67話 竜魔と金属 前編
そこは柔らかい湿地であった。生き物たち、とくにイノシシ型のモンスターがヌタ場として使っており、身ようによっては生命の息吹を感じることができる。
自然とはすなわち木、水、土から成っており、そこに動物が寄ることで環境が変わる。
しかし、環境が大きく変わるためにはそこに無いものを持ってくるのが一番手っ取り早い。それで言うのであればこの両者の出で立ちこそがここに無いものであろう。
漆黒の靄を纏いし黒き鎧と、太陽のごとき輝く黄金の鎧が対峙する。
片や光さえ飲み込まんばかりの闇。片や闇を照らし出す光。
両者の鎧の持ち主のうちまず先にダメージを喰らいHPの1割を失ったのは黒き鎧の持ち主であった。
闇と光、まるで悪と正義のような対決であるが実際に善悪を照らすとそれは全く性質の異なる、鏡合わせのような正反対であった。
すなわち、黒き鎧の持ち主である元プレイヤーボスアスタロトであったトワイスは、プレイヤーボスであるオセの配下『五行同盟』の金担当オルナイフのプレイヤー虐殺を止めるべくこの場に立っていた。
「ふむ、この鎧を上回るほどの攻撃力を持つのか」
オルナイフの投げる針を腕に受けたトワイスは己のHPを確認する。
トワイスの鎧は魔法や弾丸といったロングレンジからの攻撃に対しダメージを一定量軽減させる効果がある。低級な魔法では完全にダメージを無くすことができる鎧はトワイスの防御の要であった。
鎧のダメージの軽減は%と固定量の軽減である。およそ50%の軽減の後にダメージを固定量で軽減するため残るダメージはほとんどない。
あくまでロングレンジからの攻撃であり、接近戦では意味をなさないが、それは彼の二つ名が余りあるほど補う。
「竜魔たちよ!」
トワイスの前にトカゲとコウモリ型のモンスターが守るように立ち塞がる。
この二体のモンスター、トワイスの『竜魔激突』という二つ名を象徴する二体がその力を示そうとしていた。
「グギャウウウウ!」
攻防に優れたトカゲ型のモンスターが火を吹き、強靭な鱗で覆われた身体で針を受け止める。トカゲ型といっても手のひらサイズなどでは決してなく、立ち上がれば人間ほどの大きさがある。
トワイスの鎧以上に強靭な身体は針をものともせず、オルナイフの鎧ごと身体を火で燃やし尽くすその様はかつてジュガやシズネを苦しませたドラゴンを思い出させる。
「■■■■■■■■■」
そして、トカゲ型モンスターと対になるコウモリ型モンスターはとにかく速い、に特化していた。こちらは普通のコウモリと同じ大きさであるためオルナイフの針は一向に当たる気配がない。
攻守に優れたトカゲ型モンスターと素早くけん制に向くコウモリ型モンスターはオルナイフを相手に一歩も引かず、むしろオルナイフを後ずさりさせるほどであった。
「……ふー」
オルナイフが息を吐く。
後ずさりしていることを自覚し、気持ちを入れ替えるために。
「……『ダーティライト』」
オルナイフが地面を蹴り上げる。
湿地であるため泥は容易に空中に巻き上げられコウモリ型モンスターの目をくらませる。トワイスにまで降りかかりそうな泥は高く高く巻き上げられ、蹴り上げたオルナイフ自身にも降りかかった。
コウモリ型モンスターが怯んだその隙にオルナイフは針を取り出してトカゲ型モンスターへと投擲した。
「グギャウウウウ!?」
先ほどよりも明らかに威力の上がっている針に堪らずトカゲ型モンスターは鳴く。
「質が変わったのか? ……いや、先ほどの言葉、固有スキルか」
まだトカゲ型モンスターは生きている。威力が上がったからと言っても防御力とHPはトカゲ型モンスターの売りと言ってもいいほどだ。あと一撃を喰らっても生き残るだろう。
「思い出したぜ、アンタさっきアスタロトって自分のこと言ってたろ? 俺も一回だけ挑戦したことがあるんだわ。募集していたからタンクとして一回だけな。まあ結果は散々だったが、それでも俺はアンタのその防御に敬意を抱いたね。あの陣形は見事だった」
オルナイフがトワイスを褒め、トワイスがかつて闘ったプレイヤーを思い出している中、
「アンタ、弱くなったなあ」
オルナイフは残念そうに言った。
「決してアンタはここまで前に出てきて闘うようなやつじゃなかっただろ! アンタは後ろで下がって矢を撃っていただけで前面には悪魔とドラゴンがいたはずだ! 俺の針なんかより本当は当たらないはずだ。……失望したよ」
