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二つ名オンライン  作者: そらからり
2章 同盟者
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78話 砂を渡り壁を砕け 後編

【決戦前日 リュウキ視点】


 それは、【五行同盟】がゼギエルに進行する前日の夕方。

 リュウキ、シズネ、マカの三人は二つ名のレベルを上げるべく闘いに闘っていた。


「『スラッシュ』『スラッシュ』『スラーッシュ』!!」


 マカの上空に漂う3本の剣がそれぞれの軌道を描き『サウザンドニードル』というモンスターを切り刻む。

 全身に針を纏い、その中身を見せない『サウザンドニードル』は近接戦スタイル泣かせと言われているらしい。尤も、マカはその二つ名で剣を直接握らずに空中にいくつも浮遊させている剣を操れるため、剣のみが『サウザンドニードル』を傷つけ、『サウザンドニードル』の針はマカを傷つけることはない。

 合計で8本動かせる剣のうち現在は3本の剣のみをマカは使っている。そしてスキルは比較的消費MPが少ないもの。

 二つ名のレベルを上げるにはなるべく多くの二つ名を使わなければいけない。

 だから全力を一瞬の瞬間だけで使うよりも、長時間使うことで二つ名のレベルを上げようと、この修行は始まった。


「『サイドクロウ』」


 『サウザンドニードル』は近接戦スタイル泣かせと言うが、その中でも格闘家系職業の大敵だ。攻撃する拳や脚そのものが自分の体なのだから、攻撃すれば当然ながら体は傷つき下手をすれば『サウザンドニードル』に与えた以上のダメージを負うことになる。

 リュウキの攻撃も例に漏れず剣や槍といった武器を使うことはなく拳を主体とした攻撃をする。

 通常の攻撃も、スキルも使えばたちまちのうちに傷らだけになっていただろう。


 だが、リュウキの二つ名である『悪鬼変身』は両腕両足の悪鬼化だ。黒い靄をまとった両腕は針を通さず、両足は針を容易く折っていく。


 数度の攻防の後、『サウザンドニードル』は俺にアイテムと経験値を残して消えていった。


「……終わった?」


 この敵に対して最も有利に闘えるのはやはりシズネであった。

 針などなにそれ?とばかりにお構いなしに魔法を打ち込む。しかも魔法を放つということはそれだけで二つ名を使用しているということになるという反則的なまでなレベルの揚げ方である。


 しかしながら、朝から通してレベルを上げているが、職業レベルは上がろうと二つ名のレベルが上がることはなかった。


「うーん……せめて5になれば固有スキルを使えるようになるんだけどな」


 翌日は相手も勿論、仲間の多くも固有スキルを使う決戦となる。そのため、足を引っ張らないように固有スキルを使えるようにと二つ名レベルを上げようと画策していたのだが、上手くいっていなかった。


「そういえばお兄」


「ん? どうした」


 周囲にいるモンスターを倒し終え、ドロップアイテムを整理しているリュウキにマカが声を掛けてきた。マカとシズネはめんどくさがりこの整理がリュウキに任せきりとなっている。そのため声を掛けられたリュウキはようやく手伝いをする気になったのかな、とマカの成長を嬉しく感じていた。


「『クラッシュタイラント』がくれたアイテムをまだ見てなかったんだけど」


「ああ、あれか」


 『クラッシュタイラント』が最後に報酬として渡したアイテム。

 今まで使わなかったのは使ってもいいものか分からなかったからだ。


 『プレゼント』というシンプルな名前のアイテムは文字通りプレゼントボックスの形をしていた。説明文によれば開けば別のアイテムになるらしいが、極僅かな確率でアイテムは破損した状態で出てくると書いてある。確率はLUK依存ではなく完全な運任せ。とは言え、本当に極僅かな確率で1%にも満たない。


