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二つ名オンライン  作者: そらからり
2章 同盟者
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79話 オセ

【プレイヤーボス:オセ視点】

 昔から人というものを信用することができなかった。

 他人ではない。教師も、友人も、家族も、恋人も、そして自分自身でさえも、信用に値する人物ではなかった。


 誰かに裏切られたというわけではない。

 誰かが知らずのうちに僕に危害を加えていたわけでもない。


 むしろ全員が全員、僕に善意の限りを尽くし、僕の為に動こうとしてくれた。

 僕が為した努力は須らく裏切らずに僕を成長へと導いてくれた。


 だから、何時から人を信用出来なくなったかというと、きっと最初から信用していなかったのだと思う。

 優しくされるのはそれに見返りを求められているから。

 努力が裏切らないのは僕の才の先が短いから。


 周囲の期待の目は周囲が僕をどう利用してやろうかと企んでいる目にしか映らなかった。



 どこまでも成長できる代わりに僕は何処までも卑屈な人間へと退化していった。


 その成長していた、勉強していた才の中でも突出していたものでゲーム開発というものに携わった。

 悪戦苦闘というものを知らずに、いつしか中枢へと潜り込み、こうしてプレイヤーボスの一角となる。

 惜しむらくは僕の運はそこまで高くないことだろうか。


 そんな周囲を頼ることを是としない僕の二つ名は『五行同盟』。

 他人がいないと成立しない能力であった。


「チッ……使えない奴らだなぁ。貴重な装備も与えて、僕の経験値も分けてやったくせに全滅するとか。まあいいや。また新しく集め直せばいいし」


 力を欲するプレイヤーは数多くいる。

 復讐、栄誉、権力、金……己の欲望を満たすためにやつらはかつて仲間だった者をいとも簡単に裏切る。昨日モンスターと共に闘った者を今日は平気で殺しにかかる。

 そんなやつらに僕の二つ名は相応しい。


 制限はある。五行を司る水・金・土・火・木の文字を持つものでなければこの力は与えられない。だが、4つの文字のうち1つがどれかに当てはまる者を探すなら、僕のプレイヤーボスとしての、このDNOを作った者の1人としての力があれば探すのは容易である。


「何時までもこの空間にいるのも飽きたしな。そろそろ出かけようかなー」


 プレイヤーボスとしての権限。その1つがボス部屋生成である。

 だが、僕はアスタロトやエリゴス、アムドゥスキアスのような馬鹿正直な部屋は作らない。あいつらはあえて見つかりやすい場所に作っていた。

 そんな、倒しに来てくれとでも言うような場所に作ればすぐでにもプレイヤーは押し寄せるだろう。たとえ人数制限を課したところで、次から次へと際限なく押し寄せられてはたまらない。


 だから、僕はボス部屋を休憩室代わりに使っている。見つかりにくい場所に作り、誰も来ないように仕掛けをし、プレイヤーを『五行同盟』で力を与えた配下に刈らせている。僕はただここにいるだけでいい。

 何もやってないとは言わせない。僕は力を与えているのだ。言わば神のような存在である。

 『五行同盟』の配下がいくら倒れても、僕さえ無事であるならばいくらでも替えが効く。


「僕は王だ。王を崇める平民がいくら傷付こうとも、傷つけようともその一切を容認しない。否認しない。どちらでもいい。僕が王である限りは、民がどうなろうと、幸せであろうと不幸であろうと、どうでもいいんだ」


 これは圧政ではない。ただの放置。

 守ってやる必要はなく、殺す必要もない。ただ、彼らは勝手に殺し合っているのを眺める。それを楽しむだけだ。


 守ってやるのはそうだな……僕がプログラミングに関わったNPCくらいか。あいつらを一から作り上げ、動いた時は珍しくも感動したものだ。


 自分を信じられない僕が造り出した僕を信じる存在。

 僕は信じたかったのだろう。僕を。他人を。

 だがもう止まらない。止められない。


「王は誰にも止められない。王は至高の存在なのだから!」


「いいや、止められるさ。王はいつだって民に反乱されるのだから」


 背後から声がした。

 馬鹿な。この空間は誰にも見つけられないように……


「そうか。そういえば空間使いがいたのだったっけ」


 背後を振り返ればそこには10を優に超えるプレイヤーの数。

 『五行同盟』配下達を倒すために集まり、そしてあぶれた連中か。


「新たに空間を作る時、そこにすでに空間があれば出入口はそちらに繋がってしまう。『陣地作成』の固有スキルである『クリエイト・ポジション』。まさかこんな使い方があるとはな」


