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二つ名オンライン  作者: そらからり
2章 同盟者
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57話 聖水反転

夏コミ行ってきました~

 好きの反対は嫌い――でなく無関心という言葉がありますわね。

 では、嫌いの反対は何なのでしょう。





 私はいつもやりたいことをさせてもらえませんでした。

 遊びたいときに勉強をさせられ、勉強をしなければいけないときに遊ばされ。モチベーションはだだ下がり。やる気がないときは何をしても駄目なんですよね。

 私の性格が災いしたのでしょうか。私の引っ込み思案な性格が。積極性のなさが。周りの友人からは大人しいとでも思われていたのでしょうけれど、そんなことはありません。私の心の中はどろどろとした薄汚い感情がいつでも渦巻いていました。

 私に勉強を強いる両親にも無理やり遊びに連れ出す友人にも好感情と悪感情が混在したよく分からないものを向けていました。

 いえ、私だっていつまででも内側に籠っていられません。一度だけ勇気を出して自分のやりたいことをやりたいと言ってみたことがあったんです。


「……あの……その……ゲームというものをやってみたいです」


 勇気を振り絞ってみました。これが私のこの時の精一杯でした。

 ゲームが好きだったわけではありません。興味を惹かれたんです。

 自分の思った通りにキャラクターを動かせるなら主体性のない私にもできるんじゃないかって思ったんです。

 だけどやっぱり現実は残酷ですね。


「いいけど、もっと勉強を頑張って成績を上げたらね。そうしたら買ってあげる」


 両親はゲームもいいけど勉強もしてほしいと思ってのこの言葉だったのでしょう。

 だけど私はこの言葉で完全に冷めてしまいました。

 何に? ゲームではありません。ゲームに対してはまだやりたいって気持ちはありましたので。冷めてしまったのは周りに対しての関心です。これまでかろうじて吊り合っていた好きと嫌いが完全に崩れ去ってしまいました。

 好きでなくなったら嫌いになるかと思っていました。

 嫌いでなくなったら好きになるかと思っていました。


 好きと嫌いのバランスが崩れたらどうなったか。それは無関心でした。

 誰の言葉も私には響きません。

 誰の言葉も私には届きません。

 誰の行動も私には見えません。

 誰の行動も私には煌きません。


 他人の起こすアクションが私に与える価値はこのとき無くなっていました。


 もう現実は私に何も魅せてくれないでしょう。

 ゲームの世界……VRというもう一つの私を作れる世界ならきっと私の望むものがあるはず。そう希望を胸に抱いてDNOというゲームを始めてみました。


「これからのあなたの冒険を応援していますよ」


 そう女神のような方にも言われました。私に二つ名という力を与えてくださった女神様に。

 私の二つ名は『聖水反転』。能力は毒や麻痺と言ったステータス状態というものを反転させ回復状態にさせるというものでした。

 回復系の二つ名は応用こそし難いですが、どこでも重宝されるらしいです。

 私はこの世界で剣士になると決めました。前に出て仲間を守り、回復も自分でできる、そんな頼もしい未来像が見えていました。


 そして私を待っていたのはまたしても決めつけられた世界。


 私はめでたくも剣士に転職した直後、仲間を募集しているパーティーを見つけました。仲間に入れてほしい、その私の思いを知ってもらうために二つ名と職業を明かして。

 そこからは首尾よくちょうど回復ができる人を探していたみたいでパーティーに入れてもらえました。前衛が3人、後衛が1人という少しアンバランスなパーティーであったが、後衛を守る盾と剣が多いだけ。守る人間は多いに越したことはありませんからね。

 もちろん私も後衛の魔法使いを守るために新たに買った剣を腰に下げて小さめの盾を持って張り切っていました。ピカピカの鎧は私のこれからを応援していてくれるようでした。

 

 だけどやっぱり私は好きなように生きられないようですね。

 私がパーティーに加入したその日のうちに転職をするよう言われました。半ば脅すように、いえもうほとんど脅されました。私の二つ名は回復ができる職業でこそ輝けると。

 攻撃は足りているから後ろに行っててくれと。

 それが嫌ならばどこかよそのパーティーに行ってくれと。もっとも、どこのパーティーでも同じことを言われるがなと。


 私は何も言えないまま従いました。夢も希望も期待も未来も胸の中に仕舞い込んで私は虚像の笑顔で答えました。


「僧侶ですね。分かりました」


 買ったばかりの剣も一度も使わなかった小さめの盾もピカピカの鎧も全て売り払われ、代わりに杖を持たされローブを着させられました。何とも地味な格好です。

 だけど悲しいことに私はそちらの方がパーティーにとって有益でした。

 攻撃が空ぶっていた剣士よりも、確実に回復が飛んでくる僧侶のほうがどんなに皆さんに役立っていたのか、この時思い知らされました。


 毒や麻痺といったステータス異常を仕掛けてくる敵というのはまだ序盤ということもあって少ないですが、回復を専門に扱うというのはさぞかし味方にとって良いものなのでしょう。自分はHPが減ることを気にせずただ攻撃する。HPが無くなって死んでしまったら私のせい。さぞかし皆さん楽しかったことでしょう。


 私は楽しくなかったですけどね。


 回復しても褒められず、少しでもタイミングがずれれば罵声が飛んでくる。

 これの何が楽しいのでしょうね?


