62話 雄大なる存在
というわけで連続?投稿~
お爺ちゃんとお婆ちゃんの家に生えていた1本の木を思い出す。
あの時はお兄と木登りなんかをして遊んだり、葉っぱを千切って投げてたっけ。後からお父さんとお母さんに怒られたけど……お兄が。
あの木はお爺ちゃんとお婆ちゃんが生まれる前からあったらしてく、じゃあお爺ちゃんとお婆ちゃんよりもお年寄りなんだねって言ったら、それでもまだ人間の年にすれば若いんだよって笑ってた。
私が飛びついてもびくともしないその幹はお兄よりも遥かに地に足……じゃなくて根をどっしりと構えて私なんかとは比べ物にならないなって思わされた。
今でもお爺ちゃんとお婆ちゃんの家に行くときはその木を見上げているけど、身長は何時まで経っても追いつけない。まああっちも成長してるから追い付けないのは当然なんだけどね。
私は成長してるのかな? あんまし背は伸びてないけど……。
少なくても頭は良くなっているはず!
心の成長は自分では分からないや。人に言われて初めて成長したって思えるのかな。
あの時の、私の力ではびくともしなかった木。
そんなのがいくつもいくつも私に迫ってきた。1本でも私以上の力?強さを持っていた。2本なら私の2倍以上?
「『スラッシュバーン』!」
渾身の力を込めて剣を振るう。
あの時はびくともしなかった木。それと大差ない太さであろう幹はあっさりと、溶けかけたバターのように斬れていく。
「と、りゃあああああああっ!」
斬ることに問題はない。
木を斬るという行為に関して心がちょっとだけ痛むけど、モンスターだと思っておけば大丈夫。
というか、それを言うなら最初に闘ったモンスターって犬さんだよね? よく私闘ったなあ……まあ見た目のおかげかな。
きっと、木が柔らかいわけじゃないんだよね。
私が強く……私のステータスが上がっているおかげ。後は剣を使っているうちに慣れてきて技量が上がっているのかな。
ちらりと前方を見る。
竹田さんは無表情にただ木を操っている。そこには何の感情もない。……たぶんわざとだ。わざと感情を消しているんだ。
竹田さんだって苦しんで、無理をしているに違いない。やりたくてこんなことをやっているはずがないんだ。
きっと悩みに悩んで、悔やみに悔やんでここにいるはずなんだ。
「だから、私が止めてあげるんだ!」
剣をきつく握りしめる。
私は竹田さんに対して無表情に斬ることはできない。
あの日あの時、娘さんを必死に探していることを私は知ってしまったんだから。そんな人を無下にはできない。そんな思いを踏みにじれない。
竹田さんの志を私の思いで半ば斬り折るしかない。
幸いというか、私はすぐに死ぬことはない。
竹田さんの二つ名の能力はきっと木を操ること。本人も言っていたし。
木々が全方位から私を狙って伸びてくるのは恐ろしい。私の身体を串刺しにすることは簡単だろう。
だけど、竹田さんが木々を操るのならば私は剣を操る。
四方八方から木々が来るのなら、剣を四方八方で振ればいいだけ。
MPの消費は今のところは大丈夫。ほんの少しだけど、戦士のときよりはMPが多い。さすがは騎士だね!
