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二つ名オンライン  作者: そらからり
3章 アウトサイダーズ
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95話 切り替えと連想

【マカ視点】


 大切なのは切り替えと連想だ。それが今回のようなイベントではキーとなるに違いない。


 さっきまでの竹田さんとの会話……お兄としず姉のことを考えるのは切り替える。今は目の前の敵のことだ。

 イベントでお兄としず姉は参加者であって登場人物ではない。2人はこのイベントをクリアするキーではない。同様に私も竹田さんも、クラムバーちゃんもだ。


 連想すべきはポーラちゃん、モグラさん、ネズミさん、カエルさんだろうか。後は……小人の兵士さん達もかな。

登場人物がこの人たちとして、舞台は地下世界……?

 モグラさんやネズミさんが登場人物としているから地下世界が舞台なのだろうか。彼らの本質は何かの下に隠れ住むことなのだから。


 キーワードはまだ足りない。だけど、これらから連想される物語は存在する。


「グリム童話の親指姫……ちっちゃい頃に読んだ絵本の1つにあったなー」


「私も娘に読み聞かせた数少ない話の1つでありよく記憶に残っているよ。老夫婦に育てられた小さな姫が転々と夫となる候補の家を移動した後に同じく小さな王子と結ばれる話だったね」


「うん。色んな人……というかモグラさんやネズミさん達から結婚しようって言われるけど、それでも一番好きな人と結婚するお話」


 真実の愛を探したのか、それとも求婚して来た相手を断り続けた先に自分と同じ小さい人がいたのか……きっとそれは読んだ人の見方で変わるのだろう。物語は読み手の理解次第。それはどの物語にも共通する。


 愛、か。さっきのお兄としず姉の話を嫌でも思い出しちゃうな。答えがいつ出るかは分からない私の密かな悩み。竹田さんには自分で考えろって言われちゃったけど、答えが確立していない問題って一番私の苦手とするところなんだよね。


 ううん、それよりも目の前の敵だ。

 だけど、これが一番分からない。お兄としず姉のことよりも、とっかかりがつかない。


「親指姫におにぎりなんて出ていたっけ……?」


 親指姫にお爺ちゃんとお婆ちゃんが持たせていた……ってことなら納得は出来るけど、そんな重要度の低いものがこうしてわざわざ敵としてつくられる意味が分からない。それならまだお爺ちゃんとお婆ちゃんが親指姫を引き留める敵として出て来たほうが分かりやすい。


「マカ君、切り替えるんだ」


「切り替えるって……親指姫を考えないで目の前の敵に集中するってこと?」


 幸いなことに私達が何かアクションを起こさないとおにぎりさんも動かないようで、名乗ってからまだその場に立っているだけだ。


「それも重要だがね、この場合に切り替えるとは、物語の切り替えだ。どうもこの話は親指姫だけでは収まらないようだ。それはここが地下世界であることから分かるように」


「……?」


 モグラさんやネズミさんがいるから地下世界ってことなんじゃないの?


「モグラは今は退場しているから関係ないだろう。今私達が目指す敵、それはネズミだ。ネズミとおにぎり、そして地下、つまり穴の下の世界とくれば自ずと別の物語が連想出来るはずだ」


「あ……」


 思い浮かんだ物語は1つ。

 親指姫がグリム童話なら、それは日本昔話。ポーラちゃんというお姫様がいるから私は親指姫に固執してしまったけど、竹田さんは地下世界を見ていたみたい。


「おむすびころりんだったっけ。お爺ちゃんがネズミさんのおにぎりをあげたら宝箱をもらったんだよね」


「うむ。無欲な老人と強欲な老人の対応の対比をしている物語だ。無欲な老人はその後も幸せに暮らしましたとさで終わるが、強欲な老人は酷い目に合うという昔話によくある終わり方をする物語の1つだね」


