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二つ名オンライン  作者: そらからり
2章 同盟者
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59話 火炎達磨

 俺は生まれついてから不幸なんじゃないかと思っていた。

 まず初めに俺の容姿だ。醜い容姿ならまだ良かった。それを理由に別の道――醜いという人から見れば劣っている面を使って人に取り入ることができたかもしれない。人よりも優れた容姿ならなおさらだ。だが、俺の容姿は良くも悪くも人の記憶に残りにくいような、ありふれた容姿だった。俺の顔を覚えてくれたのは両親くらいだ。


 身長も人並み。体重も人並み。知識も人並み。頭の巡りも人並み。記憶力も人並み。運動神経も人並み。強さも人並み。両親の経済力も家も性格も何もかもが人と違うことはない。

 人より優れたものはないし、人より劣っているものもない。才能もないし、何かを成し遂げる素質もないし、後世に残るようなカリスマのようなものはないし、努力をするほどやる気もない。何かをやりたいわけではなく、誰か以上になりたかった。誰か以下になりたかった。誰かと同じ、それが俺であった。


 友達といえるような存在は小学校中学校高校大学それぞれでつくることはできたが、どれも卒業してからは疎遠になってしまう。俺にとってはかけがえのない友達と思っていた彼らは俺のことを多数の一と思っていたのだろう。


 彼女と呼べる存在もいたことにはいただが、それもいつの間にか別の男と付き合っていたという俺にとっては最悪な状況で曝露され、やむなく別れることとなった。


 社会人になり、そこそこ以下の大学を卒業したことによりそこそこ以下の会社に入社し、そこそこ以下の給料をもらい、そこそこ以上の仕事をし、かなりの残業をして帰るという日常を繰り返して俺の頭からはいつの間にか人と比べるほどの余裕はなくなっていた。

 ともすれば人以上の働きで人以下の報奨をもらうことで、誰か以下になれたのだと思っていたのかもしれない。

 だが、俺はあるとき気づいた。気づいてしまった。そんな中途半端に不幸なやつらはどこにでもいることに。溢れるくらいにありふれていることに。結局、俺は人と同じくらいだったのだ。人と同じくらいに不幸だったのだ。


 そして俺が働き始めて2年目、仕事にも慣れてきた頃にあるゲームの存在を知った。

 『Double Name Online』、二つの名詞を組み合わせて自分だけの二つ名を得て自分固有の能力を得られるゲーム。

 すでにサービス開始から数か月経っていたようだが、まだ追い付けるだろうと俺は確信していた。このゲームに呼ばれたような気がした。ここなら、この世界ならお前は輝けるぞと。

 数か月くらいの遅れなんて俺の二つ名があればすぐに追いつき、それどころか俺がみんなを引っ張るんだと思っていた。

 俺は会社に出向き、全く使っていなかった有休を全て使い切りその足でDNOとVR機器を買うと自宅に帰り即座にログインした。ゲームは久々だけどここまで進化したのかと驚いた。


 だから、俺は自分を呪った。あんなに楽しみにしていたのがここまで崩れるならば、はじめから期待なんてしなければ良かったのにと。




「あなたの二つ名は『火炎達磨』です。その……頑張ってください」


 ゲーム内での名前は昔飼っていた犬の名前をそのまま採用してヴェルフと付けた。

 チュートリアルが終わった後に、ビギナーという美しい女性(AIというものらしい)は最後に俺をそう応援してくれた。そうか、やはり俺は期待されるべき存在なんだなと舞い上がってしまった。


 違和感を覚えたのはガラクサ平原というフィールドに降り立ってすぐ。熱さを覚えたのは辺りを見まわしてすぐ。痛みを覚えたのは歩き出してすぐだった。


「あつっ!? それに痛い!?」


 俺の身体は全身が炎に包まれているのではないかというほどの錯覚を覚えさせられるほど、暑くなっていた。いや、暑いどこではなく、むしろ熱い。


「なんで? なんでなんでなんで!?」


 チュートリアルでは攻撃を受けたことをすぐさま分かるように痛みは現実そのままにしたほうが言われてそうしていた。痛みなんて攻撃を受けなければいいだけのことだし、しょせんゲーム内での痛みだ。現実の身体に傷が出来るわけではない。そう思っていた。


