84話 木の力
「状況は把握しているつもりだ。『ロックラビット』を産む『ロック・ザ・タートー』。質で闘う者に『ロックラビット』は倒せず、量で闘う者に『ロック・ザ・タートー』は倒せない。全く、よくできた関係だ」
竹田の登場により、拮抗しかけ……そしてやや押し負けかけていた状況は一変した。
「『植木職人』の力を見せよう。かつてマカ君に止められるまでは多くのプレイヤーを葬っていた『五行同盟』の一端たる力。質と量、どちらも賄うことのできる私ならば、きっと君達を助けてみせると言い切ってみせよう」
大仰なふるまいで竹田は木々を操る。
まるでこの状況を楽しんでいるかのように。
まるでマカ達を助けることに喜びを感じているかのように。
「ええっと……確か竹田さんだったよね」
「そうだよお兄。『植木職人』の竹田さん。木の成長を早くする二つ名を持ってる人。とっても強いんだ」
「……そして『五行同盟』の1人?」
「うん。私が闘って……私と剣客さんで倒した人」
「だよね……何でこんなところにいるの?」
リュウキとシズネは顔に疑問符を浮かべ、マカは嬉しそうな顔をしていた。
なぜここに居るのか分からないリュウキとシズネ。
助けに来てくれて嬉しいというマカ。
両者の違いは竹田という男を知っているか否か……ではなく単に性格の違いである。
細かいことを気にせず今の状況だけを判断したマカであった。
「――っ!? 竹田さん、後ろ!」
新たに孵化した『ロックラビット』数匹が竹田目掛け突進する。
地を蹴り、その度に加速し勢いをつけていく。岩づくりの体は余すところなく人間の体よりも硬い。兎の最大の特徴たる大きな耳とて硬く鋭く尖っているため当たれば人間の体程度なら容易く貫ける。
それが数匹、竹田の背後から迫っていた。体が岩であるくせに駆ける様は本物の兎以上に滑らかな動きをする。四肢それぞれが独立した動きをし、体を低くし、地面を蹴る衝撃や空気抵抗を極力減らすことで持ち得る以上の速度を出す。
地を駆け、地を駆け、地を駆け、後一跳びで竹田に当たるかというところで――岩兎の足が木に絡めとられた。
「岩であろうとモンスターであろうと所詮は獣。マカ君ほどではない」
「これって……」
「そう、根の罠だ。地の下に張り巡らされた根が振動を感じると木々が生え振動源を捉える。マカ君達もあまり私の周囲には来るんじゃないぞ。これは自動的なものであって発動こそ私がしているが後は根に任せている。だから……」
竹田が手元の木の枝を一片、足元から1mほど離れた場所に投げるとすぐさま木々が生える。
「こうして敵味方関係なく木々は襲い掛かるだろう。まあ、ここ以外には張り巡らせていないから安心するといい。君達はそこの亀を大いに攻撃してくれ」
「竹田さんは兎さんの相手をしてくれるってこと?」
「そうだな。あいにくと今の私にはあの時程の量の木々を操れないし力もない。せいぜいが足止めだろう……そら、動き出すぞ、やつが」
ブチリと音がした。
それは大亀を押さえつけていた木が千切れる音である。
抵抗すら無く千切れていく木々を見て竹田は呟く。
「……木々はコンクリートさえ超えて成長する雄大なものであるが、こうまでされると私の弱体化が目立ってしまうな」
「なら、ここは私達が!」
「俺達に相手させてください!」
「……頼ってばかりじゃ私達も強くなれない」
大亀が口を開く――卵を発射する準備が整った証拠である。
リュウキの攻撃でさえ砕けない卵だ。弱体化した今の竹田では発射された卵を砕くことは困難であろう。
「ここは俺が!」
口の中から卵が発射される――瞬間に、リュウキは開いていた大亀の顎を蹴り上げ、口を強制的に閉じさせた。大亀の口が膨らみ、何かが弾ける音が響く。
そして再び開かれた大亀の口の中からは卵の破片と、ボロボロになった『ロックラビット』らしき残骸が落とされた。それらに命は宿ってはおらず、ただの失敗作として地面でポリゴンとなって砕けていった。
