92話 楽しむということ
ポーラから受け取った地図。そこにはポーラを娶ろうとするネズミのいる場所まで続く洞窟の場所とその内部が記されていた。入り組んだ迷路のような地図を見ているだけでこれから入る洞窟の入り口を見て少しだけ嫌気がさす。
地図を見た限りでは入り口を過ぎた後ではいくつか分かれ道が存在しており、どの道を通っても最終的には道は合流するようではあるが、道によってはかなり遠回りになるものもある。
5人ひと固まりとなった方がいい。それが5人全員の一致した考えであった。
「入る前にクラムバー君」
「なんだい? 竹田さん」
竹田がクラムバーを呼び止めた。
まさか一緒について来るな。そう言いだすのではないかとリュウキは不安になる。
クラムバーに対して疑心感を持つ竹田だ。何を言い出すか分からない。
「君の戦闘スタイルを教えてくれないかい? これから共に闘う身としては、君がどのような闘い方を知らなければならないと私は思うのだけどね」
「戦闘スタイル? ……ああ、そうだね」
「勿論私のスタイルも伝えよう。リュウキ君達、君達のも言ってしまっていいかね?」
「ええ、大丈夫です」
竹田はクラムバーにそれぞれの闘い方の特徴を教える。
竹田が木を使うこと、リュウキが拳での接近戦を得意とすること、シズネがテイマーであること、マカが剣士であること。
ちなみに二つ名まで伝えたのは竹田のもののみであり、リュウキ達のは伏せられた。了承を得ているとは言え、そこまで伝えるのは失礼に値すると判断されたためであろう。
クラムバーはそれを興味深そうに聞いている。
時折質問を挟んでいるが、竹田は自身のことに関してだけは答えており、リュウキ達のことに関しては濁している。
それらを聞いていてリュウキは思う。
伝え方が大雑把であることに。
というか、ネットで調べれば出てきそうなことしか竹田は語らなかった。
この場にいるクラムバーを除く4人は敵味方関係無しであれば『五行同盟』に関わっている。
そしてその戦闘こそ詳細に明かされていないが誰が誰を倒したかくらいならば掲示板上にも上がっていた。プレイヤー名からどんどんと二つ名や職業、どのような見た目であるのか。暇な者は特定を始める。
特にシズネやマカといった可愛らしい少女であれば尚更情報を得ようと画策する。
さすがにリアルまでは特定されてはいないが、現在荒野にいることくらいは知られているのかもしれない。
そうした背景を知っているリュウキとしては、竹田の語る情報は仲間として共に闘った感想というよりも、ネットから得た第三者の機械的な返答に近いものであった。
「ふうん、そうなんだ。竹田さんがあの有名な『五行同盟』の1人だったのか」
「有名というよりも悪名高いといった方が近いのかね。私としても二度とあのような真似をする気はないよ」
「悪名ねぇ。ボクからしてみればまだまだ生温いとは思うけど」
「ほう?」
クラムバーは目を細める。
竹田もこれまで他人行儀にクラムバーに接していたが、興味を持ったようである。
「日本がどれだけ平和な時代を過ごしていたかは分からないけど、世界を覗けば悪行なんて言うのがその言葉に失礼なほど残酷なことをやって来た人が多いんだよ? 街を壊したなんて見方によれば正義だったこともある」
「私の過去を正義とでも言うつもりかね?」
それは竹田にとって聞き逃せないことであった。
すでに過去を悔いて反省をしている竹田としては『五行同盟』として行ったことをどうしても美化できない。
罵倒するならばぜひともしてほしい。だが、称賛は絶対にされたくはない。
「正義とまでは言わないけどさ、壊れた家とか店ってプレイヤーのものだけだったんでしょ?」
「……確かオセが言っていたな。NPCは自分の子共みたいなものだからプレイヤーよりも可愛い。だから子供のものは壊すことは出来ないと」
「NPCの店が守られてプレイヤーの店が壊される。NPCからしてみれば商売繁盛だったんじゃなかったのかな」
壊されたものよりも残されたもの。
それを活かすことのできた者は間違いなく成功している。
「結果的に得をした者がいたということだね。だが、損をした者がそれ以上にいる。プレイヤーの店を重宝していた者を含めて、だ。そして、私はこれだけは言っておきたい」
「どうぞー」
