63話 ギルド『烏合乃衆』
「要するに、あいつの能力って回復魔法とかを攻撃魔法にしているってことでしょ?」
『聖水反転』マルガリタと『遠投石礫』セザンヌの闘いを遠くから双眼鏡にて見ていたプレイヤーが1人……いや、2人いた。1人はギルド『烏合乃衆』の副リーダーであるサン。まるでそれ自体が1つの武器であるかのように尖った雰囲気の彼女は氷のような美しさを持っていた。
サンが結論付けたのはマルガリタの使う魔法の属性。
魔法はその属性ごとに遠くから見えるエフェクトの色も違う。
火であれば遠くから赤く見え、水魔法であれば青色という風に、エフェクトの色が違う。双眼鏡などのアイテムを使えばさらに詳細な様子を見れるため、サンはマルガリタの使う能力の正体がおおよそ分かってきていた。
「回復系魔法は防御力なんて関係なく回復するからそれがダメージになろうものなら固定で固定のダメージになる。全回復魔法なんて使われたらHPが全損するってわけね。でも不思議ね。MPを回復している様子がない。ああいう魔法ってかなりのMP使うんだけど……あなた、分かる?」
と、サンは傍らにいた少女に尋ねる。
軽装に身を包んだサンとは違い、少女は装備らしき装備を身に着けていない。
10代半ばほどの少女はその見た目通りの服装をしている。
可愛らしいフリルのついたワンピースを着ているが、この場には似つかわしくない。
「分っかりますよー! もしかしてサン姐さんは分からないんですか?」
クスクスと、年齢に見合わない妖艶な笑みを口元に浮かべる。
サンは少女の性格を分かっているために特に苛立ちもしないが、
「……私の二つ名、使っておくかしら?」
「いやいやいや! ごめんなさいです許してください!」
サンが少女に触れようとしたところで少女はすぐに頭を下げペコペコと謝る。
触れようとした手のやり場がなくなったサンは仕方なくそばの木に手をかける。
「ええっと……あのシスターさんの能力は回復魔法を攻撃魔法にする。つまりは効果を逆にするって能力なんです。多分、これは解毒魔法なんかにも使えて、毒状態や麻痺状態にすることもできます」
「それは見ていれば分かることね。毒魔法や攻撃には耐性があれども解毒魔法には耐性なんてないから100%毒状態になるでしょう。……それで?」
「MPだってこれと同じですよ。他者にMPを分け与える魔法。確か僧侶よりも上位のシスターという職業でしたらできるはずの魔法です。他者にMPを与えるの逆、他者からMPを奪い取る魔法にたちまちの大変身ってことです」
どうだ、とばかりに少女はサンを見る。
「ああ、なんだ。そういうことだったの。なら別にいいわね。他者がそばにいなきゃ発揮できないのなら怖くもないし」
「それがそうでもありませんよー。ここ、モンスターがたまに出てきますし、あのシスターさんのMPは常に満タンだと思っていたほうがいいですね。さっき倒された人も当然、MPを奪われてるでしょうし」
常に全力を出せる。それは万全の状態で闘えるということで、PKであるサンにとってはあまり望ましい状況ではなかった。
プレイヤーと闘いたいという正々堂々とした闘いをするダラーク達のようなPKとは違い、サンはどちらかというとブラハやザッサーの闘い方に近い。相手の弱ったところを罠を張って待ち伏せ殺す。
卑怯であるが決して相手を見下したり油断はせず、絶対的に相手を殺すことを心掛けるサンは多くのプレイヤーを殺してきた。
「……ところで何であなたがいるのかしら、セラ?」
今更ながらサンは少女――セラに尋ねる。
ここにサン以外の者がいることに疑問を持ったわけではない。転送時には幾人もいた。誰かしらはこのフィールドに転送されてくるだろう。
しかし、
「あなたはこういうのに興味がないと思っていたのだけれどね」
セラは強い者にこそ興味はあれど、純粋な1対1の闘いを望む。どうしても混戦になりがちなこのような状況ではセラの望むような闘いはできないだろう。
「いやー、実はサン姐さん達のギルドに入れてもらおうかと思いましてねー。後は……さっき、あのシスターさんに殺されてしまったのでできれば復讐もかねてですかねー」
先ほど殺された。そうセラは言うが、実はこの状況ではそれは有り得ない。
『五行同盟』に殺された者は1週間のログインが禁止されるというペナルティが課せられた今、プレイヤー達は迂闊に『五行同盟』に挑めなくなってきている。
生き返るのは1週間後。それが今のDNOの常識なのだ。
しかし、その常識を覆すのがセラの二つ名であった。
強くはなれないが、彼女の二つ名は今の状況で最も強みを持っていた。
「まあ殺した私に一切の興味を持たずにさっさとシスターさんが行ってしまったために殺し返せなかったですけどね。それで、どうです? 私をあなたがたのPKギルド、『烏合乃衆』に入れてはくれませんかね?」
『烏合乃衆』はその名の通り、PKであれば誰でも入れるという比較的緩い基準を持つPKギルドである。セラはもちろんPKであり、入ることは可能である。
「しょうがないわね。その代りなんだけどあの女、私にやらせてくれない?」
基準は緩いが、それでも副リーダーが否と言えば入ることはできない。
それを聞いてセラは諦める。マルガリタを殺しに行くことを。
「しょうがないですね。どうぞあのシスターさんはお譲りしますよ」
「あら? 意外ね、てっきりギルド加入を諦めるかと思っていたのだけれど」
むしろ、そのつもりでサンはセラに問うたのだ。
加入が緩いからと言って、PKであれば全員が加入できるわけではない。PKは荒くれ者が多い。そのため、まずは副リーダーであるサンが加入希望者に最も嫌がりそうなことを強いて、それができるかを試すのだ。
今であればセラの復讐の邪魔。
サンはてっきりセラは復讐心が強いと思っていたのだが、そうではなかったようだ。
「だって、シスターさんよりもサン姐さんのほうが明らかに強いじゃないですか。それなら後でサン姐さんと闘わせてくれるならそれで大丈夫です!」
この混戦時でマルガリタと闘うよりも適切な場所でサンと闘うことをセラは選んだ。
また変なのがギルドに入っちゃったわね。そうサンは心の中で後悔した。もっと違う難題を課すべきであったと。
「そう。じゃあそろそろ行ってくるわね。あまり待たせるのもあの女に悪いし」
「私はここでしっかりとサン姐さんの闘いを見て弱点を探していますね!」
「それはあの女かしら? それとも私?」
「もちろんサン姐さんです! シスターさんの弱点なんかとっくに分かってますし!」
マルガリタを殺すことは前提でセラは話を進める。
「……せいぜい私を倒すのを頑張ることね。まあ私を倒せても剣客がいるからギルドで一番になれないけど」
「ギルドで一番強いのは剣客さん、ですかー」
サンが去った後、セラは1人呟く。
足元に転がる小石を拾い、先ほどまでサンが手をかけていた木に向け投げた。
グシャリ、と木がその原形を留められずに倒れた。その倒れ方は小石がとてつもない威力でもって折られたのではない。まるで当たった衝撃だけで倒れたようだ。倒れたというよりは崩れ落ちた。そう表現した方が正しいのかもしれない。
「私にとっては剣客さんよりもサン姐さんの方が遥かに恐ろしいんですけどねー」
木が崩れ落ちた原因であるサンの能力を思い出してセラは身を震わせた。




