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二つ名オンライン  作者: そらからり
2章 同盟者
78/156

76話 導くべきは勘違いから 後編

違うの書いてたらこっち遅れちってた……

まあ誰も待ってなかったと信じて

「一昨日だ。その男子生徒は1つ県をまたいだ別の中学校に転校した」


「……え?」


 教授の言葉が聞こえなかったわけではない。

 聞こえていてその意味を理解できなかったわけでもない。


 聞こえており、理解した上で、なぜそのようなことになったのかが萌音には分からなかったのだ。


 固まる萌音を尻目に、教授は机の引き出しから1つの封筒を取り出す。

 そこには喜納田萌音と書かれていた――萌音のこれまでの学歴や大学入学時の履歴書が入った萌音に関する資料である。


「君の経歴は良く知っている。成功体験が非常に多く、失敗談すら次の成功への礎となっているようだ。そして今回の失敗すらも君なら成功に導ける……そう信じているから私は君に対してこれから指導をする」


「失敗……ですか」


 まるで、認めたくないように萌音は言うが、もし男子生徒が萌音のせいで転校してしまったというならばそれは間違いなく失敗である。認めざるを得ない。


「失敗……そうだな。その生徒にとっては失敗であり、君にとっても失敗と捉えられても仕方ないのだろう。だが、この件はあくまでも、研修の枠を超えたものであり、長年教鞭を取っているベテランの教員でも難しい問題だ。虐めというものはそれほどに凶悪であり、ありふれていて、それでいて無邪気と邪気が入り混じった現実的な問題なのだ。だから、君が背負うことは何一つない。この件からきちんと学んで次に活かしなさい」


「し、しかし私は……」


「……と、言っても君は納得しないだろう?」


 教授の言葉に萌音は固まる。

 萌音にとって少年が虐めの果てに転校してしまったという問題は研修で起きた問題でも、これから先に体験するであろう事件の1つでもなく、ただ少年の人生を変えてしまった原因として、悔しさと虚しさ、そして自分自身に対する憤りを溢れさせるものであった。


 最初は受け入れられない困惑がやがて怒りとなる。

 それは虐めをしていた主犯格と思わしき少年少女でも、虐めに打ち負けてしまった男性とにでもなく、気づくことも気づこうともせずただ自己満足にふけっていた自分自身へのもの。


 そして、その怒りを萌音はどうすることもなく、どうすればいいのかも分からず、教授の言葉を待つのみとなっていた。


「だから、君は十分に悩みなさい。私からは以上だ」


「え……?」


 そう言って教授は萌音を教授室から追い出した。

 これ以上は自分で考えるように、と。


 萌音ならきっと自分で答えを導き出せる。

 それだけの精神的な強さも聡明さも彼女は持っている。それは教授も、そして萌音自身も分かっていた。


 だから、萌音はその後、研修を終えても、大学を卒業する間近になり、こうしてDNOというゲームで遊びながらも悩みに悩んでいた。


 どうすれば良かったのか。

 どうすることが最適だったのか。


 その答えは未だ出ていない。

 二つ名の能力が剣に関わるものであり、誘われるまま『キングオブナイツ』に入団し、仲間とともに冒険活劇を繰り広げようとも、彼女の頭の片隅にはそのことがずっとひっついて離れなかった。

 思考は常にそれが纏わりついていた。


 だからこそ、目の前にいる少女――ユークリッドを相手にした時も、少女と男子生徒を重ねて考えていた。


 もしやこの少女も虐められて道を違えてしまったのではないだろうか。

 導くべき教師が間違った道に誘導してしまったのではないか、と。


 ならば、元に戻すのは自分の役目であろう。

 これから始まる教師生活。あの時救えなかった男子生徒を救うためにも、今目の前にいる少女すら救えないと意味がない。


 何のために教師を目指したのか。

 それは、自分のように子供たちに楽しく学校生活を送ってもらうためだ。


 そして萌音は――キナネは剣を構えた。

 導くべき剣を。

 物質も、そして少年少女も一緒に巻き込んで正しい道に導いてやろう。


 キナネは笑う。

 自分の力ではユークリッドには勝てない。

 勝てないが、それでもやれることはある。


 勝つための布石くらいにはなれる。


「うーん……やる気を出しているとこ恐縮ですが、私そう簡単にやられる程安い女じゃありませんよー?」


 ユークリッドの周囲が膨れ上がる。

 その膨れ上がり方は先ほど、『マッドパペット』が生まれたときと同様のもの。

 しかしその大きさは半分以下。そして数は……十数個!