「でもその場合ってネズミさんって悪い人じゃないよね」


 悪い人というか悪いネズミさんかな。


「そこはただの連想だろうね。親指姫……ネズミ……おにぎりという連想。この場合はネズミという登場人物だけが重要なのだ」


 そういえばちょっと前に桃太郎のお供をモチーフにしたモンスターと闘ったなぁ。

 そうか、ああいう感じでただ名前を、登場するという意味だけを借りているのか。


「兎にも角にも闘うだけさ。あれはおにぎりという名前を借りられただけのモンスター。それを倒した先にネズミがいるというだけ」


「うん! 頑張っておにぎりさんを倒そう!」


 私が剣を構え、竹田さんが両手に苗を持つ。


「話は終わったようだな。吾輩は寛大であるからいくらでも待つが」


「寛大であるならそこを通して欲しいがね」


「それは無理な相談だ。吾輩はネズミ殿の忠実なる兵士。老人に作られ穴へと落とされこうして生を与えられた身だ。今では具材までもを与えられ、おにぎり界ではそれなりに地位にまで付けた」


「ふむ、その口調では他にもいる様子だね」


「ああ、吾輩の他にも3体のおにぎり兵士は存在する。老人は3つのおにぎりを老婆から与えられた。それをあろうことか自分では食べずに3つともネズミ殿に与えられた。吾輩は尊敬する。吾輩は奉公する。あのような偉大なる方々に作られ持たれ与えられた存在であることに。だからこそ、吾輩はこの場で闘うのだ」


 ネズミさんのために闘うってことか。

 私がポーラちゃんのために闘うのと同じで、自分を守るではなく他人のために。


「悪いけど、私達はネズミさんのところに行くよ! ここは無理にでも通る!」


 竹田さんが伸ばした木の後を追う形で私は剣を構えておにぎりさんへと突っ込む。


「ぐっ……なんと強い攻撃だ」


 木はおにぎりさんが腰に下げた刀を掴むよりも先におにぎりさんの片手を奪い去る。

 思っていたよりもおにぎりさんは脆いみたい。何の抵抗もなくボロボロとお米を撒き散らしながらおにぎりさんの手は落ちていった。


「序盤から隻腕になろうとは、何という闘いだ……。これが戦場、これが侍同士の闘い……吾輩は感激しておるぞ」


 私も竹田さんも侍じゃないけどねー。

 侍といえば剣客さんは元気かな。あの人の武器は刀だったからこのおにぎりさんとの闘いは本当のお侍さん同士の闘いになるのかな。


「そちらの御仁は木を操るのか。そして娘子は剣士か。吾輩とは相性の良いものを使ってくれおる」


「私はマカだよー。相性って?」


 『舞空剣技』によって剣を空中に浮かべる。

 出し惜しみは無し! 浮かべるだけ浮かべておく。


「そうかマカ、失礼した。相性が良い、それはこういうことだ!」


 おにぎりさんが残った腕で刀を取る。

 その刀で追撃しようとした私の剣を受け止める。


「吾輩の具材は梅干し。金属を腐食させる吾輩の力、受けてみるがよい」


 刀で受け止められた剣がじわじわと溶けていく。


「そして、吾輩が直に触れば更に腐食は強くなる」


 おにぎりさんが私の剣に触れようとした。

 瞬間的に私は後方へと退く。剣はその場に捨てていく。すでに刃の半ばまで溶けており諦めるしかなかった。

 1歩引いてもう1歩。後ろ足で退こうとした時であった。


「足が!?」


 足が釘か何かで打ち付けられたかのようにそこからガッチリと動かなくなってしまっていた。


「マカよ、お主とは本当に相性が良い。剣士との闘いにおいて吾輩は無敗の力を誇る。これが吾輩の初戦ではあるがな」


「何をしたの?」


「吾輩の腕がただ奪われただけ。そんなはずがなかろう。吾輩の全身は余すことなく米粒から成っているからして、腕を切られれば腕は米の塊として、米を撒き散らしながら地面へと落ちていく」


