71話 聖剣悪剣これを以て敵を討つ 前編
砂は柔らかで攻撃力はないけど底がない。砂に埋もれたら最後、どれだけもがこうとも二度と日の光を見ることが出来ないのかもしれない。……いや、あくまでゲームの世界での話だからちゃんと死に戻れば見れるけど。
『五行同盟』土担当、ユークリッドが使う魔法のうち最も頻度の多く、最も凶悪な魔法は『サンドカーペット』と事前に言われていた。通常よりも範囲が広く、深いのはそれがユークリッドの二つ名の能力なのだろうと。
「リュウキ、お前の速さなら地面が砂になる前に脱出出来るはずだ。周りが壁に囲まれているわけじゃねえ。お前の走りを拒むものはない」
「分かりました。でもユークリッド……あの女の子の二つ名の能力は魔法の補助ですよね。『サンドカーペット』はあくまでユークリッドの持つ魔法の1つです」
「ああ、そうだ。他の魔法も強化されている可能性が高い。だが、砂魔法はどれも行動阻害のものばかりだ。その上、発動までに少しの猶予もある。だから、お前なんだ。それに――」
そう、背中を押されてユークリッドの待ち受けるフィールドへ来てみたが、誰もいなかった。一緒に転位したはずの『フレクション』の……いや、もしかしたらあの時押し寄せて来た誰かなのかもしれないけど、その人たちは何処にもいなかった。
「失敗……いや、でも砂浜だし」
もしかしたらフィールドは合っていても座標が違っているのかもしれない。
みんなとは遠く離れてしまい、今ユークリッドと闘っているのかも。
「……急がなきゃな」
間に合うかな……いや、間に合わせなきゃいけない。
『それに一緒にいる仲間と協力すればいい。お前だけがユークリッドを倒す必要はねえからな』
ダラークさんが俺を信じてくれたように、ここに来た人達を信じて協力しなければならない。きっと俺1人じゃ倒せないから。
そう言えば、ユークリッドは砂魔法を使うという情報はあった。
でも、砂魔法だけなのだろうか?
ユークリッドは土担当。砂ではなく土を担当している。
五行の中で砂に近いのは土であったからと言われればそれまでだ。だけど、魔法を複数使える人はこれまでに何人か会っている。
それに……二つ名の能力の詳細がまだ分からない。魔法の補助、と言うけれどシズネの二つ名のように最初から魔法を覚えられる二つ名なのかもしれない。
それならば厄介だ。
もし俺が『サンドカーペット』から抜け出そうとすれば、それは範囲の外に出ようとする速度があるから走るだけだろう。
でも……もしも『サンドカーペット』自体をどうにかしようとしたら……。ここは砂浜であって海岸だ。水ならば豊富にある。砂を土に変えて埋もれなくなろうと考える人がいたらどうなるだろう。
砂を固めて土にする。砂使いにとっては有効な策かもしれない。
だけど……土使いにとっては、それは手駒が増えることとなる。
砂使いであり土使い。もしかしたら泥使いでもあるかもしれない。
砂に埋もれたくないから水をかけて固めて土にする。
土で攻撃されたくないからさらに水をかけてグチャグチャの泥にする。
泥は……だめだ。不定形であり、質量がある。
嫌な予感しかしない。
だから、俺は土人形を見た瞬間に叫んでいた。
「壊したら海に投げ込むんだ。海水に混ざればそれで大丈夫のはずだ」
泥よりも水分を増やして水の一部に変える。
海水の一部になれば例え泥使いであっても操れない。それは水使いの領分だ。
ユークリッドが土担当なら水は操れない。
「待たせてごめん! 俺も一緒に闘う!」
間に合った。まだ協力できる人は残っている。
相手は単純な強さではなく臨機応変な強さを持っている。
こちらも多種多様な能力が必要になるかもしれない。
「俺はリュウキ! 死んでしまった他の人の分まで……俺が頑張る!」
そう言いながらいくつもの土人形を泥水へと還していく。
「……助かる。正直、諦めかけていたが、君のおかげで希望を持てそうだ。キナネ、この辺一帯に大波を作るんだ!」
「了解です。リュウキ君……でしたか、感謝しますよ」
指揮官らしき男性の指示でキナネと呼ばれたもう一人の女性は海に剣先を沈めていく。
徐々に海中へと剣は入っていき、ついには刀身全てが海へと沈んだ。
海とは塩水であり、そこに剣を入れるということは剣にとって少なからずのダメージを生む。キナネさんの剣の耐久力が減っていくが、それでも剣は海から上がらない。