「ええ。自分でも驚きですよ。いざとなったと、メモを残してくれたダラークさんには感謝してもしきれません。これからは、ボス部屋を探すという仕事もできそうです」


 『陣地作成』ショウブ。こいつはいい。空間を作り出すことしかできないただの雑魚だ。その横にいる『大型転位』士道も問題はないだろう。

 だが残るやつら。あいつらはプレイヤーボスとの戦闘経験がある。


「厄介だねえ。だけど忘れてないかい? 僕はプレイヤーボス。今まで君達は何人の犠牲でボスを倒してきた? 10人やそこら、しかも特別強い者もいない。リーダーたる資格のない雑兵ばかりだ。そんな君達がどうやって僕を倒す?」


 パチンと指を鳴らす。と、やつらが騒めきだす。

 僕の周囲には5つの玉が浮かんでいた。

 それぞれが水・金・土・火・木を司る玉である。


 水に当たれば全身から力が抜ける。

 金に当たれば全身が金でメッキされかのごとく固まる。

 土に当たれば全身が受ける重力の影響を数倍にまでされる。

 火に当たれば全身が業火に滅される。

 木に当たれば全身に木が根付きHPを徐々に奪われる。


「君らの仲間が闘っていた相手なんて所詮は僕の力の一部を分けただけのただのプレイヤーに過ぎない。本当の敵は僕だ。本当の強さを持っているのは僕だ」


 それぞれが武器を構える。ここで闘うつもりなのだろう。

 僕を倒そうと考えているのだ。それだけで僕の顔には笑みが張り付く。


「でも実は期待しているんだよ君達にも。君達が強ければ、それだけ僕の強さも認められる。だからさ、少しは粘って死んでくれよ。僕達は頑張ったけどプレイヤーボスのオセ様には敵いませんでしたってね!」


 僕の体の周囲を上から下まで5つの玉は駆け巡る。そして、プレイヤー達の方へと飛んでいく。それを見て、プレイヤー達も剣を、槌を、斧を、杖を、それぞれの獲物を構えて叫ぶ。自分の強みである二つ名を。


「本当の闘いはここからなんだ!」


 そして僕とプレイヤー達の、プレイヤーボスたるオセと先へ進まんとするプレイヤー達の闘いは始まった。……いや、もしかしたらこれは闘いなどではなく一方的な虐殺になるかもしれないけどね。





【10分後、オセの部屋にて】


「や、やったかしら……?」


 両手にそれぞれ剣を構えたアザリカが肩を上下させながら確認するようにジュガに聞く。


「ああ。HPは0になっている。それはアザリカ、お前が一番よく視えているだろう?」


 HPが0だけではない。オセのステータスそのものがアザリカの『初見看破』ならば視認できていた。

 改めてオセの状態を見ると、アザリカは安堵の息を漏らす。


「ちゃんと死んでいるわねこいつ。手こずったけど、手こずっただけだったわ。手強くはなかった」


「だな。こいつ、闘いってものをまるで分かってなかった。まずは弱いやつからって考えたんだろうけど、その間に俺や他の強打を得意とする武器を持つやつの攻撃を無視して受け続けた。応用力がないんだ、こいつは」


「最後には逃げ回る始末だったものね。馬鹿な、馬鹿な!とか叫びながら」


 話すアザリカとジュガ、そして他の戦闘前と1人も人数の変わらぬ――オセのみが減った――プレイヤー達はオセの死体を見る。


「ジュガさん、『クリエイト・ポジション』で作られた空間に行っていたプレイヤーが全員戻りました」


「そうか。じゃああいつらを呼んで今日は打ち上げだ。料理系二つ名を持っていたやつが何人か知り合いにいるから、そいつらも呼ぼう。長かった……今日は飲むぞ! こっちでも、リアルでも!」


『おめでとうございます。プレイヤーボスであるオセは攻略されました。残り68のボスもぜひともこの調子で倒してください』


 最後にそう、プレイヤー達の脳に両性的な声が響いてプレイヤー達は終わったのだと実感する。

 長く続いた闘いは終わった。

 オセは倒され、他の『五行同盟』達も1週間のログイン禁止のため姿を見せず、傷を負ったプレイヤー達はその傷を修復しようとまた闘いに明け暮れようと、未来を見ていた。


 しかしながら闘いは終わらない。

 次のプレイヤーボスも、そして他のプレイヤーですら明日には敵になり得る。

 気が休まらないわけではない。休めることも必要だ。

 だからこそ、彼らは今日、目一杯楽しんだ。


『今月末日より海外サーバーとの統一を行います。そのため末日の9時より18時まではメンテナンスのためログイン出来ませんのでご注意ください』


 時刻は日付が変わろうとする頃。

 酒を浴びるように飲み疑似的な酔いを味わっていたプレイヤー達の脳にまたも、声が響いた。


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