 しかしそれでも少しばかり開けるのを躊躇してしまい、ここまで開けることはなかった。決して忘れていたわけではない。


「じゃあ開けてみるか……何か強くなれるアイテムや装備が入っているかもしれないし」


「私も開ける私も開ける!」


「……じゃあ私も」


 リュウキに続いてマカとシズネも賛同した。


 それぞれがアイテムボックスから『プレゼント』を取り出し、手に持つ。


「「「せーの!」」」


 『プレゼント』を使用する。

 すると、ボンという音とともに煙を立てる。


 三人ともまさか失敗か?という不安とともに顔を強張らせる。そして煙が晴れたとき、三人の手からは『プレゼント』の重みは消えていた。


 本当に失敗したのか⁉と、三人は焦る。

 しかしよく見ると掌には小さな指輪があった。


「この指輪が『プレゼント』の中身か」


「私も同じ!」


「……私も」


 マカが鑑定スキルを使うと、その効果は絶大的なものであった。と、同時に今の三人にとっては喉から手が出るほど欲しいアイテムでもあった。


「二つ名のレベルに+1の効果か……」


「これ、普通に売ったらとんでもない値段になるんじゃないの?」


「……でもこれ、よく見たら指輪に名前が書いてある。……多分だけど他のプレイヤーには使えない」


 指輪の裏側にはリュウキと名前があった。マカとシズネの指輪にも同様に刻まれている。


「付けたら二度と外せない、か。指輪ってそれぞれの指に1つだったよね。10個付けられるうちの1個くらいだったらまあいいのかな」


 説明文にはそんな、まるで呪いのアイテムのような説明があった。だが、その効果と見合わせるととても呪いとは思えない。


「じゃあつけるか」


「んー……ちょっと待ってて。まだ何か書いてあるから……」


 早速指輪を装備しようとしたリュウキをマカが止める。

 まだ鑑定は終わっていないようだ。


「ああ、この指輪、デメリットもあるよ。指輪を付けている間は二つ名のレベルが上がりにくくなるんだって!」


「レベルが上がりにくく……」


「……この先を考えると、まだ付けたくはない」


 今の二つ名レベルは4であり、最大が10。だが、二つ名は10になればさらに強力なものとなる。恐らくであるが、どんどんとレベルが上がりにくくなるはずだ。それなのに、さらに上がりにくくなるアイテムを付けることは、三人にとっては即決できるものではなかった。


「どうしようか……」


 翌日のことを考えるのならば付けたい。だが、この先を考えるならば付けたくはない。

 リュウキはそれぞれの判断に任せよう、そう切り出そうとした。

 付けるも付けないも自由。もともとあってないようなものだ。なら無くてもいい。売って大金を得て強力な装備を買ってもいい。


「もう少し! もう少しだけレベル上げしよ!」


 諦めない。マカはそう言いだした。


「きっと夜までモンスターを倒していればレベルも上がるよ! だって今までだって順調にレベルは上がってたんだもん」


 子供じみたものであったが、リュウキとシズネは指摘しない。二人にとってマカは妹であり、かけがえのない仲間なのだから。


「そうだな、もう少しやってみるか」


「……たぶんもうちょっとで私はレベル上がると思う」


 そうして夜まで、それこそ両親に怒られる時間ギリギリまでレベル上げをした結果、三人は同時に二つ名レベルが5となった。


 翌日の朝、1時間も取れなかった新たな固有スキルの練習は三人にそれぞれの課題を残し、三人は戦場へと旅立っていったのであった。





【とある異次元の砂浜にて】


 固有スキル『ミュータント・オーガ』。つまりは変異体の鬼。

 

 そもそもで固有スキルとは切り札、必殺技である。そう易々とポンポン使えるものではなく、二つ名以上に温存しなければならないものである。

 一度使えば決着は着く。決着を着けるために使うスキルである。


 シズネは今回の戦いでは使えないと判断したため使わなかったが、マカはその圧倒的な火力を見せつけ『植木職人』こと武田を見事倒した。


 ダラークの固有スキルだってそうだ。決着が着かず、状況を変えるとき、流れを自分に向けるために使うのである。実際にダラークは固有スキルを使い、強敵を幾人も屠ってきている。



 しかしリュウキの固有スキルは違った。質も、量も。


 マカやダラーク達の固有スキルが倒すためのスキルであったならば、リュウキのスキルはいわば成長するためのスキルである。


 その効果は、


「自分の望む姿に体の一部を変換する。俺はユークリッド、君を倒すために生まれ変わる!」


 永続的な部位変換。悪鬼の両腕を銃にするもよし、剣にするもよし。足をキャタピラーにするもよし、バネにするもよし。

 目の前の敵を倒すために最適な体になる。そのような便利な固有スキルなのであるが、勿論デメリットも大きい。


 この固有スキルを使い変換した体は戻らない。そして使えるのはレベルが上がるごとに一度のみ。


 切り札どころではない。温存をしてもしても使いどころを悩みぬかなければならない。


 二つ名『悪鬼変身』を使う度に変換された体になり続けるのである。もし銃や剣に体を変換してしまえば二度とその手で何かを掴むことはできず、拳を握ることもできない。足をキャタピラーにしてしまえば跳べないし、バネにしてしまえば走れない。