やがて海は小さな波を作った。
小さな波は他の波と混ざり少しずつ大きくなっていく。
そして混ざり合って大きくなった波はキナネさんの剣へと吸い込まれるように近づいていく。
「固有スキル、『アブノーマル・ウェイブ』」
キナネさんが海中から剣を取り出しそのまま一刀の下に振り下ろした。
その剣を追うように大量の海水が大波を作る。
「……津波」
俺は思わず呟いていた。
テレビで見た震災の状況を描いたドラマを思い出す。
10人や20人では済まないどころではない規模の大波は大勢の命を奪っていく。
「――っ!? 『マッド・ウオール』」
「君はこっちだ!」
ユークリッドが土の壁を魔法で作り出すのが見える。
俺は指揮官らしき男性に腕を引っ張られる。
その直後、キナネさんの巻き上げた津波が辺り一帯を襲った。
「さあ、もう大丈夫ですよ」
キナネさんに抱きしめられる形で俺と男性は津波の被害を避けることができていた。
「私が作った波ですからね。私を中心としながらも私は台風の目のごとく被害を受けない。そして範囲と威力はより広くなる。これが『一刀追尾』の固有スキルである『アブノーマル・ウェイブ』です!」
キナネさんが嬉し気に語る。
まだ固有スキルを持っている人は少ない。
だから固有スキルを使って活躍できることは本当に嬉しいんだろうな・
「これで、土人形は全滅だな。全て波が持っていってくれた」
「だけどまだ、ユークリッドがいます」
波が土人形全てを破壊し、引き波がその破壊された土全てを海へと持って帰っていった。
地面も水を多量に含んでいるため土人形を再度作るのは不可能に近いだろう。
しかし、ユークリッドは別だ。津波によって崩れかけているが、よほど強固に作ったのだろう土の壁は未だ健在であった。
「さて、そろそろ放してくれると助かるんだがな」
「俺も、その方が……」
ユークリッドを見てキナネさんは無意識に俺達を抱きしめる力を強めていた。
痛くはないけど……柔らかなものが押し付けられていて俺ともう1人の男性は顔を少し赤らめながら困っていた。
「はい? まあ、そうですね。動けないのも困りますからね」
幸いと言うべきか、俺達の表情から別のことで困っていると勘違いしてくれたキナネさんはそのまますぐに解放してくれた。
「……改めて、俺はブレッシュ。『キングオブナイツ』というギルドの副リーダーをやっている。あの時、集合地点で乱入してしまったが、許してほしい。リーダーの仇を取りたかったんだ。……結果はこのザマなのだがな」
申し訳なさそうな、そして悲し気な顔をしながら男性は名乗る。
ブレッシュさんか。副リーダーなら強そうだ。
「気にしてないよ。あの時のメンバーでもどうなっていたか、この強さを目の当たりにしたら分からなかったし」
「私はキナネです。先ほど見せたような、剣の後に不定形の物質を追尾させる『一刀追尾』という二つ名を持っています。副リーダー共々、本当に申し訳ございませんでした……」
キナネさんが深々と謝る。
……本当にそこまで気にしていないからこっちが申し訳なくなってきてしまう。
「こちらだって謝りたいよ。もう少し早く駆け付けていれば……二人くらい間に合わなかったみたいだし……」
このフィールドには6人いることが分かっていた。
俺とユークリッド、ブレッシュさん、キナネさん。そして後2人。
さすがに他に遅れてくるような人はいないだろうからいない2人はすでに死んでしまったのだろうと思っていたのだが……。
「彼らについては気にしないでくれ。実力不足、そして敵を侮りすぎていた俺達の責任だ。敵は思っていたよりも強かった、それだけだ」
ブレッシュさんはユークリッドを睨みつけ、剣を構える。
「『剣聖抜粋』、それが俺の二つ名だ。見た目は地味だが、確かな強さがあると俺は信じている。さあ、再開と行こうか」
「はい! リーダー、そして他のギルドメンバーの方々のためにも」
キナネさんも剣を構える。
「行きましょう! この闘いを終わらせるために!」
俺も拳を構える。
剣を装備する2人に比べてしまうと些か劣ってしまうかもしれない。
だから俺なりの剣を出させてもらおう。
悪を打ち払うための聖なる剣を。
「『悪鬼変身』!」
……まあ剣というか爪なんだけどね。
……そして悪は俺だった。
主人公の性格こんなんだったっけ?




