83話 うさぎとかめ
超特急で書けたー
「またあの岩か!」
リュウキは翼を巧みに……とは言えないまでもここまでの闘いの連続で慣れ始めてきた飛行で『ロック・ザ・タートー』の口から撃ち出された5つの岩を避ける。
飛行しているとはいえ、低飛行であるため『ロック・ザ・タートー』――大亀の口は地面を向いている。そのため、リュウキが避けた先には当然ながらシズネやマカがいる。
ところでこのフィールドは荒野。荒廃した岩と土の地面である。そこら中に岩は転がっており、これがまたリュウキを始めとしたプレイヤー達の動きを妨げることも多い。
「うわっと!?」
「……マカ、よく前を見て」
飛んでくる岩を見ながら動こうとすれば目の前にも岩がある。しかもそれは大亀の撃ち出す岩も含めれば相当の数だ。真っすぐ走れば10歩も行かないうちに岩へとぶつかる。
対して大亀はと言うと、地面にある岩など意に介さずに4本の脚で踏み潰し、時には避ける。
「やばいやばいやばいよー」
空を飛ぶリュウキには地面の岩の影響はさほど無いが、シズネとマカは違う。速度を重視せず魔法の一撃に重きを置くシズネと空中に浮かせてある剣を操作することに意識を向けなければならないマカには地面の岩を避けながら空から落ちてくる岩を避けて闘うということが難しい。
だから、避けることをしなかった。
「……マカ、こっちに」
「シズ姉!」
シズネがマカを岩影へと引っ張り込む。と、次の瞬間には5つの岩はマカとシズネに降り注いだ。
「シズネ、マカ、大丈夫?」
「……大丈夫」
「なんとかねー」
空で大亀の意識をマカとシズネから引き剥がそうとしながらもリュウキは2人に声をかける。
大亀の撃ち出す岩。それらのうちいくつかは地面にある岩とぶつかっていた。恐るべきはその硬度だろうか。撃ち出されていた岩のいくつかはヒビが入る程度であったのに対し、地面の岩のいくつかは砕けていた。
「地面のよりも硬いってことか……」
そんなものがまともにぶつかればどれだけのダメージを食らうことか。
防御が紙装甲であるリュウキでは一撃で沈むことだろう。
「だけど……」
リュウキは未だに腑に落ちていないことがあった。
それはこの中ボスでありネームドボスである『ロック・ザ・タートー』の二つ名の能力。
今までの特徴から言えば巨体と岩を吐き出すくらいである。
二つ名の能力ではありそうだが……何か弱い。これくらいであれば中ボスでなくても、二つ名で無くとも同様のことは出来てしまいそうだ。巨体はともかくとして岩を撃ち出す程度なら岩魔法で再現できる。 もっと……何か二つ名らしい能力ではないのだろうか。
ここまで考えてリュウキは己の考えを否定する。
これでも苦戦はしている。これ以上強くなることを想定こそすれ、期待外れなどとは考えられない。考えてしまったが最後、フラグとなってしまいそうだ。
しかし遅かった。
すでにフラグは成立してしまった。
「ウオォォォォォ」
大亀は口を開く。また岩が発射されるのか、と身構えたリュウキであったがその目には何も映らず、耳に入ってきたのは大亀の鳴き声のようなものであった。
そして大亀は一筋の涙をその目から流した。
『産卵発射』。これが『ロック・ザ・タートー』の二つ名の名前であり正体である。
その効果はというと、産卵である。卵を産む。その卵を産むだけではなく発射する。
では発射された卵とはどれか。それはすでに答えは出ていた。それこそ、これまでに大亀の口から撃ち出されていた数々の岩である。地面の岩とぶつかり亀裂が入ってしまったものもあるが、その他は無事なままである。卵を発射する能力。これが『産卵発射』である。
ここまでがパッシブスキルであった。ラビで言えば、『ブラッドラビット』で言えばダメージ軽減程度の能力だ。つまりは、『ブラッドラビット』がHPの減少とともにステータスを上昇させたのと同様、『ロック・ザ・タートー』にもHPの減少とともに発動されるパッシブスキルに対するアクティブスキルのようなものが存在する。
それこそが産卵後に行われること、孵化である。
生物とは命の危機に瀕して種の保存を行おうとする。子孫を残そうとする。
モンスターにとっての命の危機とはつまりHPの減少である。『ロック・ザ・タートー』のアクティブスキル発動の条件とはHPが半分以下になること、そして発射された卵が残っていることである。また、アクティブスキルの発動とともに発射される卵は頑丈になり、簡単には壊れなくなる。
こうして条件を満たしたことで孵化が進む。
「あれは……『ロックラビット』!?」