オルナイフの投擲した針がトワイスの右足に刺さる、と同時にトワイスの右足が爆ぜた。HPも相応に減り残りは6割程。片脚を失ったことによりトワイスはその場に膝を付くこととなった。
「――っ!? 爆発物でも使ったのかね?」
「いいや、これは威力が高すぎた結果だ。隕石だって地上にぶつかれば跡形もなく粉々になるだろ? それと一緒だ。俺の針は隕石と同等だと思え。足に当ててやったのはサービスだ。頭が心臓にでもぶつかれば即死だぜ」
オルナイフが針を構える。
湿地帯で闘ったことにより黄金に輝いていた鎧は泥にまみれ所々が薄汚れている。無論拭き取れば元の輝く鎧に戻るがその時間はさすがに無い。
「なるほど……」
オルナイフが針を構えたと同時にトワイスもまたアスタロトと名付けられた弓をオルナイフに向ける。
「防御こそが貴様の強みであったな? ならそのHPはどう説明するのかね?」
「なっ!? ……いつの間に」
オルナイフのHPは8割ほど。だがこれはオルナイフの尋常ではない防御力からでは考えられないダメージである。
コウモリ型モンスターがオルナイフの首元からトワイスの元へと戻る。同時に土の中からオルナイフの足を鎧の上から噛み砕こうとしていたトカゲ型モンスターが土の中へと潜っていく。
「油断しすぎだ。我の足が無くなったと同時にコウモリに貴様の首元を狙うよう命令しておいた。……まあ首への攻撃に対してその程度であるのなら大した防御力ではあるがね」
「……俺の固有スキルはまだ発動したばかりだぞ」
「だからどうしたと言うのかね? 貴様と違い我は数多くの二つ名の持ち主と力の限り闘ってきた。多種多様の二つ名を見てきた。強大な力には必ず弱点がある。それを踏まえて貴様をずっと見ていた。だから気づいた」
トワイスはオルナイフの針をただ足に食らったのではない。トワイスの隙を伺うためにあえて食らっていた。
「先ほど土を蹴り上げていたのもだ。自らにもかかるような蹴り上げ方をしたな? 輝く鎧が一転、汚れた鎧となった。固有スキル発動後の行動は明らかにおかしい。そして威力が上がり我はこう考えた」
トワイスは矢を放つ。
オルナイフは矢を受けることはせずに避けようと身体を捻った。
「貴様の防御力はその輝き具合に比例しているのだと。そして攻撃力は反比例している。可能性の1つくらいで考えていたのだがどうやら当たりのようだ」
「……ならばどうする。アンタ自身の攻撃なら痛くもなんともねえぞ。今の矢だって全くダメージが無え! それにアンタ、あのドラゴンと悪魔にする固有スキル、未だに見せねえってことは使えないんじゃねえのか?」
かつてアスタロトであった頃の二つ名レベル10での固有スキル、『ストレイン・エボリューション』。
このスキルは今トワイスには使えない。
それもそのはず、トワイスは今プレイヤーボスではなく一プレイヤーとしてDNOをプレイするためにステータスの全てを消去したのだから。残ったのは『竜魔激突』とアスタロト、鎧のみであった。
今までのステータスを惜しいとは決して思わなかった。なぜならばそれはボスを演じる上での偽りの強さであったから。
今の強さは自分自身で磨き上げたもの。この強さでトワイスはかつて己を終わらせた者達にリベンジをしようと再びDNOを始めたのである。
「ああそうだ。今の我にはあのスキルは使えない。……使えないが、もう一つの固有スキルはある。そして、この弓をただの弓だと思うな! 『グロウアップ』」
トカゲ型モンスターとコウモリ型モンスターの姿が変わる。
「そもそもで我の固有スキルはこちらから始まったのだ。二つ名レベル5で覚えたこの固有スキルから。今の我にドラゴンも悪魔もいらぬ。ただほんの少し、強い配下がいれば良い」
人ほどの大きさであったトカゲ型モンスターは倍の大きさに、コウモリと同様の姿であったコウモリ型モンスターは手足が生え小さな悪魔のものとなった。
「我の二つ名はここから始まる」
あんまし宣伝とかはしたくないのですが……ちょっとやらしてください。
別で書いているバトルロワイヤル形式の小説があんまし閲覧されていないのでよければどうぞです。
能力バトルですので人によっては好きかなーってぐらいなので……
http://ncode.syosetu.com/n9123dx/
題材は動物です。今なんか話題になっているそうですね。動物の監督が。




