私、異世界生活始めちゃいました。その8
刹那から戻った記憶について一通り聞いた後。
これからどうしようか思案していると、辺りがだんだんと騒がしくなってきた。
何事かと思って聞き耳を立てていると。
校庭の片隅にあった岩が無くなってるという話でもちきりだった。
「ありゃ……奏さんの能力、時間制限有るんですね」
「……私も初めて知ったわよ」
周りの喧騒を聞きながら私も頭を抱える。
はぁ……まじでこの能力欠陥だらけじゃん。
「んー……これはもう素直に謝っちゃうしかないですね」
「なんか高千穂と学園の理事会とは関係はあんま良くないって聞いたけど」
私のその言葉にチッチッチッと指を振りながらアカリはニヤリと微笑む。
「大丈夫ですよ。私達にはこの国最強の味方がいるんですから。まぁ任せておいてくださいよ」
「は?」
この国最強の味方?
そんな人物と知り合いな訳?
どんな人間関係してんのこの子。
というわけで、私達はアカリにつれられてとある部屋に通された後(なんか反省室って書いてあった気がするけど)。
アカリは私達を置いてその人物とやらを呼びに出かけて行った。
「すいません、奏さん……私の為にこんなことになって」
伏し目がちにしょぼんとした顔をして刹那はそう呟く。
「いいのいいの。どっちみち記憶の星を回収しないと世界が大変なことになるんだから。大事の前の小事ってやつだよ」
そもそも世界にとって大事なものを重要文化財になんかしてるのが悪いんだし。
「それにしても、この国で最強の味方ねぇ……。どんな人なのかしらね」
「さぁ……とてもお強い方なんじゃないでしょうか……」
そんな話をしていると。
「お待たせしましたー」
その声と共に軽やかなステップでアカリが部屋の中に入ってくる。
そしてその後ろには背の高い黄色い長い髪の美人さんな女性と、小柄な白髪のおさげ髪の超がつくような少女。
こんな場じゃなかったら間違いなく私は彼女達をモデルにデッサン作業をしていると思う。
さすがに今はやれないけど。
「ささ、どうぞどうぞこっちへ」
そう言ってアカリは私達の前に二人を案内する。
「こやつらが重要文化財を闇に葬った下手人か?」
白髪のおさげ髪の超美少女が私と刹那を交互に見やりながらそう呟く。
「あははは……闇に葬ったというかそっちの羽の生えた子に吸収されたって感じだね」
「はぁ……陽花といい今回の事といい、高千穂のやつらは何かと面倒ごとを引き起こすな」
白髪の少女は心底うんざりしたというような口調でそう呟く。
なんだろうこの子。
凄くかわいいけどなんかすごい偉そうだな。
何様のつもりやねん。
「まあまあ、テラスちゃん。色々あったけど高千穂の人にはそれ以上に助けてもらってるじゃないですか」
黄色い髪の美人の女性が白髪の少女、テラスちゃんと呼んだ少女を諫める。
「まぁ……そうだがの……」
「とりあえず、自己紹介をしましょうか。私はこの学園の教師のキクリ=ハクサンです。よろしくお願いしますね、奏さんに刹那さん」
言いながらしなやかに礼をする黄色い髪の女性、キクリ先生。
「で、こちらはこのタカマガハラの皇帝、テラス=オオヒルメ陛下です」
「は……?」
こ、皇帝いいい?
「えっと……まじ?」
「まじですよ、大マジ」
アカリは平然とした顔でそう言い放つ。
な、なるほど……そりゃ確かにこの国最強だわ……。
しかし……こんな小さい子が国家元首ねぇ……。
さすが異世界だわ。
「おまえ、今、こんなちんちくりんで偉そうな小娘が国の代表で大丈夫かとか思っただろう?」
「い、嫌だなぁ……そんなこと思うわけないじゃないですか」
「残念ながらお前の思考は私のカムイでお見通しだ。残念だったな」
「テラスちゃんはこの国で最強のカムイ使いだからあんま下手な事考えない方が良いよ、奏さん」
アカリがにこやかに私に囁く。
へ、へー……カムイってそんな事も出来んのね……。
もうやだこの異世界。
私の能力全然役に立たないじゃないの。
「まあとりあえずだ。お前達が回収したあの岩はこの国にとってとても重要なものだったのだ」
「でも、回収しないと世界の時間がおかしくなるって刹那が……」
「そうらしいな。だからしょうがないと言えばしょうがないのであろう」
「じゃあ許してもらえるんですね」
「無理だな。お前達にはもう指名手配の手続きが下っている」
そう言って皇帝陛下はかぶりを振る。
「ま、まじですか」
「まじだ。重要文化財を消失させた罪はそれほど重い」
「そこを何とかならないんでしょうか。皇帝陛下様の権限で!」
私は皇帝陛下の足元に跪き土下座をする。
その隣には素知らぬ顔をしてぼーっとつったっている刹那。
うう……私がやったんじゃないのに。
刹那も土下座しなさいよ!
そう思いちょいちょいと足を突っつくもやっぱり我関せずといった風体。
全くコイツは……。
「テラスちゃん。そんな意地悪言ってないで許してあげなさいな」
私のそんな様子を見かねてキクリ先生が助け舟を出してくれる。
「クククク……まぁなんだ。たまには皇帝らしいことを言ってみたかっただけだよ。キクリ」
「テラスちゃんも大分アカリちゃんに毒されてきたんじゃないんですか」
「そうかもしれんな。普段、高千穂の連中には引っ掻き回されてるからな」
うう……その見ず知らずの人達から受けてるストレスを私にぶつけるのはやめてほしいんですけど。
「すまんな奏。とりあえず手配は無かったことにするように努力しよう」
「ほ、本当ですかっ!!」
「ああ。それと、私の事は皇帝陛下ではなく、テラスと呼ぶこと。わかったか?」
「はいっ。ありがとうございます、テラス様!!」
「様はやめろ……」
心底嫌そうな顔でテラス皇帝陛下は呟く。
「じ、じゃあ、テラスちゃんで」
「うむ」
そんなわけで私はこの国の一番偉い人とお知り合いになる事が出来たのだった。
これからの刹那の星探しに協力してもらえるかもしれないし、良かった良かった。
随分間隔開いちゃってすいませんでした。
これからぼちぼちと書いていこうと思います。
お付き合いいただければ幸いです。