「さあ、行っちゃってください。私の可愛い泥人形たちー」


 ユークリッドの周囲から『マッドパペット』が生み出される。

 醜く、そして再生し続ける泥人形が。


「うあぁぁぁぁぁぁ!!」


 キナネは咆哮とともに、泥人形の一体を海水を纏わせた剣で斬りつける。

 再生力に秀でたため速度を犠牲にした泥人形は海水をまともに浴び、溶け、再生せずにただの泥へと戻る。


「んー。やっぱりそれなりの大きさがないと駄目ですねー。ただ斬られるならまだしも、少量の水でやられてしまいます。かといって、あちらで巨大泥人形を使っているためにこちらは小さいのしか用意できませんし……」


 ぶつぶつと現状、自身が追い詰められ始めていることを呟くユークリッドであるが、キナネ自身もこの状況を特段有利になっているとは思えてはいなかった。


「キナネさんでしたっけ? あとその能力は何回使えるんですかー?」


「くっ……」


 固有スキルである『アブノーマル・ウェイブ』を使った代償としてキナネのMPは大幅に失われていた。今からでは回復を望むことは出来ない。

 後何回……キナネは数える。

 自分のMPと『一刀追尾』の能力発動のための必要MP、そして残りの泥人形の数を。


「……駄目か!?」


 隣ではリュウキが泥人形を殴っているが、その拳は泥人形に深く沈むも、微量たりともダメージを与えられていなかった。

 単なる身体強化系の二つ名の限界。

 つまりは何らかの特殊攻撃を必要とする相手にとっては相性が悪いのがリュウキの『悪鬼変身』であった。


 だから、この泥人形たちをどうにかするのはキナネの役目であった。


「リュウキ君。泥人形は私がどうにかします。どうにかして道を開けます。だから、その隙にユークリッドに止めを。……頼めますか?」


 本当であったら、ユークリッドに止めを刺すのは『キングオブナイツ』の誰か。そう願ってこの闘いに臨んでいた。キナネもいつしかやりがいを見出していたこのDNOの居場所をもたらしてくれた『キングオブナイツ』の面々に報いるためにも、一教師としてもユークリッドに止めを刺してやりたかった。

 だが、手札が足りない。

 

「ユークリッド。私が二つ名の能力を使える残りの回数は6回です。これ以上はMPがありません」


 そして、キナネはそう正直に己が使える残りの回数をばらした。


 教師たるもの生徒に隠し事はせず。


 別にそう思ったからではない。

 ただ、言わなければならない。

 言わなければユークリッドに勝つことはできないと感じたからである。


「6回……? それが本当かどうかはまあ、あなたの表情を見れば分かりますがー……なんとびっくり本当のようですね。正気ですか? 残り11体の泥人形を相手にするんですよ?」


