94話 関係性
「竹田さん竹田さん」
「ど、どうしたかねマカ君」
マカと竹田はリュウキ達と道を分かれて歩くこと数分、地図ではそう遠くないはずの場所で曲がったり、短いはずの直線を延々と歩いていた。
一度闘い、その後仲間となった関係の2人であり、竹田としても、マカとしても仲間うちでは決して悪くない仲のはずである。むしろ竹田にとっては最も親しいと感じており、マカも懐いていたのはリュウキやシズネも感じていた。
しかしながらそれは4人でいる時のことであり、こうして2人きりとなった時。その時は両者ともに気まずい雰囲気を醸し出していた。
思い出すのは『五行同盟』討伐時、異空間へと飛んだ際にマカは竹田と共に飛ばされた。マカは竹田を共に闘う仲間と思っていたがその実竹田は敵であり、奇襲を受け、その後紆余曲折あって勝利した。
この状況はそれと少しだけ似ていた。2人で何かしらの敵を倒す。竹田は特にあの裏切った時のことを思い出しマカに話しかけにくくなっており、マカはそうした竹田の感情を組みとってしまったことで気にしていないにも関わらずどう接して良いか分からなくなってしまっていた。
そのため洞窟内を歩くこと数分、ここまで終始無言であった。竹田は自分からマカと組みたいと言い出したがためにこの結果となっていることを恥じ、どうにか話題を振ろうとするのだが、何を話せばいいのか分からない。まともに娘とすら会話をしていなかった仕事一筋の男だ。年頃の少女との会話術など持ち合わせていなかった。
学校や趣味、このゲーム内で楽しかったことなど聞きたいことはあるがどう切りだせばいいのか分からない。話しかけようとしては思いとどまった結果はこの数分間であった。
そんな折、マカから声をかけられた。
少し声が上ずってしまってもしょうがなかっただろう。
「お兄としず姉のことなんだけどねー」
「リュウキ君とシズネ君のことか」
マカとしてはこの状況はあの闘いが原因であると理解していた。
だから、関係のない話をしようと、闘いとは無縁の話をしようとしていた。
「あの2人ってどう見える?」
「ふむ。どうとは……確か幼馴染であったな、マカ君を含めて3人で仲が良いのだろう?」
「そう、仲が良いの! だけどね、それはお友達としての仲が良いってことで、恋人みたいなものじゃないんだよ」
「恋人……ああ、そうか」
「何であの2人って何時までもああなのかなって」
男女間の友情は芽生えるかどうか。
決して下心無しでは男女の友情は成立しない。だが、互いを男女と見ていなければ、有り得る話なのかもしれない。
マカは、リュウキとシズネが互いに好意を持っていることに対して、好きなら好き、なぜ付き合わないのかと言っていた。
「竹田さんって娘さんがいるし結婚しているんだよね? 付き合うって、好き合うって良いことなのかな? 友情と恋愛って違うの?」
「ふむ……」
この質問に対しては竹田は答えを持っている……が、答え方に困難を窮していた。
本来であればこういったリアルの事情を交えた会話はマナー違反となるが、マカはそう言った事情には詳しくはないし、竹田はゲームを始めた理由がリアルの事情を完全に巻き込んでいるためどちらもそのことには気にせず話は進んでいくことが出来る。
だが、竹田の返答に果たしてマカは納得いくだろうか。いや、納得したところでどう行動するか、それが竹田の悩みであった。
男女間の友情は成立しない。そこには必ず恋愛感情という下地がある。だから、リュウキとシズネは好き合うという意味で付き合うことがある。恋愛感情とは、感情の中でも最も尊いものだ。
そう伝えてしまえばマカはじゃあ2人の邪魔をしないようにする、と言って2人から離れていくことであろう。兄と幼馴染、その両方を自ら遠ざけ失うことになるだろう。
男女間の友情は成立する。男女とはただの性別の差であり、本人達が友人だと称しているならばそれは友人間の感情であって、他の感情は何も挟まれない。リュウキとシズネは仲の良い幼馴染であり、そこにはマカも含まれている。
そう伝えてしまえばマカはリュウキとシズネと何時までも仲の良い兄妹、幼なじみであり続けようとするだろう。2人と自分との関係は同じなのだからずっと一緒にいられる。稀に友情以上の感情が見えたとしてもそれは決して恋愛感情ではないのだから自分も混ざってしまっていいのだと、そう自分を騙してでも一緒にい続けるだろう。