 おにぎりさんの言う通り、お米はそこら中に、おにぎりさんの周囲に落ちている。

 勿論、私の足元にも。


「粘着力の強めた米粒だ。吾輩の体を構成しているのだから当たり前だがな。その場から動けない。剣は私に通じない。吾輩はお主に負ける要素はない」


「私もいるのを忘れていないかね?」


 竹田さんの木が2本、私の後方から伸びておにぎりさんの足を2本、吹き飛ばす。

 更に地面にお米が散らばるけど、そんなのは竹田さんには関係ない。


「忘れてはいない。ただ、眼中になかっただけだ」


 伸ばされた木をおにぎりさんが残った腕で掴む。するとそれは私の剣と同様に腐食していった。


「良い木だ。杖にさせてもらうぞ」


 おにぎりさんが木を腐食させ長い杖らしきものをつくる。それを片手で器用に千切れた手足を拾い集める。


「米とは接着性に優れるもの。おにぎりとは米粒の集合体。故に吾輩は無敵なのだ」


 おにぎりさんが集めた手足をそのまま失った部位にくっつけると、何事もなかったかのようにくっついた。


「吾輩の周囲には米粒が霧散し接近戦は不可能。遠距離の攻撃で吾輩に致命傷を与えることも不可能。相性が良い。実に相性が良いのだ」


 おにぎりさんが勝ち誇ったように笑う。


「マカ君、そいつの言うことは本当なのだよ。私はこれで通算3度、そのおにぎりの体の部分を狙った。だが結果は手足を吹き飛ばし米粒を地面にまき散らすこととなった」


「それって……」


「うむ。私の木は腕を吹き飛ばしたのではなく、吹き飛ばさせられたのだよ」


 遠距離からの攻撃も不可能ってこういうことなんだね。

 目が良いのか反射神経が良いのか分からないけど、攻撃を見切ることが出来る。見切った上で自分の能力を最大限に生かすようにあえてお米を散らばすように手足に当てる。


「そしてマカ君。君がこの空間を選んだ理由が広いというものであったが、所詮は空間だ。木を伸ばしすぎることは出来ない。君の闘いを邪魔してしまうことになりかねない」


 竹田さんの攻撃は縦ではなく横に強い。広い空間ではあるけど、いくら天井が高くても意味が無い。木を天井に伸ばしてもそれは相手には通用しないのだから。


「ねえおにぎりさん。おにぎりさんって防御力は低いよね」


「そうではあるが、それがどうした? 吾輩の体は頭の先からつま先まで接着性の塊だ。どこを千切られても接着出来る。故に防御力などいらない」


「ふうん。そうなんだ」


 私の足が動かないから剣士とは相性が良い。

 そう、おにぎりさんは言っていた。

 だけどね、


「私が一番得意なのは接近戦じゃなくて、中距離戦なんだよ!」


 天井付近に浮かばせていた剣を一斉におにぎりさんに振らせる。


「『スラッシュ』×10!」


「なっ!?」


 お米が地面に撒かれるが関係ない。

 必死に刀で応戦するけど10本の剣には追い付かない。


「溶かす刀も1本しかない。それじゃ私には勝てないよ!」


 せめてアザリカさんみたく避けることが出来れば。

 せめて剣を上回る防御力があれば。


 溶かす刀も、くっつく体も、固定するお米も1つ1つは強いけど、それだけじゃ足りない。

 攻撃が当たってしまう前提で、しかもそれで体がバラバラになってしまう防御力だと私とは相性が悪い。


 体を狙った剣は全て手足へと吸い込まれていく。しかし4本の剣が手足を通過しても尚、6本の剣が残っている。

 頭を、腕を、足を、胴を切って更に2つに割っていく。


「は、はは……。驕った結果というわけか」


「私を甘く見ないでね!」


 おにぎりさんがポリゴンとなって消えていった。

 同時に、足元のお米も消えて私は動けるようになった。


「よくやったマカ君」


「竹田さんが木で手足を吹き飛ばしてくれたからねー。全部吹き飛ばしちゃえば文字通り手も足も出ないんじゃないかって思ったんだ」


 残った腕で手足をくっつけていたから、手足を残さなければ何も出来ない。

 接近戦なら相手は足元を固定されているし、遠距離なら次の攻撃までに時間がある。そう考えていたからああいった闘い方をしていたんだと思うけど、私は手数で闘う中距離の剣士。


「うん? 何か現れたぞ」


 おにぎりさんがいなくなった場所に光が灯り、消えた時には1羽の鳥籠に入れられた鳥がいた。


「ツバメだね! 親指姫に出てくるやつだ!」


 親指姫にとっては味方となる存在。

 ならば私達にとっても味方のはず!


「ツバメさん、私はマカだよ!」


 自己紹介は大切だ。特に今の私にとっては。

 お兄の妹ではなく、しず姉の幼馴染でもなく、私が私であるということを紹介するんだ。

 何時までも甘えてはいられない。少しずつ大人へと切り替えていくんだ。


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