「ぎぃ、ぎぃゃぁぁぁぁぁァァァッッッ!??」


 これは……本物の痛みだ。以前に指先をほんのちょっとだけ熱湯に突っ込んでしまったときよりも遥かに熱くて痛い。


「身体が燃えてる……誰か助けて……だ、誰か!」


 転げまわっても身体の火は消えない。そもそもなんで燃えているんだろう。俺はまだ攻撃を受けてはいないし、辺りに火があるわけでもない。


「そ、そうだ……ステータス画面で……」


 ビギナーが言っていた、HPやMPの状態、己の強さの数値が分かるステータス画面ならこの原因が分かるんじゃないか、そう俺は燃え盛る思考の中で思いついた。

 感覚のない指でステータス画面を広げて見ると俺のステータスには火傷、とステータス異常があった。


「や、やばい……俺のHPが」


 火傷は少しずつ俺のHPを削っていた。

 こんな序盤から嫌だけど、俺はやむなく薬草を飲み込む。

 口の中に広がる苦みとともに少しだけど、楽になったような感じがした。


「だけど、……まだ熱い。そうだ! 設定を変えればいいんだ!」


 そもそもで痛みをオンにしているからこの熱さがあるのだ。オフにすれば少なくとも熱さと痛みは消える。その後でこの火傷の原因をじっくりと探り、それの解決策をゆっくりと考えればいい。

 さっそく、痛みをオフにすると確かに熱さも痛みも消えた。身体に違和感はあるけれど、先ほどのような感覚はない。


「さて、何が原因だったんだろう……なんだこれは!?」


 ステータス画面の二つ名のところ、『火炎達磨』の説明を見るとそこにこの状況の原因があった。


『火炎達磨』LV1

 アクティブスキル:残りHPに応じてATKが上昇する

 パッシブスキル:自身のステータス異常を火傷にする


 しばらくゲームをやっていなかった俺とてパッシブとアクティブスキルの違いくらいは分かる。

 だから、この理不尽さもわかってしまった。


「効果は普通逆だろう! なんでパッシブスキルが火傷なんだ!」


 パッシブスキルは何もしていなくても、恒常的に効果があるもの。対してアクティブスキルは使おうと思ったときに効果があるもの。

 パッシブスキルに火傷になると書いてある。つまりは俺は常に火傷になっていなければならないということだ。

 俺は常にハンディを背負って闘わなければいけなくなったというわけだ。





 あれから一週間が経った。その期間を得て俺はようやく転職をできるまでにはレベルが上がった。

 常に一人で闘っていた。誰も俺とパーティを組んでくれない。当然だろう、俺は火傷であるから回復アイテムが必須。回復しなければ闘っていなくても死んでしまう。そんなお荷物は誰もいらない。

 闘ってはかろうじて勝ち、火傷で死に。生き返ってはアイテムを失って回復できずに死に。生と死を繰り返して少しずつレベルを上げ、薬草でかろうじて命を繋いでようやく初心者冒険者を抜け出すことができた。


「おっと、そろそろ薬草の時間だ」


 俺のアイテムボックスには限界まで薬草と下位ポーションが入っている。限界というのは持てる数ではなく金の問題であるのが悲しいことであるが……。


 次なる職業を選ぶ際に何にしたらいいのか、それは俺のこの火傷を負う二つ名を考慮しなければいけない。


「回復、かHPの多い職業にするしかないだろうな」


 選べる職業の一覧を見つつ、回復に関するスキルがある職業は5つってところか。

 吟遊詩人、僧侶、薬剤師、魔法使い、戦士が俺の絞られた選択肢だ。


 吟遊詩人は演奏によってバフやデバフを自分や敵にかけ、さらにはHPの回復までもできる。戦闘力はないから俺には厳しいかもしれないが、バフをかけまくれば闘えるかもしれないから候補の一つだな。


 僧侶は回復魔法というスキルを得られる回復特化の職業だな。こちらは吟遊詩人以上に闘う手段が消えてしまうから却下するしかない。


 薬剤師は薬草などのアイテムから様々な効果のあるアイテムをつくる職業だ。下位ポーションや解毒ポーション、さらには火傷を治せる薬もつくれるらしい。……俺の火傷はきっとこれでは治らないだろう。それにこの燃える身体では薬草を長いこと触ってはいられない。却下だな。


