私、異世界生活始めちゃいました。その6
「奏よっ!!」
声が聞こえる。
あの忌々しいクソジジイの声が。
「奏よっ!!!起きんか、この馬鹿もんがっ!!!」
ゴツッっと頭に衝撃が一つ。
「痛っーーーーーーーーーー!!」
「ようやく目覚めおったか、この馬鹿娘よっ!!!!」
頭をさすりながら声のする方を見やると目の前には憎きクソジジイの姿が。
「何すんのよ、このクソジジイイイイイイイイイ!!!!!」
私はその掛け声とともにクソジジイに殴りかかる。
「フン……効かぬわ!!!この馬鹿娘がっ!!!!」
私の拳を正面から顔面に受けたというのにクソジジイは平然とした顔で立っている。
むう……私のか弱い腕力じゃこのクソジジイにはダメージ与えられないっていうの?
くそーーーーーーー!!
それならこうだ!!
懐から取り出したネタ帳にバットを書き手元にバットを召喚する。
そして思いっきり振りかぶって腰を殴りつける。
「効かぬ!!!効かぬわっっ!!!」
「じゃあ今度はこれでどうよっ!!」
特大のロードローラーをネタ帳に描きジジイの頭上に召喚する。
「きかぬ……わーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
絶叫なのかけ声なのかよく分からない声と共にクソジジイの声はロードローラーの下へと消えていった。
ふ……満足。
復讐完了。
私の力を甘く見るからこういう目にあうのよ。
へへん。
て、あれ……力を使ったのにお腹空かないな。
それになんか前来たとこと同じ真っ白な空間だ。
「……ここもしかして現実じゃない?」
「気付きおったか!!馬鹿娘よっ!!!」
クソジジイの声がロードローラーの下から響いてくる。
「私をこんなとこに呼び出して何の用よ、クソジジイ」
私はロードローラーの下にいるであろうクソジジイに向かって声をかける。
「刹那の記憶の星について教えに来たというのにこの仕打ちっ!!」
「使ったらお腹がすく使いづらい能力付加した挙句に、言葉が通じない世界に放りだされたんだからこれぐらいじゃ足りないわよ」
「貴様……っ!!!鬼畜生かっ!!!!」
「で、刹那の記憶の星って何なのよ、いったい」
クソジジイの非難の声をスルーして私は先を促す。
「刹那の記憶の星とはお主の目の前にあった石が刹那の記憶の星そのものじゃっ!!!」
「まじか」
あの岩が刹那の記憶の星だっていうの?
「あんな馬鹿でかい岩持ち歩けないんだけど」
「それは大丈夫じゃっ!!刹那が触れることにより岩は刹那の記憶へと変換されるであろう!!」
なるほどなるほど。
じゃあ、戻ったらさっさと試してみよう。
「それで、他に私に言っておくことは?」
「特にはないっ!!!!」
ほうほう。
特になしですか、そうですか。
あんな使いづらい能力を付加した上に言葉も通じない異世界に放り出したのにわびの一言もないと。
「じゃあ私もあんたに用は無いわ」
そう言うと私は巨大な墓石をネタ帳に書き加えロードローラーの上に召喚した。
墓石にはこう書き綴っておいた。
クソジジイここに眠る。
「おのれ、馬鹿娘め……っ!!!」
「あんたが手抜き転生なんかするからこんなめにあうのよ」
「黙れっ!!まさかあんなことになってるとは神のわしでもわからなかったのじゃ!!」
「神なんだからそれぐらい把握しときなさいよ……」
「神が全知全能だと思うのが間違いじゃっ!!!」
「……まぁいいけど」
「それでは、再び行くがよい、奏よ!!!」
その言葉と共に輝く扉が現れる。
「とりあえず、当分そのままで反省してると良いわ」
「貴様が現世に戻ればこの重りも形を失くすわ、しれ者め!!!」
「チ……」
舌打ちをして私は輝く扉に手をかけ元の世界に戻って行くのだった。
―――
目が覚めると心配そうな顔をした刹那に膝枕されて仰向け寝かされていた。
「奏さん、目が覚めたんですね」
「いやー。いくら声かけても死んじゃったみたいに寝ちゃってたからビックリしたよ、奏さん」
アカリも私の顔を見てホッとしたような顔をしている。
「クソジジイに会って来たわ……」
「え?」
「刹那、ちょっとその岩に触れてみてくれない」
「あ、はい。分かりました」
私が立ち上がると膝枕していた刹那も共に立ち上がり、近くにあった岩に手を触れる。
すると。
岩と刹那が淡く光輝き始めだんだん光が強くなっていく。
眩しいばかりの光に岩と刹那は包まれて。
光が収まった時、岩はごっそりとなくなってしまって大きな穴がぽっかりと口を広げていた。
「まじか」
「おー……これはまた……」
私の隣で同じく刹那の様子を見ていたアカリはポツリとそうもらす。
「刹那、記憶戻った?」
「はい。少し記憶が戻ったみたいです」
そっか……これで一歩前進かな。
「奏さん、奏さん。これめっちゃやばいですよ」
ホッとしているのもアカリが私にそう言ってくる。
へ?やばいって何が?
「さっきの岩、この国の重要文化財だったんですよ」
なん……だと……。
そんな重要なものだったの?
「重要文化財が無くなったなんて学園の理事会に知られたら非常にまずいですねー」
言葉とは裏腹に何故か楽しそうな表情でニッコリとアカリは微笑む。
アカリ……もしかしてこの状況すごく楽しんでない?
と、とりあえず。
私はネタ帳を懐から取り出してさっきまであった岩を思い出しながら描き出す。
そして、それを穴のあった場所に召喚する。
同時にお腹がグ~っとなる音が鳴り響く。
「へー……話には聞いてましたけどなかなか面白い能力ですね。これなら誤魔化せそうです」
「まぁね……でもお腹減っちゃうんだよ、この能力使うと……」
「それはまた難儀な能力ですねー」
「だから、今すぐ食べ物のある場所に連れて行って……」
その言葉と共に私はバタリと力尽きた。