どちらにせよ不憫。竹田には分かっている。リュウキとシズネは幼馴染以上の関係であると。だが、恐らくはまだ想いは強くは非ず本人達も薄っすらとしか意識していない。そのため今の3人の関係性は保たれているのだろうと。
答えるならば前者であろう。だがそれでは駄目だ。
マカが可哀想というわけではない。
良くも悪くも素直な子なのだ。疑わず、信じることは人として大切でありそれはこれから成長していくにしても残していってほしいものである。
「ねえ竹田さん、私はどうしたらいいのかな……。私はお兄としず姉とこれからも一緒にいていいの? 教えて竹田さん」
この子ならばそれは乗り越えることが出来るだろう。
問題はそのきっかけだ。
これは竹田が提示していいものではない。
「マカ君、私は君の保護者ではないのだよ」
ここだろう。
ここではっきりと関係性を伝えておくべきだろう。
リュウキとシズネの……ではなく、竹田とマカの関係性をだ。
「私は君の教師では無く、ましてや父親でもない。君に何かを教えることは、人生に対して教授することは出来ない」
非情にも思える言葉を竹田は静かにマカに伝える。
それはある種、自分にも言い聞かせているように。
「私は君の人生に対して責任を持てない。君に影響を与えることがあるとしてもそれは私が能動的に行うことではなく、君が他者を関わっていくうちに備わっていくものだ」
敵対者から始まって今に至った関係性。
それは教師でも無く父親でも無く……
「私と君は仲間だ。友人だ。だから君に対しては何も教えられないのだよ。人生の先輩として伝えることは伝えてもいいとは思う。だがね、マカ君に対してこうしろとは言えない。君は君の力で成長するべきなのだから」
仲間、友人。それ以上の関係ではない。そう竹田は言い切る。
ある意味で男女間の友情とも言えなくはないが、親子ほども年が離れすぎているため恋愛感情などこの2人には起きず、そして竹田が父親ではないと言ったことで友人という関係性だけが残る。
「君が見て、君が感じて、君が思った通りに生きる。それでいいのだよ。あの2人もきっとそれを望んでいる。遠慮なんかいらない。兄と幼馴染みの姉なのだろう? 悪いことをしたら叱ってくれるさ。良いことをしたら褒めてくれる。それと一緒だ。マカ君が一緒にいたいならば一緒にいればいい」
ここまで来れば答えに近いものを言ってしまっているあたり自分もこの子には甘いなと竹田は反省する。
非情になろうとしても、それは説教ではなく道を示すだけなのだからどうしても言葉を冷たくしきれない。
「どちらにせよそう遠くないうちに結論は出るだろうさ。マカ君は関係なく、その元気な姿勢を見せ続ければいい」
「私は……何時も一緒にいると思っていた。それが当たり前だと……」
「外の世界を知らないというならば一度、2人から離れてみるのもいいと思うがね。離れた位置から見えるものもあるだろう。客観的に判断出来ることもあるだろう。全てはマカ君次第だ。君の人生は君にしか決められないのだよ」
「人生……なんか壮大だね」
「壮大さ。何せ生き物がみな一生をかけて取り組むことなのだからね」
人生は……道は何時しか終わる。
その時何を思うのか。それだけでもどれだけ良い人生を歩めたかが変わる。
「さあ、まず私達が取り組む第一歩だ。姫を助けるというのも、壮大な物語を連想させないかね?」
別れ道から歩いておよそ20分。
会話をしながらではあっという間であった。最初の数分の方が長く感じたくらいだ。
「何かがあることは明白だ。だからまずは、気を引き締めていこう。先ほどの話は考える時間ならばこれからいくらでもある。いくらでも悩んで、答えを探すと良いさ」
「うん! ありがとう竹田さん」
竹田は何もしていない。
自分で考えろ、言ったことはそれだけだ。だがそれでも、マカにとっては自分で道を作るきっかけとなった。兄と姉の後を追うだけの人生では無くなった。
「吾輩は『ライス・ボール・ソルジャー』。具材は梅干しであるぞ」
友人であり仲間である2人を待ち構えていたおにぎり兵士はそう名乗った。
次話でちゃんと闘います




