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二つ名オンライン  作者: そらからり
2章 同盟者
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68話 竜魔と金属 後編

 弓から飛ばされた時の矢の威力と実際に標的に当たった時のダメージはイコールであるかという問いに対して、否と答えるべきである。少なくともDNOというゲームの世界では。

 弓を引く膂力、弾道、風向き、着弾点までの距離、当たった箇所、弓・矢の種類……挙げればキリがないほどの条件の下で弓から放たれた矢は標的へとダメージを与える。

 すなわち、どれだけ弾道上で威力が高かろうとも着弾時のダメージは減少、あるいは威力が低かろうとも急所や弱点に当たれば高ダメージを望めるのである。


 しかし、どれだけ弓を引き絞ろうとも、弾道上で威力が高かろうとも、風向きが追い風であろうとも、急所に当たろうとも、着弾時にダメージが減少する場合がある。

 鏃を尖らせようとも、螺旋状にしようともダメージは変わらない。

 それこそがトワイスがかつてアスタロトであったときに装備していた、アスタロトであるための弓であった。

 ステータス異常の毒を含ませる代わりにダメージが1に固定されるというもはや呪いにも近い効果を持つアスタロトはトワイスだけにしか装備できない武器である。

 ダメージが1ではどれだけATK値が高かろうとも、どんなスキルを使おうともダメージは変わらない。

 変わらないがゆえにトワイスにとっては敵の防御力などそこまで重要視するものではなかった。

 だからこそ、トワイスは防御力に特化しているオルナイフを倒す算段ができていた。


「グギャウッ!!」


 目の前でステータスの全てが2倍になっているはずのトカゲ型モンスターのHPが完全に0になり消滅している様を見ながらもなお。





「やっぱ弱えんだよ、アンタは! あの時なら俺の針でだって幾度も耐えたドラゴンが、このザマだ! そこの悪魔モドキだってそこまでの速さじゃねえ。 アンタに俺を倒すのは無理だ!」


 太陽を血の底に落とすような黄金を汚す泥を一度ふき取られた鎧は再び泥にまみれていた。しかしその泥の付き方は戦闘中に巻き上げられたものではなく、あくまで故意に付けられたものだと誰が見ても確信できた。

 両腕にだけ付けられた泥。そして頭部や身体、足の一片にすら泥は付けられていない。


「俺の最終形態とでも言おうか。アンタの言った通り俺の二つ名の固有スキルであるところの『ダーティライト』は汚れた個所の攻撃力を上昇させる効果がある。しかも元が光っていればなおさら効果が増す。分かるか? 俺の鎧は輝く箇所が防御に優れ、汚れた個所が攻撃に優れている。防御を主体としたこの能力こそ最強の攻撃に繋がるんだ!」


 トワイスの扱うアスタロトのダメージが1であるならばオルナイフの放つ針は絶大なるエネルギーを秘めた隕石のようなものだ。掠っただけで致命的なダメージになりかねない。

 オルナイフが針を放った。シュッ、ヒュン、パン、と続けざまに音が鳴る。

 シュッ、という音はオルナイフの放つ針の音。ヒュン、という音はトワイスの放った矢の音である。

 そしてパンと音がした。


「はあぁ? なんで弱っちいアンタの矢が俺の針と相殺できるんだ!? 俺の針は一撃でそこいらのプレイヤーの命を容易に刈り取る。だがアンタの矢は俺の鎧をかろうじて貫通する程度だ。俺の攻撃力は防御力と反比例する。俺の防御力の高さが俺の攻撃力の高さの証。つまり、俺の針を防いだアンタの矢は明らかにおかしいってことだ!」


 オルナイフが針を2本投擲する。

 それをトワイスがスキルを用いて2発放ち撃ち落とした。


「なぜだなぜだなぜだ!!」


 オルナイフの隕石のごとき針が全て弱いはずであるトワイスの矢に防がれていく。


「我の弓は特別だ」


 矢を続けざまに放ちながらトワイスはオルナイフの疑問に小さい声で答える。


「弾道上であれば我の矢はその威力を存分に発揮できる。あくまで標的に当たったときだけダメージが1になるのだ。標的ではない針に当たれば我の矢は撃ち落とせるくらいのことはできる。……元プレイヤーボスの力を甘くみたな」


 標的はもちろんオルナイフ。そしてオルナイフから放たれる針は直線状から飛んでくる。その直線状と同じ直線に逆側から矢を放てば針に当たるのは必然でありその先には当然オルナイフがいる。標的の直前に当たったのが針であるからこそその威力を保ったまま針を撃ち落とせるというわけだ。


