72話 聖剣悪剣これを以て敵を討つ 後編
地面が底なしの砂浜に変えられるのを防ぐために水を撒いて土にした。
土を再現なく再生していく土人形変に変えるのを防ぐためにさらに水浸しにした。
地面はぬかるみ、底なしの砂に変えたところですぐに固められるだろうし、土人形をつくったところですぐさま崩れ落ちていくだろう。
砂も土も封じた。
さらに俺の二つ名である『悪鬼変身』を使うことでさらにこの闘いの優勢は俺達に傾いていた。
だからこの時俺は内心では安堵し、勝ったと思い込んでいた。
「ほう、身体強化型の二つ名か。しかも今まで使わずにあの土人形を倒していたのならかなり期待していいな」
「武器が剣ならすぐさま勧誘したいところですね。いえまあ、どの道不可能に近いことは分かっていますけど」
そうブレッシュさんとキナネさんは俺の二つ名を称賛してくれるけど、俺は二人の二つ名の方がすごいと思っている。
常に最適な行動がとれる二つ名と、剣に物質を追尾させる二つ名。
どちらも強そうだ。俺の二つ名はブレッシュさんの言う通り身体強化型であり、使いこなせないと意味がない。
それに、単純な強さにしかならず、特殊な能力を使う敵には歯が立たないこともままある。
そのための仲間なんだけどね。
「……その黒い両腕両足。情報よりも多くの箇所が黒くなっていますが、あなたがリュウキ君ですねー?」
土の壁が崩れユークリッドが姿を現す。
「そうですか。私のところにあなたが……まあ、どうせ私の魔法よりも速く動けるからとかいう理由なんでしょうけどねー」
ユークリッドは妙に間延びした話し方をする。
それがまどろっこしくて、こちらがなぜか焦ってしまうような気持になる。
「俺を知ってるのか?」
「オセさんに聞いていますからー。他の『五芒星』の人たちは知りませんが、私は目ぼしい人たちの二つ名の能力くらいは把握しています。先ほどは忘れたふりをしていましたが、もちろんあなた方のことも知っていましたよ、『キングオブナイツ』のお二人さん」
ブレッシュさんとキナネさんが剣を構え走り出そうとする。
俺はそれを手で制しながら、
「なら分かるだろ、この状況が。大人しく負けを認めるならそこまで酷いことはしないよ。もうあなたに出来ることはないんだから」
負けを認めるなら……そうしてくれれば余計な闘いをせずに後はオセの情報を聞き出した後で悪いけど死に戻ってもらう。出来れば傷つけたくはないけど、このフィールドはユークリッドが死ぬか俺達が全滅するかしないと解除されない。
出来れば投降という形で決着を着けたいところだ。
「んー、この状況と言われましてもねー。まだ私のHPは毛ほども減っていませんし、そちらは2人欠けています。どちらが勝つかなんてまだ分かりませんし、どの道そちらのお二人は私が潔く負けを認めるだなんて望んでいませんでしょう?」
ユークリッドがブレッシュさんとキナネさんを見て笑う。
「さて、私は砂使いであり土使いでもあります。砂が駄目で土が駄目。私に使えるものはない。だからリュウキ君は私に勝てると踏んだのでしょうけど、違いますねー」
ユークリッドが俺を見て笑う……いや、違う。目だけは笑っていない。
目は俺の次に地面を見る。
地面はぬかるみ……砂でも土でもなく……泥だ!?