 魔法使いは多種多様な魔法からいくつかを自分のスキルに選ぶことができるらしい。回復魔法もあるということなのでそれと攻撃のできる魔法を選べば十分に闘えるだろう。優良候補だな。


 最後に戦士、か。これは以外だったが、戦士のスキルの中に回復魔法があったのだ。だが、仲間を回復させることはできず、自分だけしか回復することはできない。しかも、回復量は微々たるもの。MPも高くないため乱用できない。


「だが、気に入った。俺は戦士を選ぼう」


 受付の娘に戦士に転職する手続きをしてもらい、俺は晴れて戦士になった。

 他の候補、吟遊詩人と魔法使いを蹴ってまで戦士にした理由は2つ。

 1つはHPの多さだ。HPが多ければ火傷になったところでモンスターからの攻撃によるダメージを抑えられる。後はがんばってアイテムと魔法で回復すればいいだけ。

 2つ目は戦闘力の高さだ。戦士はATKやDEFのステータスが高い。これなら俺一人でも闘える上に、魔法が使えるならば仲間がいない俺でも大丈夫なはずだ。


「出だしからくじけてしまったが、とりあえず闘ってみるか」


 適当なクエストを選んでそのモンスターを狩りにいくことにした。

 まずは職業、二つ名のレベルを上げないと、だ。




 

 俺がDNOを止めなかったのは何もせっかくの有休を無駄にしないためではない。それならこんなゲームを売り飛ばして遊びに行けばいいだけのことなのだから。

 俺の目的は復讐だ。とはいっても、誰か個人に対して復讐するわけではない。俺の復讐対象はDNOのプレイヤー全てと言っても良いだろう。

 身体が燃えて俺が苦しんでいるときに俺を助けてくれなかった周りのプレイヤー。

 使えないからと俺のパーティ加入を一蹴したプレイヤー。

 HPが減っているからと寄ってたかって俺を殺しにかかったプレイヤー。

 火傷で焼けただれた俺のことを見て嘲笑ったプレイヤー。


 それら全てを見て見ぬふりをしたプレイヤー。誰も彼もが俺の復習対象。

 だが、今は力が足りない。


「どんなものでもいい。きっと俺はPKとでも呼ばれるのだろう。だが、それで名を残せるなら……それで俺の心が晴れるなら……」


 俺は今でも自分の身体を見るとはっきりとあの時を思い出せる。

 燃え盛る体。溶けていく衣服と皮膚。減っていくHP。そして痛みと熱さ。

 地道にレベルを上げていくことを選んでしまったけど、使えるものは全て使ってでも俺はこの二つ名と、俺の心と決着をつけたい。


「よろしい、ならば君に力を与えよう」


 そんな時に、あの方に俺は出会えたのだ。俺を強くしてくれた救世主。俺を誰よりも理解し必要とし、特別に扱ってくれたあの方に。

 どこからか聞こえてきた声。だけど俺は今更そんなことでは驚かない。俺の驚きはこのゲームが始まったときにすでに終わっていたのだから。

 声は俺のこれまでを全て見たきたかのように語り、そして慰めてくれる。言葉一つ一つが俺の心を溶かし、俺はいつの間にか声の前に跪いていた。


「君の二つ名は強い。それは僕が保証しよう。だが、それでも大人数を相手できまい。だから、僕が君を強化しよう! 狂化しよう! 凶化しよう! さあ、君の力を僕の為に役立ててくれ。」


 自分のレベルが強制的に上がっていくのを感じた。戦士のレベルが上限に達し、次の職業へと転職可能になる。二つ名のレベルが5を過ぎて固有スキルを覚える。


「これは……!?」


「さあ、そのスキルは君だけのもの。君が最強になるために必要なものだ。存分に振るって楽しんでくるんだ。君の復讐はこれから始まる」


 そして俺の身体の炎はさらに熱を増す。勢いも熱量も何もかもが。


「あづいあづい熱い暑い厚いあついあついあついあついあつい!!!!!!!」


 そして俺の意識はどこかへと行ってしまった。ただ強くなった実感と復讐心とあの方への忠誠心だけを残して。


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