「もしも貴様の針が曲線を描いたりするようなものであれば我にはどうしようもなかったさ。だが貴様はその針をただ投げることしかしない。攻撃力にものを言わせた針の投擲は恐ろしいものではあるが、我にはその程度、どうでもない」


 トワイスの矢が幾本もオルナイフへと突き刺さる。当然のごとくダメージは1であるが、0ではない。そのことにオルナイフは余計に苛立ちを覚える。

 本来であれば0であってもいいのだ。高すぎる防御力は攻撃を0にまで打ち消すことすらも可能である。しかし、1で固定されたダメージは、当たるたびに1ずつ減っていく己のHPを見ながらさながらそれが己の命のカウントダウンであるかのように思えてしまってどこか嫌悪感を抱かせる。


「だが俺には大したダメージは相変わらずねえ! ちまちまとしたダメージだって回復しちまえばいいだけだ!」


 回復ポーションを煽りながらオルナイフは叫ぶ。


「ほら、こうしちまえばアンタらの努力だって無駄だ! 水の泡だ! ……泡だよな?」


 ガクン、とオルナイフのHPが減った。


「は? おいおいおい!」


 先ほどの、針を撃ち落とされた時よりも焦った声を出してオルナイフは回復ポーションを更に飲み込む。

 しかし、ガクン、ガクンと決して大きくはないが、1ではない、もっと大きな数値がオルナイフのHPから引かれていく。


「くそ、何でだ! 今、アンタからの攻撃はなかった! 遅効性の攻撃か!?」


 回復は追い付いている。しかし、今もってなお終わることのないダメージはいつか回復ポーションが無くなった後にも襲い来る可能性がある。


「……毒か!」


 ステータスを見てオルナイフは確信した。

 ステータス異常の欄には毒、と確かに書いてあった。


「……解毒薬は持ってこなかったか」


 高すぎる防御力を過信しすぎて、貫通できる毒系統の攻撃など存在しないと思い込んでいた。だから持っているアイテムは回復薬のみ。己の防御力を突破できるような攻撃に攻撃系のブーストは付けれどステータス異常なんて付けることはないと思っていた。


「だけど、その前にアンタを倒せば済む話だ! この毒のダメージならアンタをPKする時間はある。PKした相手の持ち物を奪えるのはMMOの必然であり、毒使いであるアンタなら解毒薬の1つでも持っているはずだ」


 オルナイフは針を8本、同時に投擲した。オルナイフに出来る最大数の投擲。

 トワイスは次々と撃ち落としていくが、幾本かは撃ち漏らし身体に刺さり、その部位に穴が空いていく。


「ぐっ……」


 ついには両足を失いバランスを崩す。


「よっしゃ、これで終わりにしてやるぜ!」


 針を投げられる限り投げ、矢が放てられる限り放たれ、ぶつかり合い、時に交差する。互いに針と矢を身体に受け、しかしそのダメージは明らかな差を持ってHPを削っていく。


「ついに腕すら失ってしまったなあ! ……あ? 毒の威力が増えてるだと……?」


 オルナイフの受けるダメージは明らかに先ほどの倍以上に増えていた。すでに半分以下となったHPを見て余裕が今出てきた余裕がすぐに引っ込んでいく。


「毒に毒を重ねただけだ。猛毒、知らないわけではなかろう?」


「……よく知っているさ。だが、この一撃でアンタも終わりだ!」


 両手、それに片腕を失ったトワイスのHPは1割以下。あと1本当たればそれでトワイスのHPは消え去る。撃ち落とそうにも弓を引き絞る腕がない。


「食らえ!」


 最後の止め、とオルナイフは渾身の一撃を込めて針を放った。無駄な攻撃はできない。投擲と同時にトワイス目掛け走り出した。殺してすぐにオルナイフの落とす解毒薬を拾うために。


「いいや、貴様が終わりである」


 だが、オルナイフの針は防がれた。先ほどまで活躍していた矢ではなく、トワイスの周りをパタパタと飛んでいたコウモリ型モンスターによって。


「容易く避けられるということは容易く当たりに行けるということだ。これまでコウモリに避けさせていたのはこのため。トカゲを消滅させたのは針の威力を知るためだ。さて、これで貴様は終わりだな」


 ガクン、とHPを最後に大きく減らしてオルナイフはポリゴンとなった。


「……やっぱりあの時ほど強くはねえよアンタ。俺なんかにこんなに苦労しているんだからよ」


 最後にそう言ったのは負け惜しみかそれとも心の底から純粋に思っていたから出た言葉なのか。オルナイフはかつてのトワイス――アスタロトの強さを夢見ながらログアウトしていった。


お、昨日宣伝した小説がちょっとだけ閲覧数増えてる

ありがたやー

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