私、異世界生活始めちゃいました。その5
サクヤが持って来たオススメ定食を食べていると。
「あれ?あんた確かこの前ユズキはんとこおった……」
そんな声をかけられた。
この前ユズキの会社で会ったピンク髪の少女だ。
ピンク髪の少女は今日は和服ではなく。
男子諸君はちょっと目のやり場に困りそうなとってもスポーティな恰好だった。
「奏。野々村奏だよ」
「そうそう奏はんに、刹那はんかー。うちはヒルコ=イクタ。生田亭の一人娘や。ヒルコでええよ」
「一人娘なのに今日はサクヤが一人で手伝いしてんのね」
「今日はサクヤがバイトの日やからなー。ウチ、普段は日本で料理の勉強しとんねん。今ちょうど夏休みでこっちに帰って来とるだけ」
「へー」
なるほど。
ユズキが言ってた日本に行ってる子っていうのはこの子達みたいな子かぁ。
ん?
「でもヒルコみたいな髪だと日本で目立つんじゃないの」
ヒルコみたいなピンク髪だったら尚更だ。
コスプレでもないのに日本にこんな髪の毛の子がいたらめちゃめちゃ目立つ。
「ああ。その辺は便利なもんがあってな。髪の毛の色とか自由に変えることできるねん」
「ふーん……そうなんだ」
会話を即時変換出来るヘッドセットみたいなものもあるんだから、髪の毛を自由に変えるものがあっても不思議じゃないか。
「ま、ゆっくりしてってーな」
「うん。ありがと」
そんなわけで、私と刹那は生田亭のオススメ定食でお腹を満たして。
帰路へと着くのであった。
うん。これからは夕飯はここでとることにしよっと。
同人のネタに困ることがなさそうだし。
……つっても同人誌出す機会なんてもうなさそーだけどね。
でもそれでも探してしまうのは同人作家のサガだからしょうがない。
帰る途中にユズキの言っていた日本の店に入ることにした。
なんかラインナップが丸々日本の食品なのがなんか違和感。
でもまぁ何を買うか悩まなくて良いから良いんだけどさ。
家に帰って早々に刹那はシャワーを浴び眠ってしまったので、今日も今日とて私はネットサーフィンに勤しむことにした。
ネットを見ながらやっぱ一年のブランクはでかいなーとつくづく思ってしまう。
死んでた一年間のうちに見たかったアニメ終わっちゃったりしてるしさ。
まぁフリーの動画配信チャンネルで一挙放送とかやってるからそれ見ればいいんだけど。
とりあえず今日も気になるアニメでも見て過ごすかな……。
そう思い動画配信チャンネルを見る私なのでした。
うん。異世界生活しててもそんな気がしてこなくなってくるなこれ。
―――
朝の光が眩しい。
ついつい昨日は深夜までアニメを見過ぎてしまった。
今日は刹那に椅子を引かれてたたき起こされないようにベッドで眠っていた。
おかげで刹那が起きる前にバッチリ目が覚めてしまったのだけど。
二段ベッドから降りると刹那はまだすよすよと寝息をたてていた。
さて……刹那が起きる前に朝食の準備を済ませますかね。
今日はパンに目玉焼きを乗せた簡単な食事にしてしまおう。
しばらくして。
「おはようございますー……」
「おはよう。今日は遅かったのね」
「何だか昨日動き回ったせいですかね……」
どんだけ運動不足なんだろう刹那は。
でもまぁその辺、普通の人間とは違うんだろうからしょうがないか。
そんな会話を交わしながら私達二人は朝食を取る。
そして、お昼前。
ユズキに指定された時間に間に合うように天御中学園へと向かう。
その入り口に辿り着くと燃えるような赤い髪をした少女が私達を待っていた。
「私の名前はアカリ=マスミダ。一応この学園の研究課程生でっす。気軽にアカリって呼んでくださいね」
「私は野々村奏。で、こっちが刹那ね」
私が少女に自己紹介すると刹那は私の陰に隠れながらもペコリとお辞儀をする。
「おー……話には聞いてたけど、この子が今噂の天使様ってやつですか」
「死神かもしれないけどね」
「んーまあそれはどっちでもいいんですよこの際。翼の生えた人ってだけで超珍しいんですから」
その割にはあんま気にしないよね、ここの人。
そういう人もいるんだろうっていう感覚なのかなぁ。
日本だったら確実に目立ちまくってしょうがないのだけど。
しかしまぁ。
ユズキの知り合いってなんでこんなやたら美少女が多いんだろうか。
昨日のサクヤも可愛かったけど、この子、アカリもすっごい可愛い。
サクヤちゃんは和風美少女としたらアカリは洋風美少女って感じだ。
こんな美少女に囲まれた生活してりゃユズキも同人のネタに困らないよね、そりゃ。
「私の顔、何かついてます?」
私が黙りこくってアカリの顔を見ているのに気付いたのかアカリはそう問い返してくる。
「いや、アカリも可愛いなぁって」
「またまたー。お上手なんですね奏さんって。そんな褒めても何もでないですよー」
言いながら頭を掻くアカリ。
「まぁそんな話はともかく行きましょうか」
「ん、お願い」
そうして私と刹那は天御中学園内へと足を踏み入れた。
しばらく校舎の中を歩いた後。
「ここが『ギフト』を初めて授かった場所だって言われてます」
案内された校庭の片隅には何か馬鹿でかい岩の横に記念碑っぽいものが立っていた。
「ふーん……。刹那、何か感じる?」
「えっと……特には」
刹那は申し訳なさそうな顔を向けてくる。
まー、千年前に降った『ギフト』ってのもよく分かんないものだしなぁ……。
そう思いながらペチペチと私は岩を叩いていると。
あ……レ……。
急に私の体から力が抜けていき。
私の意識は遠のいていった。




