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二つ名オンライン  作者: そらからり
3章 アウトサイダーズ
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91話 カエル

「こちらです。お急ぎを!」


 小人達の背丈はリュウキ達よりも遥かに小さいため、当然ながら歩幅も小さい。それなのになぜかリュウキ達が走るよりも速く小人の兵士達は前を行っていた。

 毎日の鍛錬の成果なのか、それとも小人に設定されたAGIが高いのか。リュウキだけであれば兵士よりも速く走れたかもしれないが、シズネや竹田はどれだけ急いでもリュウキが本気で走った速度の半分程度でしか走れない。

 何より森の中を走っているため、兎に角走りにくい。竹田だけが平地と同じ様に走っているが元からの速度がそこまで速くないため、結果としては遅いことに変わりはない。


「……リュウキ」


「済まないが、置いて行ってくれて構わない」


 シズネと竹田は自分達のせいで遅れてしまっていると自覚していた。

 これが単に何処かへボスモンスターを倒しに行くようなものだけだったならば、リュウキは置いて行かなかった。

 だが今はこの地下世界に侵入したモンスターへの対処に向かっている。

 遅れてしまえばそれだけ現場に先に到着している兵士達の命が危ない。


「……分かった。マカは俺と一緒に」


「うん、分かった!」


 マカならばリュウキの速度にも辛うじてついて来られるだろう。というか、リュウキが二つ名込みで走ってしまえば兵士達を追い抜いてしまう。兵士達と同じ速度で走るならば、それと同程度で走れるはずのマカと2人で向かった方がいいだろう。どうやら竹田との闘いで森での走り方を多少は心得ているようだ。


「兵士さん、誰か1人だけ後の2人の案内をお願いします。俺とマカはもう少し速く走れますので」


 シズネ、竹田と別れリュウキとマカは速度を上げる。

 そのまま5分としないうちに辿り着いたのは、1つの洞窟の前であった。


「侵入って……洞窟から入ってくるのか」


 てっきりどこかの壁を破って侵入してくると思っていたが、そうではないらしい。

 ならば、あの水の溜まった空洞を潜り抜け、そして洞窟を通ってくるのだろうか。


「あれです! なぜかあいつらには水が効きにくいようで」


 兵士の指さした方には数匹のカエル型のモンスターがいた。

 ただし大きさはリュウキなどの人間と同じくらいの大きさ。モンスターとしては普通の大きさであるが、兵士達にとっては怪獣そのものであろう。


「『スラッシュ』!」


「『サイドクロウ』」


 4匹いたカエル型モンスターのうちリュウキとマカが先制とばかりにスキルを放つ。そこまで強くはないモンスターであったためそう長くない時間で倒しきることができた。


「よし、あと2ひ……き?」


 打撃系のスキルが若干効きにくかったがどうにか押し切り先に他のカエルを倒しているであろうマカに追い付こうとしたリュウキであったが動きを止めた。


 そこにはすでにカエル型モンスターは一匹もおらず、代わりに1人の人間が立っていた。大きさからして小人ではなく、そしてNPCでもなく、プレイヤーのようである。

 一振りのナイフを握っており、もう片方の手でリュウキ達に手を振っていた。


「うん、プレイヤーでいいんだよね? それも日本人みたいだ。やあやあ、初めての日英交流と行こうじゃないか」


 そのプレイヤーはどう見ても日本人離れした女性であった。


「マイネームイズクラムバー。ボクの名前はクラムバー、だよ」


 その女性はリュウキよりも少し年上といったところだろうか。雰囲気としては高校生を卒業したばかりの大学生。少し大人へと片足を踏み出し始めたといった印象を持たせる。しかし快活な性格が表に出ているため大人しいというよりは明るいと思わせる。

 服装はリュウキと同じく回避を主にする闘い方を目的としたものだろうか。鎧は着ておらず軽装である。全体的に緑を基調としているため竹田とも通じるものを感じさせる。


「ん? 翻訳機能はちゃんと使えているよね? ボクは英語を話しているんだけど、君達には日本語に聞こえてると思うんだけど」


「うん! 聞こえているよ。ちょっとびっくりしちゃっただけ」


 リュウキが突然のプレイヤーの登場に驚いているとマカが持ち前の人懐っこさでクラムバーに答える。


「私はマカ。こっちはお兄」


「リュウキです。このクエストって俺達だけじゃなかったんですね」


「ボクも今来たばかりなんだ。さっきモグラを倒したらクエストが発生してね。ボクは1人で気ままに遊んでいるからいいかなーってそのまま穴に飛び込んだんだ」


 英語であるならば一人称は『I』であるはずだ。それなのに日本語に訳されると『ボク』となっているのはクラムバーの性格からかもしくは翻訳機能のせいか。

 現実の知り合いでボクッ娘っていたかなぁとリュウキは思う。


「2人も来たばかりなのかい?」


「そうだよー。さっきこの世界のお姫様とお友達になったんだ!」


「へえ、お姫様か。メルヘンな世界なんだね」


「私お姫様って初めて見ちゃった」


「私は……まあ、たまにしか見ないなぁ」


 マカとクラムバーが段々と関係の無い話をし始めていると、


「ふう、ようやく追いついたか」


「……もう終わってる」


 竹田とシズネも追いついて来れたようだ。


「助かりました。恐らく本日はもう侵入者は現れないと思われますので城に戻りましょう」


「「……えぇ」


 到着して早々、再び城へとんぼ返りすることとなったシズネと竹田はその場に座り込んでしまった。





「するとボク達はそのお姫様の貞操を奪おうとする輩を始末すればいいんだね」


「貞操って……」


 マカの手前言葉を選んで欲しい兄のリュウキは絶句していた。

 どうやら会話に多少の下ネタを交える人物のようだ。先ほどのマカとの会話ではそんな様子は無かったため、相手を選んではいるようだが、マカは別にどこかに行ったわけではなく同席している。会話の対象がマカからリュウキに移っただけだ。