「シズ姉、時間稼ぎお願いしてもいい? 私が止めを刺す!」
マカがアイテムボックスから一振りの大剣を取り出す。
「固有スキル『コレクターズ・ウェポン』」
マカの周囲で浮遊していた剣が次々とマカの持つ大剣へと集まっていく。そして次第に巨大に、強大なものへと変化していく。
大亀や岩兎もその変化に気づいたようだ。
卵の発射を邪魔された大亀はならばと巨体に見合う巨大な足を使いマカを踏み潰そうとする。
「……『ロックプロテクト』」
しかしそれをシズネの岩魔法が阻む。
「……本来、岩魔法は防御に向いている。……ここは私が通さない、通させない」
大亀の足がシズネの岩魔法によって作られたマカを守る鎧を削っていく。同じ岩であるだけにその砕き方を知っているようだ。
「私達もいるってことをいい加減に覚えなさいな!」
「グルルル」
マカを押し潰そうとする大亀の足をアリアの腕から発射されたミサイルとラビの角が押し返す。
「……MP50消費、もう一度『ロックプロテクト』」
そして岩の鎧の重ね掛け。今度は『地底神王』の能力であるMP消費による岩魔法の強化だ。
これでマカの固有スキル発動までの時間稼ぎは整った。
一方、岩兎の相手をする竹田は未だその身に傷一つ受けていなかった。周囲に張り巡らされた根の罠が岩兎を絡めとり、そこから脱出したとしてもそれまでに成長した大木が岩兎を押しつぶす。
「兎と亀か。イソップ童話に『うさぎとかめ』があったが……これはどちらかというと産卵のイメージが強い亀に同じく出産の象徴を持ち合わせる兎を合わせたのではないかね? ……まあ、もし卵から孵化するのが小さい亀だったとしたらマカ君達もここまで苦戦することもなかっただろうし、案外運営側のパワーバランスの配慮といったところかもしれないがね」
そうこうする間に一匹の岩兎が竹田の元へと到達した。
その耳を以てして竹田の体を貫こうとする……が、それは竹田の体に巻き付けられた木々によって阻まれる。
「あの時のようにオセから貰った苗を使うことはもう出来ないが……しようとも思わないが、それでも君達程度の攻撃ならばそれなりの木々で守れる。私一人なら十分にな」
移動能力が損なわれ、辿り着いても攻撃は貫けない。
岩兎を完璧にまで押さえつけた竹田はマカを見る。
「……その亀は今の私にはどうすることもできない。だから、君達に任せるとしよう」
未だ地面に埋もれている『ロックラビット』の卵は残っている。
気を抜けばそれらから孵化した岩兎もまた竹田へと、そしてマカ達へと向かうであろう。竹田自身にならばともかくとして、マカ達へと向かってしまった岩兎への対処は竹田には難しい。
だから、木々を動かして少しでも岩兎の注意をこちらへと向ける。それが竹田の役割であった。
「おっけー! これで、終わりだぁぁぁぁ!!!」
マカの持つ大剣は大亀を超える長さへと変化していた。
それを見て大亀は後ずさる。本能的にそれが自身を殺しきるに足る代物だと分かっているのだろう。
岩兎達も大亀を逃がすが如く竹田を無視してリュウキやシズネを突破してマカへと攻撃しようとする。
「逃がすとでも思ったかね?」
だが、竹田の操る木々は岩兎を逃がさない。
大亀ですら数秒程度なら縛り付ける。
そしてその数秒でマカの振りかざした大剣は大亀へと振り下ろされた。
「いっけぇぇぇぇぇ」
振り下ろされた大剣は大亀を両断してもなおその勢いを止めず、岩を砕き地面を割り、周囲に砂埃を立ち煙らせた。
一瞬の静寂があった。
「あれ……?」
「倒した、よね?」
「……たぶん」
10秒だろうか、30秒だろうか、1分だろうか。静寂がそこにはあった。
「グオォォォォォ」
実際には5秒にも満たない静寂だったのかもしれない。
その後轟いた『ロック・ザ・タートー』らしき断末魔とポリゴンの砕ける光に見たことで三人は崩れ落ちるように腰を降ろしたのであった。