「暴力によって生まれた幸せなんて決して存在しない。仮初の幸せは不幸よりも地獄に近い」
竹田は知っていた。
その残されたNPCの店。その店はプレイヤーの台頭によって仕事が減ってはいたが家族と過ごす時間が増えていた。老いた両親がいた。成長していく我が子がいた。愛する妻がいた。だが、NPCの店を求めて押しかけるプレイヤー達によって昼夜関係なく働き詰めになり、店を持つNPCの多くが体調を崩していった。
「……話が変わってしまったね。そして空気も悪くなっちゃったかな? お詫びにボクの二つ名を教えよう」
クラムバーはアイテムボックスより双眼鏡を取り出す。
リアルにあるのと同じ、遠い場所を視ることが出来るアイテムである。それ以上の効果はない。
「『バード・ウオッチング』。それがボクの二つ名さ」
クラムバーが双眼鏡を覗く。その先には1本の木が立っていた。但し、距離にして数100mは離れているが。
クラムバーは片手で双眼鏡を覗きながらいつの間にかもう片方の手で握っていたナイフを振るう。ナイフの振るった先は虚空。斬りつける対象は何もないはずであった。
しかしながらナイフが振り下ろされた直後、遠くの木の枝が地に落ちた。
遠目ではあるが折られたというよりも断ち切られた。そんな切り口である。
『鳥獣・観察』。双眼鏡を覗く先に視える鳥が近くにいると錯覚してしまい手を伸ばしてもそこには届かない。水面に移る月に触れてもそれは月ではなく水面を揺らすのみ。
しかしこの能力は双眼鏡を覗いた先にすら手が届く。
双眼鏡を覗きながら手を伸ばせば触れることが出来る。
双眼鏡を覗きながら剣を振るえば対象は傷つく。
視界内は全て攻撃範囲内。それが『バード・ウオッチング』だ。
「地上にいた『ツインドリラー』を倒したのはそういうわけか」
武器はナイフ一本。近接戦闘の見た目をして遠距離戦闘を行えるクラムバーの二つ名であれば防御無視のドリルなど何の脅威にもならなかっただろうとリュウキは納得した。
「ボクはテイマーなんだけどね、スキルも双眼鏡越しに使えるから相手の攻撃範囲外からHPを減らしてテイムスキルを使うことでテイムモンスターを増やせる」
武器がナイフで職業はテイマー。
このクエストの発行条件は魔物と心を通わすことのできる優しい人間……つまりはテイマーであること。リュウキ達の場合はシズネがパーティメンバーであったためクリアできたが、クラムバーはソロプレイヤーでテイマーという職業に就いていた。
「その二つ名であれば他の職業の方が良かったのではないかね?」
「確かに、もっと戦闘向きの職業だったら楽できたかもね。斧とかハンマーは……片手じゃ持ちづらいけど出来なくもない。AGIなんて捨ててもいい闘い方が出来るから本来はナイフよりも重い武器がこの二つ名に合っているのかもしれない」
だけど、とクラムバーは続ける。
「つまらない闘い方も遊び方もボクはしたくない。ボクは面白そうだからこの職業にした。人とだけじゃなく、モンスターとも触れ合える職業なんだよ? 一番楽しそうじゃないか」
「楽しい、か」
「ここはゲームの世界なんだよ。ゲームは楽しむものだ。現実から目を背けて、ゲームの中だけで出来ることをすればいいんだ。ストレスを溜めるなんて本末転倒だ」
それは同時に竹田の過去を責めるような言葉であった。
娘を探すために始めたこのゲーム。一向に見つからないストレスは『五行同盟』として破壊に力の矛先を向けさせることもあった。
「竹田さんは今って楽しい? 楽しくゲームをやっているのかい?」
しかしそれは過去の話だ。
楽しくなかった過去。娘を探して、しかし見つからないという事実を思い知る度に鬱屈と苛立ちといった負の感情は溜まっていった。
「ああ楽しいよ、とても」
そして現在。それは楽しいと言えるだろう。
娘を探すと同時に仲間と冒険をする。冒険に楽しみを見つけた。
同じ闘うでも、『五行同盟』としてよりもリュウキやマカ、シズネと共に闘う今の方が遥かにゲームを楽しんでいるという実感がある。
「それは良かった。じゃあボクの闘い方も、皆の闘い方も共有したことだしそろそろ進もうか」
僅かばかりの竹田とクラムバーとのわだかまりは減り、5人は洞窟内へと入っていった。
竹田さん入荷してから竹田さんメインの話多くなるな……
まあ立ち位置が立ち位置だからなー