 使うならここぞという時に使おうとリュウキは決めていた。相手に合わせるのではなく、自分の戦闘スタイルに合わせるのだと。


 そしてリュウキは決めた。

 自分に足りないものを。


 それは跳ぶ力……ではなく、飛ぶ力。


「俺に翼を! 変換しろ、俺の背中よ!」


 リュウキの背が盛り上がる、と思った次の瞬間にはリュウキは光に包まれる。しかしその光はどことなく闇が逆巻く暗い光。まるで洞窟で頼りなく光るろうそくのようだ。


 そしてリュウキの背には翼が生えていた。両腕両足と同じ様に黒い翼が。


「ブレッシュさん、掴まってください!」


「あ、ああ」


 リュウキはブレッシュの腕を掴むと背中の翼を大きくはためかす。その動作はぎこちない。翼は人間にはない機能であり、それを何の練習もなく動かすのは困難である。


 しかしリュウキはそれでも翼を動かし、ついには空中へと踊りでた。

 そしてその勢いに任せてユークリッドへと空を駆け抜ける。


「チッ……『ロックバースト』」


 砂の壁からいくつもの岩の砲弾が打ち出される。

 ユークリッドのMPが回復し始めている証拠である。


「空を飛んだからって何だっていうのです! 隕石は全ての鳥を打ち落とす……『ロックインパクト』」


 空中から巨大な岩が召喚され落ち始める。

 シズネの十八番である魔法であるが、そのシズネが『地底神王』を使いMPを消費した時のものと遜色ない大きさが今、リュウキの眼前に迫っていた。


「さあ落ちなさい。哀れなイカロスは空を飛んだことで死んだのです」


 空をまだ飛びなれないリュウキに巨大な岩を避ける術はなかった。

 避けようとするが、翼を岩が掠めたおかげでリュウキの体は大きく回転し、地面へと落ちる。


「ハハ、ハハハハハ! ……あれ?」


 ユークリッドは壁に空けた穴からリュウキを見ていた。だから、角度によっては一部見えていないときもあった。

 だから、落ちていった先の地面にリュウキ1人が転がっているのを見て、疑問の声を挙げる。


「なんであなただけ……もう一人の剣士は一体どこに!?」


「ここさ」


 その声は頭上から聞こえた。

 ユークリッドを囲った壁。その頭上は砂の地面を避けることのできる唯一ユークリッドに近い地面。


「『ディグニティー・スピリッツ』」


 落下する直前にリュウキの手から放たれ、ユークリッドの頭上の壁に降り立ったブレッシュは静かに剣を振り上げる。


「キナネだけはな……本当にお前のことを救おうとしてたのだろうさ。『一刀追尾』」


 ブレッシュは剣を真下の砂の壁へと突き刺す。その剣は壁の砂も、泥も、土も、岩も何もかもを全て巻き込んで連れていく。

 そして連れていかれた壁は……もはや何もなかった。ただの天井の空いた、四方だけを囲んだ壁になっていた。

 真下の、ブレッシュにとっての足場を自らの固有スキルでキナネの二つ名を使い崩したブレッシュは当然ながら真下に落ちる。そう、ユークリッドの前に。


「俺は油断はしない。倒せると思ったなら確実に倒させてもらう」


「ちょ――」


 それは命乞いだったのか、それとも謝罪だったのか。

 ユークリッドが口を開いた瞬間には、ブレッシュの剣はユークリッドの体を通過していた。


「……最後はあっけないものだ。まあそれは人も、モンスターも同じか」


 砂の壁が崩れ去り、底なしの砂の地面もただの砂浜へと戻っていく。


「リュウキ君、世話になったね。戻ろうか」


「はい!」


 5人いた仲間達も終わってみれば2人のみ。

 自分達がいかにまだまだ弱いのかを思い知らされた2人は無言のまま砂浜の世界を後にしたのであった。


長かったけど後一話で終わりだ!

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