「私は砂使いにして土使いにして泥使いでもあるんですよ。だから――」
俺は走り出していた。
このままでは致命的な状況にこちらが陥ってしまうと予感したからだ。
「おお、速い! 確かにリュウキ君の速度は私の魔法の完成よりも速いかもしれないですねー。まあそんなのは無駄ですけど」
ユークリッドの足元が膨れ上がる。
膨れ上がった地面はそのまま大きな山となり人の形を取ろうとし、崩れる。
しかし、崩れてもなお醜く手足と頭部らしき形は残り、這いつくばりながらもなお見上げるほどの大きさとなったそれは俺とユークリッドの間に立ち塞がった。
「――っ!? 『サイドクロウ』」
俺の拳がユークリッドの作り出したそれに突き刺さる。
……しかし、その効果は何も示さず、ずぶずぶと拳はどこまでも沈むが相変わらずそれは動き続け俺に向け腕らしき部位を向ける。
深追いはせずにすぐさま引き、相手の様子を見る。
どうやら動きはそこまで速くはなさそうだ。しかし、耐久力というか、攻撃をした時の手ごたえを全く感じない。
「どうですかー、私自慢の泥人形は。速度を捨てた代わりに物理ではほとんどダメージを負わない自慢の人形ですよー。この子がいるのにまだ私が負けると思っているんですかねー」
崩れては他の部位から泥を集めて再生し、崩れては再生を繰り返して歪な泥人形はそこに存在していた。
泥人形、か。
砂でも土でもなく泥。
砂のように柔らかすぎず、しかし砂よりも形は保ち。
土のように固すぎず、しかし土よりも不定形。
おそらくユークリッドの切り札であろう。
「魔法で作り出したんだよね? それにしては呪文を唱えていなかったみたいだけど?」
明らかにユークリッドは無言で泥人形を作り出した。
それが何を意味するか分かってはいたが、聞かずにはいられない。
「それが私の固有スキルですよー。効果は君が思っている通り、詠唱なしで魔法を使えるって効果です。PCゲームでスキルをショートカットするのと同じことです。登録しておいた魔法はいつでも自由に呪文の詠唱なしで使うことができるのですよー」
なるほど。なら他にもいくつかの魔法を登録していそうだ。
無暗に距離を空けすぎても駄目か。かといって至近距離から大型の魔法を撃ち出されても困るし……。
とりあえず隙間を狙ってみよう。
泥人形といっても人形は人形で、不定形でも少なからずの形はある。
2本でも4本でも足で立っているならばその足と身体の間は空いているということになる。
動きは鈍いわけだし、泥人形を無視してユークリッドを狙ってみるか。
そう思って泥人形の身体の下を抜けようとしたのだが、失敗した。
泥人形の真下へと辿り着いた瞬間、突如として泥人形が崩れ始めたのだ。
泥は重力に逆らわずに一気に真下へと落ちていき、危うく俺もそれに巻き込まれるところだった。
すぐさま後方へと戻ったが、その時には泥人形は元の形に戻っていた。
再生と崩落。どちらも併せ持つ泥人形は足止めには最適のようだ。
……さて、どうしたものか。
「リュウキ君」
どうやって攻略しようか悩んでいると、隣から声を掛けられた。
「リュウキ君はユークリッドを倒せる自信はあるか?」
「正直、難しくなってきました。あの泥人形は俺の攻撃のことごとくを無力化するでしょう。……打撃くらいしか能のない俺にはあれの攻略は難しい」
そう、難しい。
無論、俺の奥の手を使えば倒せるかもしれない。だが、そうするとユークリッドを倒す手段が無くなってしまうのである。
「……つまり、あの泥人形さえどうにかしてしまえば大丈夫なんだな? なら、俺が引き受けよう」
そう言ってブレッシュさんは剣を泥人形に向ける。
「俺があの泥人形を討つ。君はキナネと共にユークリッドを討ってくれ」
「いや、でも全員であの泥人形と闘った方が……」
「それではユークリッドを誰が相手する? 我々が泥人形と闘っている間にユークリッドが攻撃してきたら? リュウキ君、これは俺の役割なんだよ」
「ならせめて、キナネさんもそっちで……」
「いや、俺1人で十分だ。ユークリッドの奥の手が泥人形だけとは限らない。なら泥人形を相手にするのは最低限の戦力でいい」
「副リーダー! 最低限の戦力でしたら私の方が適任では?」
今度はキナネさんが泥人形を相手にすると言い始める。
確かに、一ギルドの副リーダーとギルドメンバーでは戦力の差はあるだろう。
「キナネはさっき固有スキルを使った。もうMPは心もとないだろう。……さすがにこの泥人形を相手にするにはMPが足りない。それに比べて俺の二つ名は燃費が良いからな。こいつの相手をするくらいなら造作もない。キナネ、お前はリュウキ君のサポートをしてこい。……これは副リーダーの命令だ」
最後に冷たく、突き放すようにブレッシュさんはキナネさんに言った。
しかし、冷たさの中にこもった熱をキナネさんは感じ取ったようで、
「分かりました! 副リーダー、ご武運を! 行きましょう、リュウキ君」
先ほど俺が行ったのと同じように泥人形の足元を潜り抜けようと走り出した。
俺も慌てて追いかける。
「うーん……聞いた感じだと戦力分散ですかー。まあ最適かもしれませんねー、……最善かは分かりませんが」
泥人形が崩れ落ちる。
埋もれる。そう思い引き返そうかとしたが、
「リュウキ君、このまま抜けますよ! 『一刀追尾』」
弧を描くようにして振られたキナネさんの剣を負うようにして崩れ落ちる泥はその進路を変える。
真下ではなく横に向かっていく泥を潜り抜けた先にはユークリッドがいた。
「副リーダー、後は任せました!」
「おう! キナネ、リュウキ君、ユークリッドは任せたぞ!」
頼もしい。頼もしい仲間だ。
これなら倒せる。そしてここから先は誰一人として仲間の死に戻りはさせない。
「すぐに倒しますので泥人形の足止めはお願いしますね!」
「ふっ……倒してしまってもいいだろう?」
死亡フラグでなければぜひとも倒して頂きたい……。
このままだと次で終われないのは確実なのでタイトルはこれで後編にして、次からまた別のタイトルにします