 またしても私から積極性が消え、毎日が灰色に染まり何も思わなくなりかけてきた頃。

 好きでなくなり無関心になりかけてきた頃。


 パーティーメンバーからアイテムの買い出しを命じられ私は1人でアイテムショップを回っていました。軽んじて見られていようが私が彼らの興味も関心もないならどうとも思わない。パーティーを抜けようかとも思ったけど他に行く当てもない。


「君は、強くなりたいかい?」


 回復ポーションとMPポーションを見ていると背後から声をかけられた。


「……どなたでしょう?」


 見た目は豹の仮面を被った男性。

 なぜだかは分かりませんが、これこそが運命だと思いました。


「君が言いたいことを言えない理由、僕は知っているよ」


「本当ですか? ぜひとも教えてほしいものですが……」


「それは君が弱いからだ。弱い人間には発言権はない。強い人間だからそれは皆に言葉として届く」


 つまり、私は弱いというわけだ。

 私に積極性がないのも、私の言葉が否定されるのも、私の行動の決定権を私が持っていないのも私が弱いから。


「そして、周りが強いから、でしょうか……?」


 それでしたら私はこれ以上何ができるのでしょう。

 私が仮に強くなれたとしても、周りの皆さんが強ければこれでようやく条件は対等。今まで弱者であった私が上手く強者を演じられる気はしません。

 成りたての強者と熟練の強者とでは強者としての質が違います。

 質が違えばそこでまた強者の中の弱者と成り果ててしまうのでしょう。


「いいや、本当の強者というのは他人を強制しない。強者は1人で完結するべきだからね」


 豹のお方の言葉に私は俯いていた顔を上げてしまいます。


「君に何かを強制していた人たちは自分でできないことを君にやらせていた。つまりは不完全な、強者ではないただの凡人だ。弱者ではないから他人から使われず、強者ではないから他人を使う。そんな劣悪で醜悪な凡人さ」


「でしたら私も強くなれば……せめて人に使われずに済むのでしょうか」


 豹のお方は私に手を差し伸べます。


「弱者であり続けた君であるからこそ強者になるべきなんだ。大丈夫、その力は僕が貸してあげるよ」


 私は豹のお方の手を握りました。それは冷たくもなく熱くもない。人の手でした。

 思ったよりも柔らかなその手は、強すぎない力で私の手を握り返します。


「君を弱者として使ってきた者達を今度は弱者にしてやりたいとは思わないかい? 僕の貸す力があればきっとそれは可能となる」


 繋いだ手からまるで力が沸き上がってくるような感じがします。いえ、実際に経験値やアイテムが送られてきているので強くなっているのでしょう。


「想像してみるんだ。例えば君の今のパーティー。君を見下しているけど、君がそれを力でもって蹂躙する様を。君が強者となって1人でパーティーを壊滅させるんだ」


 想像してみました……まずはあの魔法使いからですかね。同じ後衛なのですが、私の方がMPを使ってないから回復役はいらないと言って取り上げられました。


 そして前衛の三人……最初こそ笑顔で接してきていましたが段々と私を機械のように扱い始めました。ただ回復するだけの存在として。

 いつかの酒場で3人だけでいるのを見てしまいました。あの僧侶は回復しか能がないが回復だけはそれなりだ。一生使い潰してやる、と。

 

「私にできるのでしょうか……」


 想像はしてみましたが、どうあがいても彼らに勝てるビジョンは浮かび上がりません。

 だって、いくらステータスが上がろうとも私は回復しかできないんです。回復力が上がろうとも攻撃する手段がないです。


「ふふん、そこで僕の貸した力だ。二つ名もレベルが上がっているから見てみるといい」


「ええと……二つ名ですか」


 私の二つ名は回復専門のはず。レベルが上がると固有スキルというものを覚えられると聞きましたが、回復スキルと覚えたところで……。


「これは……!?」


「それが君の固有スキルだ。それがあれば君は闘える。弱者には勝てるし、凡人には負けない。その上強者とだって渡り合える。僕と一緒に来てくれるね?」


 私の力を必要としてくれているのでしょうか。

 私を利用とするのではなく必要とする。

 それはどんなに嬉しいことでしょう。


「最後に、君の名前を君から教えてくれるかい?」


「はい。私は、私の名前はマルガリタです」


 いつかテレビで見た聖女の名前。

 今こうして修道女という職業をやっているとは奇縁ですね。


「そうか。よろしくマルガリタ。君の力、期待しているよ」


 初めて名前をこうしてちゃんと呼ばれたかもしれません。

 これだけで私はこの人に尽くそうと思えました。


本当は竹田さん視点の話書いてここで投稿したかったんですが、諸事情あって後回しに…

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