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二つ名オンライン  作者: そらからり
2章 同盟者
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77話 砂を渡り壁を砕け 前編

【リュウキ視点】

 何が起きたのか、その流れを全く理解することができなかった。

 結果としてはキナネさんのHPが全損し強制ログアウトとなり、その原因がユークリッドであった。ここまでは理解できている。

 しかし、それまでの、なぜキナネさんが突如ユークリッドを抱きしめたのか、それが分からない。ましてそんな戦意の無かった相手を容赦なく土の槍で串刺しにするユークリッドの気持ちも分からない。


 分からないことだらけの中で、結果として残ったのがキナネさんの退場と、ブレッシュさんが『マッドパペット』を倒し合流できたということだ。


「リュウキ君、キナネのことは気にするな! 今は目の前のことだけに集中するんだ」


「――っ!? 分かりました!」


 キナネさんの死は無駄ではなかった。そう思うことにしよう。

 あの巨大な『マッドパペット』と大きさこそ小さかったが12体もの『マッドパペット』を造り、さらには多種多様な砂魔法や土魔法、泥魔法を使って見せたのだ。

 魔法職でMPが多くても、いくら強力な装備でMPの消耗を抑えても限界は存在するはずだ。

 その証拠にユークリッドは先ほどから魔法を使ってはこない。もう多用できるほどのMPは残っていないはずだ。


「終わりの時だユークリッド。MPの無い魔法職はただの農民にも劣る。そう、ダラークさんが言っていた」


 俺の言葉にユークリッドはこちらをゆっくりと顔を向ける。

 その表情は無とも笑みとも怒りとも取れる。


 俺の言葉に怒り、この状況に笑い、そして自分自身に無感情である。

 そう俺は思ってしまう。


「はぁ~? 私は農民に劣るですって? ヒヒヒ……私の魔法は『五芒星』の中でも最強。火を沈め、水を吸い上げ、金を朽ちさせ、木を枯らす。私の魔法こそ、私こそが最強なのですよ!」


 先ほどまでの余裕とも取れる伸びた口調はどこかへと行き、今は素の口調へと戻っているようだ。

 だからこそ、今はユークリッドに余裕がないことが窺い知れる。


「ええ、ええ。確かに今の私にはMPはありません。せいぜい、2回でしょう。魔法を放てるのは!」


 トン、とユークリッドは持っていた杖を地面へと突く。


 次の瞬間には、ユークリッドの周囲が砂へと変わっていく。石も岩も全てを飲み込む砂へと。そしてそれはどんどんと辺りを侵食していき、俺の足元へと迫ってきていた。


「そろそろ水も土中深く沈み込んだ頃です。もうこの辺りは一面が砂。そして砂であるならば、私の『サンドカーペット』は威力を増す!」


 やばい。

 俺は今、二つ名の能力で速度が上昇している。

 急いで隣にいるブレッシュさんを、失礼だがお姫様抱っこをし、砂から逃れるため走り抜ける。


 必死に背後を見ることすらせずに、走っていると、


「リュウキ君、もういいようだ。降ろしてくれたまえ」


 と、声がかかったため、振り返ると、ユークリッドの周囲数十mが砂へと変わっていた。


「土魔法とは、砂や岩、泥を含め、本来の使い道はサポートや守りに使うものです。だから私はその、本来の使い方をする!」


 再びユークリッドは足元へと杖を突く。


「『トライアル・ガン・ウォール』」


 瞬間、ユークリッドを囲むようにして地面から壁が生まれ、ユークリッドを包んでいく。そして前後左右上方へと壁は繋がっていく。


「周囲を砂で囲み、そして私自身を壁で囲む。しかもこの壁は外壁を砂で覆い、中間を泥で接合し、内側を土と岩の混合物で固めた特別作! 私の二つ名をあってこそのこの魔法です」


 砂の地面と、壁の二重の守り……いや、壁が三重だから四重の守りってことか。


「だけど、そんなとこに引きこもっていても俺たちを倒せないぞ?」


 そう、ブレッシュさんがユークリッドを煽る。

 実際にそうだ。俺とブレッシュさんはユークリッドに近づけていないが、ユークリッドもまた、俺とブレッシュさんに近づけていない。


「倒せない? 違いますね。倒すためにこうして私は引きこもっているのです。MPのない魔法職が農民以下だと言うのなら、MPを回復するまでです!」


「なっ!?」


 あくまで時間稼ぎ。そうユークリッドは言っている。

 後二回しか使えないと言っていた残りのMPをこうして守りを固めることに使用したのは、時間を稼ぐことでそれ以上のMPを回復するためか!