竹田さんの木々は私の剣が止められる。だけど逆に言えば私の剣は竹田さんの木々を止めるのに精いっぱいだ。
今動かせるのは10本の剣。全て動かしても、一度に10本の木が伸びてくれば10本で対応しなくてはいけない。加えてあちらは10本どころではない。素早く斬り伏せなければ次が来るのだ。
なにか……なにかないかな。
新しく覚えたあのスキルは……駄目だ。こんな状況じゃ使えない。使おうとした瞬間に木々に身体を貫かれちゃう。
「じゃあやっぱり突撃するしかないよね! 『スイングスラッシュ』×10!」
剣を私の周りで回転させ、そのまま竹田さん目掛けて走る。
竹田さんの操る木々は剣に阻まれて私までは届かない。
「破れかぶれの突撃か。それはこの間見たよ」
私の視界が下へと落ちていく……その瞬間、私はその勢いに任せて転がる。
私のいた場所の真下から木々がいくつも生えてきたのを見て、その判断は間違っていなかったみたいだと安堵した。
「根っこの罠かー。竹田さん、意外と意地悪だね」
正々堂々と闘うのかなって思ってたけど、そうじゃなかったみたいだ。
まあ私が思い込んでいただけ。
竹田さんはただ勝つために全力なだけなんだ。
「意地悪か……君がそう思えたのなら君が私を善人だとでも思っていたということだよ。私は何だってやるさ。娘と会うためならばね!」
再びの木々の猛襲。
私は剣を動かし振るい、それらを斬り飛ばす。
「竹田さんが良い人かどうかなんて私には分からないよ……でもこれだけは分かる。竹田さんは悪い人じゃない!」
伸びてきた最後の1本を斬り伏せると私は叫んだ。
「竹田さんは娘を大事にしてる普通のお父さんだよ!」
竹田さんの手が止まる。
私はもう一回突撃する。
「……同じことを繰り返すのかね? 君はもう少し賢い子だと思っていたが……」
足元に木々が張り巡らされる。
さっきのよりも露骨に。これは罠だとはっきりと示すように。
「……やっぱり良い人だよ、竹田さんは」
私にもうこちらには来るなとそう言っているのだ。来れば貫くと、そう教えてくれている。
竹田さんはやっぱり私を殺したくないんだ。
だけど仕方なく殺そうとしている。
ここで私が退くのなら殺さない。最後の警告なのだろう。
だけど私は退かない。
竹田さんを斬るために進む。斬って止めるんだ!
「うりゃああああ!」
思い切って木々の蠢く地面へとジャンプする。
足が地面に着く瞬間、私の足の下に剣が滑り込む。私は足に力を入れて、剣を踏みしめて再び前へとジャンプする。
上から、左右から、そして下から伸びる木々は残りの5.6本の剣を頑張って動かせば十分だ。それよりも何本かの剣で足元に剣を浮かせて足場を確保する方が重要。
「前から来る木は私が直接斬っちゃえば大丈夫だもんね!」
そして、前方から伸びる木々は私の手で握る剣で斬っていく。だけどこれは少し危ない賭けだったりする。
「それは一手でもしくじれば即、身体を貫かれることになる悪手ではないかね?」
「そんなこと分かってるよ!」
分かったうえで私はこの闘い方を選んだのだ。剣に囲まれて安心なところから攻撃していても強くはなれない。それはアザリカさんとの闘いで学んだことなんだから。
普通に走るよりは時間がかかってしまったけどようやく竹田さんの下に辿り着いた。
最後の一歩。その一歩を斜め上にジャンプする。
「先ほどと同じ結末を迎えることになるぞ!」
下を見るがそこから迫りくる木々はない。……相変わらず木々が蠢くだけだ。左右は見ずとも分かる。多分ない。
残るは……
「上だけだよね! 『スイングスラッシュ』」
残る剣全てを頭上へ向け、スキルを放つ。
見るまでもなく、音から剣と木々がぶつかっているのがわかる。
これで残るのは竹田さんだけ。
私の周りには剣が1本も残っていないけど、まだこの手に1本だけある。
「『スラッシュバーン』!」
ようやく切り開いた道だ。ここで確実に倒さないと!
私の剣が竹田さんの身体に巻き付いている木々に食い込む。幾重にも巻き付いているけど、容易く剣は食い込んでいく。
そして、食い込んだだけであった……
「硬い……⁉」
今まで斬った剣とは手ごたえが違う。
途中までは硬いとは思わなかった。だが、その下に隠されていた木はまるで別物の硬さであった。
「種類が違うのだよ、種類が。木とはそれで1つの種ではない。しなやかさ、弾力、硬さ、成長の早さ……どの木にもそれぞれの個性というものがある。君の剣では斬れない木というものもあるというわけだ」
竹田さんの身体からいくつもの木々が伸びる。
「しまっ……⁉」
剣が抜けない。他の剣は真上にあったり足場にしていたりとすぐには戻せない。
貫かれる。そう思った瞬間、声が聞こえた。
「小娘よ、剣から手を離せ。そして退くのだ」
私と竹田さんの間に入ってきた男の人が全ての木々を斬り落とした。
ここで退いたら次いつチャンスが来るか分からない……でも今は言うとおりにするしかないのかな。
退いたところで男の人の武器が目に入った。
私の剣とは違う。このゲームを始めてから初めて見た武器。
「刀……」
「小娘よ、勝機と無謀を混ぜるな。今は勝機ではなかった、それは分かるな……」
「……うん」
今のは危なかった。この人が来てくれなかったら私は死んでいただろう。
「なればこそ我と組め。我の名は剣客。しがないPKの1人だ」
近いうちにこの闘いも決着つけましょう!




