私、異世界生活始めちゃいました。その7
アカリと刹那に肩を貸してもらいやって来たのはカフェ神楽耶。
「ちょっと待っていてくださいね」
窓際の席に座るとアカリはスタスタとカウンターに歩いて行って何か注文している。
で、戻ってきたときにはチーズケーキと紅茶のセットが三セットトレーに乗せられていた。
おお……めっちゃ美味しそう。
「奏さん、刹那さん、どうぞ」
そう言ってアカリは私達にそれぞれチーズケーキと紅茶を手渡してくれる。
「いただきます」
むぐむぐ……。
この口内に広がるチーズケーキの甘まみ。
ああ……空きっ腹がみたされていく。
じゅるり。
「す、すごい食べっぷりですねー……」
私のがっつき振りにちょっと引いたような声でアカリは呟く。
「もしかして、一個じゃ全然足りませんでした?」
「そうね。あと三個くらいはいけそう」
「ですか。そしたらまた買ってきますんで、ちょっと待っててくださいね」
「悪いわね。お代はユズキに請求しといて」
「あ、その辺は事前にいただいてるんで気にしないでください」
そう言ってアカリは再びチーズケーキを買いにカウンターへと向かっていった。
しかしなんていうかユズキはまめだなぁ。
とっても気が利くというかなんというか。
あいつが男だったら惚れちゃってるとこだよ、うん。
それにしてもさっきから気になってたんだけど。
なんでここの店員は皆うさみみメイドにうさみみ執事なんですかね。
名前が神楽耶って名前だからなんだろうか。
ま、ケーキ美味しいからどうでもいいんだけどさ。
思いながらズズッと紅茶を口にする。
この紅茶も美味しいな。
チーズケーキが甘い分控えめな糖分のストレートティー。
紅茶の匂いが鼻孔をくすぐる。
そんな感じで紅茶を飲んでいるとチーズケーキセットを三セット持ったアカリが戻ってきた。
確かにチーズケーキ三個食べれるとは言ったけどさー。
流石に紅茶まで三杯も飲めるとは言ってないよ?
「あんた、私を水膨れさせる気なの」
「いやいや、そんなことないですよー?」
無邪気な笑顔でそう答えるアカリ。
あ、コイツ絶対わざと買ってきやがったな。
そうかそうか。
アカリはこういうキャラなのね。
オーケー、分かった。
キミがそういうキャラならそれ相応の対応をさせていただきますよ。
まぁケーキの方は有難くいただきますけどね!
ケーキを胃袋に追加で三つ収めた後。
私はアカリに気付かれないようテーブルの上にあった調味料を紅茶の一杯に振りかける。
そして。
「アカリー、ちょっと流石に飲めないから、これ飲んでよ」
そう言って私はアカリに調味料入り紅茶を手渡した。
「えー……しょうがないですね。それじゃ」
そう言うとアカリがズズッと平気な顔をして調味料入り紅茶を飲みほした。
あれ?この調味料紅茶に入れても平気な奴だったのかな。
そう思い私も自分の残っている紅茶にささっと振りかけてみる。
ズズッ……。
「って辛っ!!!めっちゃ辛いじゃないのよ!!!」
「ですねー。めちゃくちゃ辛かったですよ」
クスクスと悪戯っぽくアカリは微笑む。
くそー……アカリのやつ分かってて飲んだな……。
それで私が自分の紅茶に試してみるのもおりこみ済みだったって訳か……。
なんてやつだ。
「それはそうと、刹那さん、記憶戻ったんですよねー」
「はい。ちょっとだけ……ですけど」
刹那はアカリの言葉にそう答える。
「ほうほう。じゃあどんな記憶が戻ったか話せる内容だけ話してくれない?」
「えっと……私は『刻の番人』と呼ばれる天使です」
「は?」
『刻の番人』?
なんじゃそら。
聞いた感じだと時間に関連した天使っぽいけど。
「『刻の番人』は『輪廻の守護者』と対をなす存在で、天界で全ての時の流れを管理している天使です」
「あのー……その『輪廻の守護者』って何?」
「『輪廻の守護者』は全ての時の流れが終わった時、再び新たな時間の流れを作り出す天界の天使の事です」
「……」
なるほど、ようわからん。
『刻の番人』はまだ分かるにしても、『輪廻の守護者』はようわからん。
全ての時間の流れが終わったら、また新しい時間の流れを作り出すってなんじゃそら。
この世界の時間は無限ループってことなの?
記憶喪失少女が電波少女になってしまったよ。
「で、その天使様って、刹那さんお一人なんですか?」
「はい。その通りです」
え……ちょっとタイム。
一人しかいない?
全ての時間の流れを管理してる天使なのに?
「えっと……その天使が天界に不在だとどうなるの?」
「全ての時間の流れがだんだんおかしくなってしまいます」
「えええー……。全ての時間の流れがおかしくなるってすごくまずいんじゃないですか……」
「まずいじゃん!!めっちゃまずいじゃん!!!」
アカリと私の焦った言葉に刹那は表情を変えず平然とした顔のままだ。
あんた自分が天界に居ない影響わかってないんじゃないの。
なんでそんな涼しげな顔してるのよ。
「大丈夫です。きっと、神様が代わりに仕事してくれてますから」
「なるほど」
あのクソジジイが刹那の代役って事ね。
そうか、だから私に刹那の記憶の星探しをさせてるのか……。
合点がいった。
「それでも猶予は一年位しかないんですけどね」
「え……そうなの?」
「はい。それを超えると時間の流れが乱れだすと思いますよ」
「ちなみに乱れるとどうなるの?」
「そうですね。赤ちゃんが急にお年寄りになったり、死んだ人が蘇ったりしますね」
「まじか」
「まじですよ」
記憶の星探しのタイムリミットは約一年……。
もしかして時間の流れが狂ってきてるから刹那の記憶の星が千年前に降ったり、私がこの世界に来たのが一年後だったりするんじゃ……。
私はあまりにも重い責任をクソジジイに押し付けられたことを今更ながら実感した。




