私、死んじゃいました。
約一ヵ月ぶりに新作を思いついたので書き始めました。
相変わらず拙い文章ですが最後までお付き合い頂ければ幸せです。
私、野々村奏は同人作家だ。
ペンネームはノノムー・カナデ。
こらそこ、安直すぎるペンネームだって笑わない。
これでも高校時代から使っている愛着のあるペンネームなのだ。
そして私をただの同人作家と一緒にしてもらっては困る。
自分で言うのもなんだけど。
新刊一冊だせば、その辺のオタク男子達がブヒブヒ言いながら群がってくる。
グッズセットなんか出そうものならサークルチケット組だけで即完売。
オタク界隈では私のサークル『ノノムーのお庭』に並ぶオタクたちのことを『ノノムラー』なんて呼んでいる。
それぐらい超売れっ子作家だ。
私の年齢は二十二歳。
見た目は所謂普通の一般女性。
可愛い過ぎず、派手過ぎず。
髪型は長い髪を後ろで三つ編みにしてまとめている。
そんな恰好をしているからか歳の割には幼く見えるらしくて女子高生に間違えられることもしばしば。
その辺がオタク男子達にうけていると専らの評判だ。
そんな私なのだけど。
どうやら逝ってしまったらしい。
ここで言う逝くというのは、いやらしい意味でも何でもなく。
言葉通り死んでしまったという意味だ。
それはもうサックリと死んでしまったようだ。
何故そう言えるのかって?
だって今この私の眼下に私の死体が転がってるんだもの。
何でこんなことになってしまったんだろう。
よーく、思い出してみようかな。
―――
えーっと。
確か私はいつものように暑い照り付けるような日差しの中、何か面白い同人誌のネタが転がってないかなぁと、ネタ帳片手に散歩をしていたはずだ。
で、私の目の前に降って湧いたかのように、私好みの幼女達が笑いながら駆けていく姿を見つけた。
ああ、これは捗る捗るーーー!!
そう思いながら道の真ん中だというのにネタ帳にペンを走らせる私。
うん、我ながらなかなか良いシーンに出くわしたものだ。
これが天啓というやつなんだろうか。
ん……なんか妙に周りが騒がしいなぁ。
なんだろう?
まぁ、良いか。
忘れないうちにさっきのシーンのラフをおこしてしまおう。
そうこうしているうちにますます周囲の喧騒が大きくなってくる。
流石にその喧噪が尋常じゃないので顔を上げた瞬間。
私の目の前には勢いよく突っ込んで来るトラックの姿が一台。
あ……ここ道の真ん中だっけ。
そう思ったのも束の間、私の体は宙を舞った。
―――
回想終わり。
……。
ああ……なんて間抜けな死に様なんだろうか。
私の死体、真っ赤な血だまりの中、描きかけのネタ帳抱きしめて転がってるし。
絶対これ匿名掲示板とかニュースサイトとかでネタにされるやつだ。
タイトルはこんなとこだろうか。
『【悲報】同人作家のノノムー・カナデ先生(本名:野々村奏さんw)、車道で幼児のラフスケッチを描いてたらトラックにはねられ死亡。』
うわー……笑い話にしかならない。
殺せ、いっそもう殺せ。
あ、もう死んでましたね。
なら良いか。
いやあんまり良くないけど。
そんなことを考えていると私の体は浮遊感に包まれ、目の前がだんだん白くなってくる。
あー……これが天に召されるということなのかなと思いながら目をつぶる私。
グッバイ現世。
なかなか楽しい同人ライフだったよ。
ノノムラーの皆も自分好みの新しい同人作家を見つけてくれたまえ。
「あのー……」
声と共にちょいちょいっと私の肩を突く誰か。
ちょっと、私は今、現世に思いを馳せてるんだから邪魔しないでよ。
楽しかったなぁ。
同人活動を始めたのは高校生の頃だっただろうか。
同人誌作るのなんて初めてで学校のコピー機でコピ本作ったのも良い思い出だ。
「もしもーし」
だからさっきから五月蠅いっての!
ちょっとは去り行く現世の感傷に浸らせなさいよ!
そう思いながら声のする方に顔を向け目を開けると。
そこには黒い和装に身を包んだ白い羽の生えた背の低い金髪ロングの美少女がいた。
「天使なのか死神なのかどっちかにしろぉーーーーー!!」
スパーン!!
私はそう声を張り上げると共に軽快にその少女の頭にツッコミを入れる。
「きゅう……」
少女は私の思わぬツッコミを受けて目を回して倒れてしまった。
「しまった……」
見た目のあまりの衝撃に思わずツッコミを入れてしまった。
この子って……私をお迎えに来たんだよね、きっと。
やばいなー。
これ私、地獄送り確定なんじゃないの。
うーん……このまま逃げちゃおうかな。
そう思い辺りを見回すと。
さっきまでの凄惨な交通事故現場とうってかわって周囲は何処までも白い空間が続くのみ。
足元も何もかもが真っ白い。
こんな何もないとこで逃げてもなー……。
すぐ捕まっちゃいそうだし、ここは慌てずに少女を介抱してあげよう、そうしよう。
私は少女の体を仰向けに寝かせ膝枕をしてあげることにした。
よいしょっと……。
私の膝に少女の頭を乗せ、金色の髪をすくように撫でつける。
それにしてもこの子……めっちゃ可愛いな。
この場にネタ帳があったらスケッチしてしまいたいくらいの美少女だ。
なんかすごくいい匂いもするし。
思わぬ幸せな心地に浸っていると。
しばらくして。
「う……」
「あ、気が付いた?ごめんなさい、思わず突っ込み入れちゃって」
私の膝から身をおこしたかと思うとのっそりと立ち上がる少女。
そして辺りをキョロキョロと挙動不審に見回す。
「……ここは何処でしょう?」
一通り見回した後、キョトンとした顔で少女は私に問うてくる。
「は?」
何言ってんの。
「あなたが私をここに連れて来たんじゃないの」
「そうなんですか……。それで、えっと……あなたは……どなたなんでしょう?」
「え……」
今なんて言った、この子。
私が誰だか分からない……?
自分で連れてきといて?
そして、続いて少女は我が耳を疑う言葉を口にするのだった。
「私の名前は刹那……。私、それ以外のこと思い出せないみたいなんですけど……」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」