 もはや泥人形をどうにかすることのできないリュウキなど眼中にせず、ユークリッドはキナネに対して、それだけでは泥人形に道を阻まれ、そのまま死ぬぞと告げる。

 まだ回数を隠していれば駆け引きなりなんなりできたのに、と。


「正気ですよ。正気で勝機を狙っているんです……なんてね」


 そう言ってキナネは剣を振りかぶりながら二つ名を発動する。


 発動するタイミングは剣が海水に触れた時でも、地面に触れた時でもなく、泥人形に剣が触れた時である。


「『一刀追尾』!」


 剣に泥人形を追尾させる。

 相手がモンスターであっても、能力は発動される。しかし、泥人形は泥人形として、一個の『マッドパペット』として扱われるため、泥人形の体全てが引っ付いてくる。


 そしてそのまま一本背負いをするかのようにキナネは泥人形を別の泥人形へとぶつけた。


 グチャア、と。

 『マッドパペット』と『マッドパペット』がぶつかり、泥と泥が混ざり合い、泥人形は1つになった。

 しかしそうして一つになった泥人形が新たに動き出すことはない。

 ユークリッドが先ほど言ったように、小さい泥人形だから動かせたのであって、これ以上大きくなると今の彼女の力では動かせない。


 小さく呟いた言葉から推察し、行動に移したキナネであったが、その推察が正しかったことに安堵する。


 そうして同じことを4回。一回目を含めて最初は12体いた泥人形がこれで11体身動きできなくなったことになる。

 そして、残り一体の泥人形に対してキナネの『一刀追尾』発動回数は残り1回。

 速度に劣る泥人形を捉えるのは容易い。そのまま動かないどれかの泥人形にでもぶつけてやればキナネが『一刀追尾』を使うことはこれで出来なくなるが、その代わりにリュウキの道は開ける。


「後……一体!」


「いいえ、0ですよキナネさん」


 しかし残りの泥人形が道を塞ぎ、それに向けて剣を振るおうとしたキナネをリュウキが止めた。キナネを言葉で、そして泥人形をその黒く染まった脚で。


「『タイフーン』」


 爆発的なまでに加速した蹴りで泥人形の足元の地面を蹴る。その蹴りは地面を深く削り、泥人形を沈める。

 地面がキナネの固有スキルにより水浸しになり、泥として柔らかくなっていたことが幸いになっていた。

 泥人形は動きを止めることはなかったが、それ以上の移動は困難になっていた。


「リュウキ君……ありがとう」


 ありがとう、私をユークリッドのところまで連れて行ってくれて。

 その言葉を飲み込んで、口を動かすより早く足を動かし、一足でユークリッドへと辿り着いた。


「覚悟してください。悪いことをしたら怒られるのが子供です。お説教は次回もあるので……」


 それ以上の言葉がキナネの口から続くことはなかった。

 なぜならユークリッドの顔から先ほどまでの余裕は消え、恐怖に満ちた表情をしていたからである。


「ヒッ……ヒッヒッヒッヒッ……」


 過呼吸を起こしたかのような悲鳴とその恐怖に染まった顔を見た瞬間、キナネはユークリッドを、あの虐められていた男子生徒と重ねてしまう。


 虐められていた男子生徒もこんな顔をしていたのだろうか……。


 そんなことを考えてしまい、キナネは思わず剣を落とし、


「キナネさん!?」


 ユークリッドを抱きしめていた。

 何をしているか自身でも分からない。

 だが、同時に、こうしてやることがあの男子生徒を救うことに繋がるのだと……いや、それよりも目の前の少女を救うことになるのだと直感していた。


「ごめんねリュウキ君。でも、ただ倒すだけじゃこの子は救われない。それを思うと……」


 しかしまたしてもキナネの言葉は続かなかった。

 今度はユークリッドの顔を見たからではない。

 もし見ていても、口を閉ざすことになったかもしれないが、今は別の理由でである。


「ヒッヒッヒッヒッ……だから大人は馬鹿なんだよヒーヒッヒッヒ……『マッドニードル』」


 キナネの言葉を止めたもの、それはユークリッドの魔法であった。

 いつからか悲鳴を笑い声に変え、顔は笑みで歪めていた彼女の放った魔法はキナネの体を貫き、HPを0へと削る。


「ごめんね……ごめんね……」


 それを誰に言っているのか分からない。

 リュウキに対してなのか、『キングオブナイツ』に対してなのか、男子生徒なのか……それともユークリッドに対してなのか。


 謝りながらキナネは消えていった。


 そして同時に、リュウキ達の後ろで緩慢とだが恐ろし気に動いていた巨大な『マッドパペット』も消え去った。


「キナネ、リュウキ君、状況はどうだ?」


 ブレッシュの叫びに対して、


「あと一人です! 相手も、そして俺も……」


 そう返すことしか、リュウキにはできなかった。


キナネさんは無駄死にしたかのように思われますが、きっちりと泥人形を片付けていったので、その分のMPはユークリッドから失われています。


あと1.2話で闘いも終わるかなー……

ってかユークリッド戦だけ長いな。まあこいつで最後だから仕方ないか。

この戦い終わったら次の戦い書くんだ……(フラグ

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