞いてた印象と大分違ってビックリしましたよ」
「へ……?それどういうことです?」
「あーーー!そうそう。それ言うの忘れてた!!」
「どういうこと?」
「実はですね、奏さん。刹那さん、ギフトを回収してから性格がちょっと変わっちゃったみたいなんですよ」
「はい?」
ギフトを回収して性格が変わった?知識が増えたんじゃなくて?
ギフトには記憶の欠片だけじゃなくて性格の欠片みたいなもの存在するってことなんかいな。
うわー……マジか……。
あのクソジジイめ……!!
降り注いだのは記憶の欠片っていったじゃん!!
また適当なこと言ってやがったな……!!
クソジジイに対する怒りを沸々と拳に込めながら、刹那が面倒な性格になって無ければいいんだけどな……そう祈るほかなかった。