 マカは言葉の意味が分かっておらず聞き流している。


 場所は先ほどと同じくオープンキャッスルの隣である。

 地底世界の姫であるポーラからクラムバーにも同様の説明があり、クラムバーはふんふんと聞き、その感想がこれであった。

 幸いにも先の闘いでは兵士に死傷者は出ず、リュウキ達が駆け付けるまではカエル型モンスターのほとんどをクラムバーが倒したようだ。

 それを聞いてポーラは目に涙を浮かべながらクラムバーに礼を言っていた。


「侵入者を待つよりもボク達が出向いて行ってほうがいいんじゃないのかな?」


「しかし、場所が分かっていないのではないかね?」


 クラムバーの言葉に竹田は異を唱える。

 これまでも侵入者があったのだ。しかし防戦一方であったことを考えると敵は神出鬼没であると考えた方がいい。そう竹田は言う。


「いえ、あちらの方々のいらっしゃる場所は分かっていますわよ」


 しかし竹田の言葉を否定したのがポーラであった。


「兵士の方々を危険な場所に送るくらいならこの世界で守りに徹した方が良い。そう私が判断していました。それに、こちらの警備を手薄にするわけにもいかなかったですし……」


「それじゃあ」


「うん、私達の出番ってことだね!」


 多少危険があろうとプレイヤーならば進むこともできるしやり直しも前提で動くことが出来る。

 二つ名やスキルを使えば大抵の敵とは渡り合えるだろう。


「これまでの侵入者はあのカエル様だけでした。しかしモグラ様と同盟を組んでいるネズミ様……あの方はカエル様を従える程の力の持ち主です。とてもずる賢い闘い方をすると聞きますので、どうぞお気を付けて」


 ポーラとしても最初からリュウキ達4人に闘いに行ってもらう気であったようだ。それは彼らをこの世界に招待していることから分かるが、小人達では立ち向かうことは困難。だから外部の、地上の強力な助っ人に期待していたのだ。


「場所はこの地図にあります。どうかネズミ様の説得を。私は結婚できませんとお伝えください」


 ポーラが地図と共にいくつかのアイテムを差し出す。

 不思議なことにポーラが持っているとそれは小さなアイテムであったのだが、リュウキが受け取るとちゃんとした大きさになる。ゲームならではの仕様であろうか。


「(ところでリュウキ君)」


 各自アイテムの補充やステータスを見直していると竹田がリュウキに耳打ちしてきた。


「(何でしょう)」


「(あのクラムバーというプレイヤーだがな、かなり強い)」


「(そりゃ、ここは最前線に近いですからね。この場にいるということは俺達と同じくらいのステータスなんでしょう)」


「(前提が間違っているぞリュウキ君。日本サーバーだからここは最前線なんだ。ついこの間まで海外サーバーのどこもここは最前線ではなかった。それなのに彼女はここに辿り着いている)」


「(あ……)」


 確かリュウキの記憶では、海外サーバーのどこも2つ前くらいのプレイヤーボスと闘っていた程度であっただろうか。

 NPCのボスはミスを誘えない。正確な動きをする。正確な行動をする。だから手強い。

 そこで止まっていたはずなのだからレベルは日本サーバーのプレイヤーよりもいくらかは下のはずだ。


「(そして地上の『ツインドリラー』を1人で倒す実力もある)」


「(二つ名の相性が良かったんですかね……)」


 遠距離からの一方的な攻撃であれば倒せなくもないだろう。

 あのモグラは近距離からだから苦戦する。


「(あれ……でも)」


 そこでリュウキは気づく。

 クラムバーはナイフを持っていた。

 遠距離ではなく、近距離。それも限りなく肉薄するであろうナイフでの闘いはモグラと闘うには分が悪すぎる。


「(最後に、彼女はあの水をどうやってかは分からないが通り抜けてきた。泳いで来たというのが一番可能性が高いとは思うが……)」


 まさか竹田のやったような水そのものをどうにかする通り方をやってはいないだろうが、それでも水を通る力はある。


「(油断はするなということだよ。……私が言えたことではないが人は裏切る。理由が無くともだ。リュウキ君とシズネ君なら人間を疑うことは出来るはずだ。……マカ君には難しいだろうけど)」


「(ですね。シズネには俺から後でそれとなく伝えておきます)」


「(ああ。よろしく頼む。だがこれは万が一だ。彼女の力が強大であったとしても、今は友好的であることに変わりはない。このまま維持できるならそれに越したことはないのだからね)」


 各自準備も終わり、アイテムの補充も済ませた。

 クラムバーを疑う竹田の気持ちも分からなくも無いが、リュウキとしてはこのまま良きフレンドになってほしいと考えていた。

 それに、強いならそれはそれで歓迎だ。共に闘う身としては頼もしい。


「どうぞお気を付けて」


 小さな胸の前で手を組むポーラに手を振りながらリュウキ達5人は地図を手にし、洞窟の1つへと入っていった。


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