先に孵化が完成したのはひび割れた岩……いや、卵であった。
亀裂があったせいで中から割るのが容易かったのだろう。地面の岩と衝突しても無事であるということは中身が自力で卵を割るのも困難であるということ。頑丈であることが、中身を守る頑丈さが良いことだけではない。
……案外、HPが半分になることで孵化するというのは、HPが半分になるまでの時間が無ければ孵化しないということなのかもしれない。
兎に角として、亀裂が先に入っていた卵から孵化したのは兎であった。哺乳類である兎が卵から孵化するのはおかしいかもしれないが、その体が岩で出来ていること、そもそもでモンスターであることを考えれば不思議ではない。
『ロックラビット』。岩兎。速度と頑丈さに秀でたモンスターであり、リュウキ達は二つ名を使わなければ倒せない相手であった。
それが数匹も一度に孵った。そしてまだ孵っていない卵がいくつもある。更にはこの場にはそれを生み出す『ロック・ザ・タートー』がいる。
「……さすがは中ボスだな」
岩兎数匹程度なら二つ名を使えば、全員でかかれば何とかなる。まだ孵っていない卵も、孵ったと同時に中身を攻撃してしまえば倒せる可能性は高いだろう。『ロック・ザ・タートー』は……ラビとアリアで抑えてもらうしかない。
「これしかない、のだけど……」
問題は2つある。
1つは、
「どれが卵か分からないよー」
マカが悲鳴をあげる。
卵は岩である。岩は卵である。
そして岩はこのフィールドに限っては腐るほどある。
卵と衝突して砕けた岩はともかくとして、岩と衝突して亀裂の入った卵は別として、衝突せずに砕けず亀裂の入らなかったものは岩とも卵とも見分けがつかなかった。
「……マカ、右のやつ、あと左斜め前のやつはただの岩。……ごめん、後は分からない」
シズネが苦しそうに言う。
マカはそれに分かったと返事をしてとりあえず岩をスキルを使い砕くことで選択肢を狭めていく。
シズネの指示した岩はどれも形が歪なもの。岩兎が孵化した卵はどれも比較的丸みを帯びていた。尖ったものや捻じくれた岩は卵ではない。卵ではなければそこまでの頑丈さはないためすぐさま壊せる。
しかしその間にも孵化した岩兎は周囲の様子を見て敵を探す。そして、マカ達の姿を見つけた瞬間には弾丸のように突撃を始める。
「させませんよ!」
「グルルルルル」
それを阻むのはアリアとラビ。
だが、その表情には決して余裕はない。大亀を抑えつつの岩兎への対処だ。
やるしかない。だが、それはギリギリの闘いであった。
そのギリギリを崩すものがあった。
それが2つ目の問題である。
「ウオォォォォォ」
またも大亀から卵が発射された。目標はリュウキ。
通常攻撃にして切り札へと繋がる攻撃である。
避ければ地面に落ちている卵が増える。
避けずに岩に攻撃をしても頑丈過ぎてこちらにダメージが入る恐れがある。
「………」
結局は避けるしかなかった。
「……駄目、また増えた」
岩魔法を岩兎に打ち込みながらシズネはリュウキに伝える。しかし速度においては劣る岩魔法は岩兎に避けられ、僅かに岩兎の軌道をずらすのが精いっぱいであった。
岩との衝突を免れ亀裂が入っていなかった卵もやがて自力で孵化を遂げる。
今度は10体以上。一体一体が二つ名無しでは三人がかりでも苦戦する相手である。
手の打ちようが無かった。
リュウキがいくら速度に長け飛行出来ても、大亀には牽制程度しか出来ないし、岩兎複数を一度には相手出来ない。
シズネがいくら砂魔法や岩魔法に長けていても、大亀には砂魔法は打ち消され、岩兎には岩魔法は遅すぎて当たらない。
マカがいくら数多くの剣を操ろうとも大亀には大したダメージにはならず、それ以上の数の岩兎には追い付かない。
半ば諦めながらも最後まで抗うことで奇跡にすがろうとしていた。
奇跡がやってこない限りはこの状況は打破できないと誰もが思っていた。
その時リュウキの耳にある声が入り込んだ。
「義によって助太刀いたす、とは言えない。私が感じているのは恩義ではなく謝意だ。……だからここはこう言うとしよう。私に償いのチャンスを与えてほしい!」
地面を埋め尽くすほどの木々がうねりながら岩兎を掴み、大亀の脚に絡みついていく。
「うむ、うむ、久しぶりだな。一度は娘と間違えた縁もある。ならば我が娘を守るのと同様、マカ君らを守るのは大人である私の役目だ」
奇跡ではなく1人のプレイヤーがやってきた。
木々が蠢く中、まるで台風の目にいるかのような木々の影響のない場所にその男、竹田は立っていた。
以前に桃太郎をモチーフにしたので今回はまた別の昔話?童話をモチーフに




