私、異世界漫遊始めちゃいました。その1
「で、ホウライに行くのは良いけどどうやって行くの?」
翌朝、ユズキに買って来てほしいサークルの本のリストを押し付けた後(言うまでもなく嫌そうな顔をされた)。
再び部屋へとやって来た月依に私はそう尋ねる。
月依は昨日とはうってかわって小ざっぱりとした動きやすそうなジーパン姿だ。
なんかお洒落な恰好が好きな今時の子なのかと思ったけどそうでもないのか。
まぁそんなことはどうでもいいか。
「この世界には転移門っていうものがあってそれで他国間の行き来ができるんですよ。それが例えどんなに離れた場所でも一瞬です」
「へー……。そんな便利なものまであんのね」
交流のある国が一日一個行けるっていうのはそういう意味だったのか。納得。
異世界語を瞬時に翻訳できるヘッドセットがあったり便利な世界だなホント。
ん?ってそういや、この子ヘッドセットつけてないな。
「月依、あんたヘッドセットつけてないけど平気なの?」
「ああ。私、こっちの言葉話せるんで付けてないんですよ」
なるほど。
伊達に留学生してないってことだろうか。
「それじゃ、ちゃっちゃとギフトの回収に行きましょうか」
「そうですね。今日は特に早く済ませないとサクヤちゃんも心配しますし」
「んじゃ、案内よろしく~」
「わかりました。っと、それはそうと刹那さんは何で奏さんの陰に隠れてるんですか?」
「……」
「この子、結構人見知りだからね。ほっといてあげて」
「そうですか。わかりました。気にしないことにしますね」
そう言って私と刹那の前に立ち歩き出す月依だった。
ホントなんて言うか、真面目ちゃんだな、この子。
そして歩くこと十数分。
やってきたのはやたらでかい塀に囲まれた建物の前だった。
「何でこの建物、こんなでかい塀に囲まれてんの」
「そりゃあれですよ。もしも他国から侵略なんて受けたらそれこそ大変じゃないですか」
「あー……そういうわけね……」
人が一瞬で移動できるってことは敵対国からも兵士が一瞬で移動してこれるってことな訳か。
そらでかい塀も必要ですわな。
「それじゃ、行きましょうか」
月依に案内されて建物に入り厳重なボディチェックをうけて辿り着いたのは、なんか神々しく光る大きな筒の前だった。
「何このでっかい筒……」
「これが転移門ですよ」
転移門……ねぇ……。
どっちかというとSFでよくある転移装置みたいなもんにしか見えないんだけど。
「それじゃこの中に入ってください」
「入るのは良いんだけど……ほらよくあるじゃない。こういう装置で事故って転移先でグロいことになるとかさ」
「ああ、昔はよくあったみたいですね」
私の言葉にさも当然の事のようにそう告げる月依。
「……やっぱ帰る」
「だめですよ、もう手続きしちゃったんですし。もう後戻りできません」
そう言って嫌がる私をズリズリと引きづって転移門に入っていく月依。
そんな私の背をちょこんと掴み刹那もトコトコと付いてくる。
「まぁ転移門で事故ったのなんてもうかれこれ十年くらい前の話ですし。平気ですよ」
「それが今日起きないとは限んないじゃないのおーーー」
「むー……結構頑固ですね……。まぁ気にせずポチっと」
月依が転移門のボタンを押すと同時に、転移門の筒が閉じ辺り全体がまぶしく発光しだす。
やだーーーーー。ゲル人間はやだああああああああああ。
と、思ったのも束の間すぐに発光は収まった。
あ、アレ……?
「着きましたよ、もう」
「あ……そう……」
月依に連れられてトボトボと転移門の筒を出て、ボディチェックを再び受けた後建物を出ると、そこにはさっきと違った光景が広がっていた。
「ここがホウライ、みたいですね」
「みたいって……」
「だって私もタカマガハラ以外の国に来るの初めてですから」
「……」
そういやそう言ってたっけ。
「とりあえずキクリ先生に貰ったメモにあるとおり、国王のニニギ様に会いに行きましょうか」
「はいはい。もうお任せしますよー」
転移門から国王の宮廷までの間、街並みをキョロキョロと見渡しながら歩いたのだけど。
街並み自体はやっぱりどこか近未来的でタカマガハラの街並みとほとんど変わり映えしなかった。
ただ一つ違ったのはちょっと離れたところにとてつもなく大きな山が見えたことだ。
あれが蓬莱山だろうか。
富士山とは比べ物にならない位でかいんですけど……。
国王の宮廷についてから。
キクリ先生から預かった書状を衛兵の人に手渡した後、私達は応接室へと通された。
しばらくして。
「貴様らがタカマガハラから来た異界のものか」
なんだかとってもえらそうな髭面のおっさんがやってきてそうのたまった。
「貴様、おっさんとは無礼千万であるぞ。それにまだおっさんという歳でもない」
「それはすいません……」
そうかこっちの人間カムイで心読めるんだっけ。
すっかり忘れてた。
「それはともかくテラス陛下から話は伺っておる。ギフトを回収したいとのことだが……」
「はい、世界の安定のために必要なものなんです。回収させてください」
私は言葉を選びながらそう国王に進言する。
「うむ。世界の安定のためというのならそれは仕方なかろう」
「本当ですか!」
「だが……この国のギフトは蓬莱山の山の上にある」
「え?」
「だから、蓬莱山の山の上にあるといっておろう」
「あの……馬鹿でっかい山の上にですか……」
「うむ」
そっかー……。
あの馬鹿でっかい山の上かー……。
あんな馬鹿でっかい山の上まで一日で行けるわけないじゃん!
キクリ先生の馬鹿ーーーーーーー!!!