 DNOにはMPを回復する手段はいくらでもある。

 職業特有のスキルや装備……そしてMP回復用のアイテムが。


 このまま時間を稼がせると、これまでの戦いが無駄になる。

 何より、キナネさんの死が無駄になってしまう。


「俺が行きます」


 だから俺は、走った。

 砂に埋もれるよりも先に前へ。右脚をつけば左脚で。埋もれるよりも早く次の足を出す。


「……俺のAGIはそこまで高くない。すまないが任せたぞリュウキ君!」


「任されました!」


 そうかっこよく、ブレッシュさんに返事をしたのだが、


「『サイドクロウ』」


 拳も蹴りも、スキルを使おうとも、二つ名を使用した状態であるにも関わらず、ユークリッドを囲む壁には通用しなかった。

 

 ただ硬いだけではない。

 まず第一に足場が悪い。壁を囲むようにして『サンドカーペット』が展開しているため、俺は立ち止まることが出来ず、絶えず壁の周りを走ることを余儀なくされていた。そのため溜めるタイプのスキルを使うことができない。足を止め、溜めた瞬間に沈み始めるから。そのため威力ではなく手数重視のスキルのみを使うことしかできず、満足な威力が出ないのである。


 そして第二に、壁が三重であるという点である。なぜ外壁が砂であるか、それが少し疑問であったのだ。砂など纏わせずに単に岩や土のみで作り上げればより強固になったはずだ、と。砂があるから泥を間に入れなければいけないのでより謎が深まっていた。だが、実際に攻撃してみれば、絶えず上方から流れてくる砂によって俺の攻撃はややではあるが、受け流されていく。しかも砂の壁は思っていたよりも深く、ずぶずぶと腕や足が沈んでいくのである。すぐさま引き上げなければそのまま足元の砂に埋められていたことだろう。


「ならば……」


 と、俺は壁を駆け上がろうとする。


 横からの攻撃が駄目ならば、上からだ。

 しかも壁そのものが足場となっているため溜め技を使うことができる。

 もし、上方で壁に沈みでもすれば、それはそれで壁の内側へと侵入できるということだ。侵入……ユークリッドへと近づくことが出来る。


 しかしこれもあっけなく失敗した。

 やはりこれも外壁たる砂に邪魔された。

 砂がさらさらと降り注ぐ壁はそれだけで滑る。足元の地面に足が沈むのは砂が固形ではないからであるが、壁も同様であった。固形でないものを掴むことはできない。


 俺の二つ名の最たる特徴である速度で近づいたはいいが、それだけであった。

 攻撃も、壁を駆け上がるための特殊な力も、速度以外の何もかもが足りていなかった。


「すいません……ブレッシュさん。……力が足りませんでした」


「そうか……」


 壁をどうにかするのは俺1人では無理である。

 だから俺はすぐさまブレッシュさんの下へと戻った。


「多分だが、俺ならあの壁を突破できる」


 唐突にブレッシュさんが呟いた。

 俺があの壁を壊せないと知った上であろう。


「本当ですか!?」


「ああ。だが、俺はあの砂の地面を走ることはできない。間違いなく沈む。……リュウキ君は俺を担いであれを走り抜けることはできるか?」


 俺はブレッシュさんを見る。

 金属製の鎧。そして俺を優に超える身長。がっしりとした体つき。


 このゲームにおいて体格と体重が人間を運ぶ際にどのように関わってくるのか分からない。ATKが高ければそれでいいのか、それとも別にスキルが必要なのか。

 だが、先ほどブレッシュさんをお姫様抱っこした時、あの時は明らかに速度が落ちていた。

 

 俺1人で砂の地面を走り抜けた時ほどは速く走れないだろう。


「駄目か……」


 俺の表情からブレッシュさんは察したようだ。


「ならば、一か八かで走ってみようか……あるいは俺の固有スキルで……いや、駄目だ。まだ使うわけにはいかない……」


 ブレッシュさんはああでもないこうでもないと策を巡らせているようだ。

 その姿を見て俺は決めた。


 ユークリッドに直接使うと決めていたあのスキルをここで使うと。


「ブレッシュさん」


「どうした」


「この砂さえどうにかすれば、ブレッシュさんはユークリッドを倒すことはできますか?」


 それは、これは俺がどうにかするから後は任せたという、ある意味で丸投げに近い言葉であった。

 仮に倒せなかったとして、責任は全てブレッシュさんに向けられる。

 俺に出来ることはこの砂の地面をどうにかすることだけ。


「……ああ」


 だが、ブレッシュさんはそれでも応じる。


「約束しよう。あの壁と、そしてユークリッドは俺がぶち壊すと」


「お願いします。なら俺はそこまでの運搬係をやるとします……固有スキル、『ミュータント・オーガ』


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